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ポーランドからのアンチわいせつアート!

中沢あき2016.06.03

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 毎年5月、ドイツ西部の小さな町、オーバーハウゼンでは、オーバーハウゼン国際短編映画祭が開催される。今年で第62回目の開催となったこの世界最古の国際短編映画祭に、私も関わるようになって早10年。この映画祭、ドイツの映画史/文化史にも名を残す重要な文化事業でもあるのだが、他の映画祭と何が違うって、とにかく上映作品が個性的であること。他では見られない刺激的な作品が多く上映される中で、あ、これ、ぜひラブピで紹介したい!と思った、とある愛嬌とユーモアに溢れる短編アニメ作品を今回はご紹介。

 インターナショナルコンペティション部門の上映会場は、客席数350を超える映画館。その大きなスクリーンにぱっと現れた作品タイトルは、ポーランド語で「Cipka」。その下に出た字幕の英語タイトルの「Pussy」に、観客から笑い声が上がる。冒頭からいきなり「オンナのアソコ」かあ。なんてストレートなタイトル…。

 そんな強烈なタイトルの後に始まったのは、シンプルな線画で描かれたアニメーション。部屋の中で、そこの住人らしい若い女性がおもむろに服を脱ぎ始める。素っ裸になった彼女、ソファに横たわり、自分でアソコを撫で撫で…、ウットリとした顔で独りの愉しみを始める。次はバスルームに移動してキャンドルに灯りをつけ、ロマンティックなムードでお湯につかりながらアソコを撫で撫で。リラックスしながらお一人様の世界を愉しんでいる彼女の様子に、客席のあちこちからクスクスと笑い声が上がる。
 しかしそんな彼女を、向かいの建物から覗き見る男が…。男には気づかずに彼女が自分のお愉しみを続けていると、あらなんと、そのアソコに目や口が現れ、ヘンテコな生き物となって本体から飛び出していってしまうのだ!手や足まで生やした体中が剛毛だらけのこの子(と呼びたくなるような愛嬌のあるアソコなんである)、ビックリしたままの本体をよそに、自分でヘアブラシに体をスリスリと擦り付けると、本体の彼女は気持ち良さでまたウットリとなるし、うっかり刺だらけのサボテンの上に落ちて、キャン!と叫んで飛び上がると、本体も痛さに涙を浮かべ、と、もう主役はアソコ、本体は振り回されっ放しだ。うーん、これって、体と理性は別ってことのメタファーかしら?
 そうこうしているうちに、向かいの変態男が彼女の部屋を訪ねてくる。すわ、オンナの危機!ところがドアが開いて男を迎えたのは、怪物のように巨大化したアソコ。ガオーッと猛獣のような唸り声で飛びかかられた男は、恐れをなして階段を転げ落ちるように逃げていく。男が去ったのを見届けたアソコは再び元のサイズに戻り、チョコチョコと歩いて、本体の彼女のところに戻ってくるのだった。

 たった8分間という短い時間で描かれたこの短編アニメ作品。体と理性の分裂のメタファーや、今時の女性の自立や強さ、男を必要としない性など、色々に読み取れそうなテーマが詰まっている一方で、さらりとそれらを描く自然体の軽さがいい。
 監督は、ロマン•ポランスキーやアンジェイ•ワイダ等の著名な映画監督たちを輩出してきたポーランドのウッツ映画大学に在学中の、20代半ばの若い女性。学校の課題作品として作った作品なんだそうだ。
 上映後の質疑応答で彼女曰く「女性のマスターベーションについての作品を作りたい,と言ったら、教授たちは皆驚いていたけど…、でも私は自然で当たり前のことだと思ったから」というのが制作の動機だそうだ。
 そのサラッとした物言いも潔くていい。上映後に話しかけたら「日本のアニメ、特に山村浩二*が好きなの!彼の描く世界観に影響を受けたわ!」と目をキラキラさせて話してくれたキュートな彼女。そういえば数年前、同じこの映画祭で受賞したポーランドのアニメ作品の監督も、松本大洋に影響を受けた、って言ってたなあ。日本のアニメやマンガが世界中で人気を集めているのは知ってるけど、メジャーな名前を出してこないところに、ポーランドのアーティストって物凄いユニークなセンスを持った人が多いのかしら?なんて思う。嬉しいな。

 今回この記事の為に彼女にメールで改めて連絡を取ったところ、更に意外な日本ネタのエピソードが返ってきた。この作品を制作中の時、日本でも同じように作品を作っている人がいることを知り、私は頭がおかしいわけじゃないんだわと勇気づけられた、のだそう。そして日本にもポーランドと同じように、「アンチわいせつ」の法律があったり、フェミニズムや女性の性について大きな問題があることも、きっとこういう表現に私たちを向かわせるのかも、と。

 ポーランドは最近、現政権がメディアに対する言論統制を強めていて、国内外から批判や反発が強まっている。彼女曰く、この作品は小さな学生作品なので知られていないせいもあるのだと思うが、今のところは問題はないとのこと。でもこれが国内の大きな映画館で上映されるようなことがあったりすれば、問題はまた別だ。
 ポーランドはとても個性的かつレベルの高い技術や文化を輩出してきた国である一方で、カトリックに基づく保守が強い社会でもある。でもそんな中で彼女のような、女性または一人の人間としての真摯で大らかな表現をするアーティストが若い世代から出てくることは、きっとその社会を変えていく一つの力になる筈。
 そしてテレビや劇場などのメジャーな場でなく、短編映画祭のようなアンダーグラウンドでも、また国内だけじゃなくて世界中でそんな表現が発表されることは、国を越えて私たちを気づかせ、勇気づけ、分断されそうな世界を繋げていってくれるのだと思う。だから、コマーシャルでもメジャーでもないアートや文化って面白いのよね!大らかで勇気のある表現を見せてくれたこの監督の今後にグッドラック!

*「サティの『パラード』」「頭山」など、世界各国の映画祭で上映•受賞多数、またNHK子供番組で放送されたアニメ「パクシ」や大同生命、ハウスなどのCMでも知られるアニメーション作家。

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© Renata Gąsiorowska / Szkoła Filmowa w Łodzi
その作品「Cipka/Pussy」の一コマ。監督のRenata Gąsiorowskaは、クラクフ国立美大で学んだ後、現在はウッツ映画大学に在学中。台詞も一切無しの脚本ながら、このテーマを真摯かつユーモア添えて描く監督力に、今後の作品も期待!

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© Renata Gąsiorowska / Szkoła Filmowa w Łodzi
本体から離れた「アソコ」ちゃん。なかなかキュートです。

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中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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