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TALK ABOUT THIS WORLD ドイツ編 さようなら、ドイツ

中沢あき2025.11.11

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ドイツの秋らしく、冷たい小雨や曇り空が続いて寒い日々の頃、ニュージーランドにいる友人からメールが来た。

「耕しておいた畑にこれから種を巻くんだ。いろいろな野菜を作ろうとしてるから楽しみ!」

そうか、あちら南半球はこれから春夏になるんだっけ。半年ほど前、ドイツ人の妻と子どもたちを連れて、かつて住んでいたニュージーランドに移住したその日本人の友人は、お金はないけど、まあなんとかなるっしょ、と楽しそうだ。十代の終わり頃から日本を出て、長年、あちこちの国を旅したりしながら生きてきたたくましい彼だから、本当になんとかしてしまうんだろうな。引っ越す前に移住の理由を尋ねたら、うーん、もうドイツは嫌だな、というか、こっちの子どもたちを見てるとさ、なんか顔が明るくない気がするんだよなあ、と言っていた。

同じ頃、我が子の幼稚園時代の友だちの一家もドイツを離れていった。両親そろってモロッコの出身で、最初の移住先のスペインで長男が生まれ、その後ドイツに移ってきて我が子の友だちである長女が生まれた。スペイン語はもちろん、ドイツ語も話せるそのママ友は郵便局で働いていたが、「夫が新しい仕事をスイスで見つけたの」と言ってスイスへ移っていった。ドイツの小学校は休講が多い、とやや呆れた感じで話していたそのママ友に「スイスは環境が良さそうね、おめでとう!」と言った私は当時、保育士不足の理由で起こる保育園の閉園の頻繁さに心底うんざりしていた。

先行きが怪しいドイツから出ていくのはかしこいかもね、と彼らを見ながら思った私も振り返れば、メルケル政権の時にメルケル元首相の後継者として登場した現首相のメルツ氏の主張を聞いて、この男が首相になったら私はドイツを出るわ、なんて言ってたっけ。その時メルツ氏は後継者争いから脱落したのに、再び復活して本当に首相になってしまった。極右とさして変わらない対外国人政策は今後どこまで現実になるのだろう。最新の報道では、ドイツに関わる仕事をしていたアフガニスタン人たちの難民申請を拒否し、第三国で難民申請の受理を待っている彼らに帰国の準備金を渡すという政策を提案しているのだそうで。これは確かに「見捨てられた」と思うよね。

そんなことをぼんやり考える私に、ブラジル出身の友人が訊いてきた。この先、ドイツを出よう、と考えたりすることある?だとしたらどこへ行きたい?僕はやっぱりブラジルかな、と言うから、ブラジルは治安が悪いんじゃないの?と訊いたら「身を守る方法は自分の故郷だから知っているし、何よりもあの国は自ら戦争をすることはないと思うんだ」

その返答の意味するところはつまり、ドイツでは今後戦争が起きる不安がある、ということだ。同感。子どもを持つ親の立場としてはこの不穏な気配はどうしても気になる。別の友人一家も、子どもの教育を考えて別の国へ行くことも検討していると言う。

そういえば、以前のコラムに登場したジョージア出身の女性はこんなことも言っていた。「皆、移民のことを非難して出ていけとかいうけど、そのうちに外国人自らがどんどんこの国を離れていくわよ!」さらには遡って2年ほど前だったか、特急電車の中で偶然話を交わした、在ドイツ歴20年以上で翻訳業から転身して美容ビジネスをしているというアルジェリア出身の女性も全く同じ言葉を口にしていた。その彼女らの言葉に頷いていた私だが、事実、夏頃にこんな報道を目にした。

今年に入って行われた調査の結果、ドイツにいる移民の約25%がドイツ国外へ移ろうとしている、またはそのことを考えている、という数字が出たのだ。4分の1という数字はなかなか高い。そしてこれはもっと増えていくのだろうと思う。さらに別の報道では移民のみならず、2010年にはドイツ国外へ移住したドイツ人は約14万人だったのが、2024年には約27万人とほぼ2倍に増えている。その内訳も、半数以上は25歳から49歳と働き手世代だそうだ。

各業種の慢性的な人手不足がどんどん深刻化する中、政府が自らベトナムやインドを訪れて、ドイツに働きに来てほしいとスカウトに出かけている一方で、外国人は出ていけと叫ぶ人たちがいる。移民や難民による犯罪が起きれば、そのことだけに目を向けて外国人は出ていけと言う。極端な排外主義者や差別主義者はどこにでも一定数いるものだけど、彼らの叫びに煽られて、大衆までもが自分の不満をそちらに載せていっているように見える。が、移民と難民は違う、さらにその中でも犯罪者は帰ってほしいが、この社会に適応するならぜひどうぞ、と言うのがドイツの多くの人の本音だろう。差別は良くない、反移民主義もよくない、と訴える背景にも、それはヒューマニズムだけではなくて、これまで自国人がやらない、またはやれなかった仕事を外国人に頼ってきてこれからも彼らの存在なしでは今までの社会や生活が成立しない事情だってあるのだから。

でも移民の立場としては、この社会に適応できたとしても、元々のアイデンティティを持ち続けることは当然であり、例え過激派の言葉が直接自分に向けられたものではなくても、その声が聞こえる環境に生きるのは当然ながら居心地のいいものではない。ましてや、この社会に貢献してきたのに働けなくなった途端にお荷物扱いされるのは、人間としての尊厳を傷つけられる。この社会に受け入れてもらった以上、社会福祉を受けるのは彼らの権利なのに。そんな居心地の悪い、さらには経済が不安定な社会に留まる理由は移民にはない。

自分は果たして移民なのか?と言う自問があるものの、この国において私は移民の数の中に含まれているはずだ。面と向かって出て行け、と言われたことはないけれども、そして日本人に対するリスペクトがこの国にはあるのはわかっていても、複雑な気分になり、住む地について疑問が湧くのは私だって同じだ。

外国人は出て行け、と叫んでいる皆さん、そんなに心配しなくてもいいですよ。ドイツも日本もこれから下り坂になる未来しか見えない現状で、いざとなったら先に逃げることができるのは外国人なのだから。自国を壊しているのは外国人ではなく、それに至るまでの状況を作り出した自分たちに一番責任があるのだと自覚せねば、とこの二つの国を見ながら思ったりする。

つい先日訪れた、ライプツィヒ郊外にある諸国民戦争記念碑(Völkerschlachtdenkmal)
壮大な建築の建物は、1813年のナポレオンとの歴史的な戦争「ライプツィヒの戦い」 (諸国民戦争)で命を落とした11万人以上とも言われる兵士たちの追悼碑です。翌日に訪れたドレスデンの空爆の話といい、歴史に何度も何度も出てくる戦争の話を聞きながら、いったい人間は何を学んできたんだろう、と呆れるというか情けなくなるというか。歴史上に残るこうした壮大さに目を奪われながらも、どこか虚しさを感じてしまうのは、それが過去の物語ではなくて現実になりつつあることを感じるからなのかもしれません。

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中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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