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年末の風物詩

中沢あき2016.12.09

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 11月の半ばくらいから、町のあちこちの広場で屋台の設営が始まる。中世の家を象った、お菓子の家みたいな可愛らしい屋台。11月の最終週から始まりクリスマスイブの午前中まで続く、クリスマスマーケットの設営だ。ちなみにクリスマスマーケットと英語で日本には浸透しているが、本来はドイツやオーストリアなどのドイツ語圏の習慣で、ドイツ語ではヴァイナハツ•マルクト、と言う。私も割と最近まで、欧州のどの国にもある習慣なのかと思っていたら、そうではないらしい。とあるクリスマスマーケットに行ったとき、たまたま隣り合わせて話が弾んだカップルはロンドンからやってきたそうで、彼女の誕生日祝いにケルンのクリスマスマーケットを巡る1泊旅行に来たんだとか。あれもこれも素敵と目を輝かせて、毛糸編みやフェルトのハンドクラフトの帽子や手袋を次々試している彼女の隣で、苦笑しながら彼は言っていた。イギリスにはこんな素敵なクリスマスマーケットなんてないんだよね、せいぜいデパートのデコレーションくらい。

 へええー、知らなかった。思えば確かに、スペイン語やらフランス語やら、ドイツ語以外の言語があちこちで聞こえる。そっか、これを楽しみに来ているのは、地元の人だけではなかったらしい。そんなクリスマスマーケット、何が楽しいのか、といえば…。

 まずお買い物編。定番は、クリスマスのデコレーションに使う木製やガラス細工のオーナメントや人形。有名なくるみ割り人形もここで買える。それからお財布やバッグなどの革製品。ニットやフェルトを使った帽子や手袋やマフラー等。半貴石やガラスを使ったアクセサリーや置物も人気がある。他にも昔ながらの蜜蝋のロウソク、木製のカトラリーや台所用品が売られていたり。それらの大方はハンドメイドで素朴な造りのもの、値段も手頃で、自分用に買う人もいれば、クリスマスプレゼントにもお勧め。ここには近隣だけじゃなく、離れた地方の職人や業者が売りに来ていることもある。彼等にとっては、クリスマスマーケットは大きな稼ぎ時なのだ。
 そして食べ物編。飴掛けをしたナッツやヌガー、スパイスの効いたケーキやクッキー等のクリスマス菓子は、家でゆっくりと何日もかけて味わえるように(といっても結構な早さで消費されるが…)、日持ちのするどっしりとした甘さ。クリスマス当日だけじゃなくて、クリスマスを迎えるまでの間も日々、こういうお菓子を楽しむ。外気で冷えた体をその場で温めるには、ドイツ語でグリューワインというホットワインや、ライベクーヘンというじゃがいものパンケーキ。お馴染みのソーセージやワッフルなどの甘いものもある。私がいつも必ず食べるのは、このライベクーヘンともう一つ、ダンプフヌーデルンという、餡抜きの中華まんじゅうのようなほかほかの蒸しパンに甘いバニラソースやフルーツソースをかけて食べるもの。どれも脂たっぷり、甘さたっぷりだが、この寒さを乗り切るには必要なカロリーなのだという言い訳を唱えつつ平らげる。そんな食べ物をつまみ、ホットワインを啜りながら同伴の家族や友人たちとお喋りし、ライブ演奏されるクリスマスソングを一緒に口ずさんでみたりする。

 と、なんとも素朴な冬の伝統であり、家族が集まるクリスマスという行事を待ち構え、寒く暗い日々を数えながら楽しんで過ごす、そんな時期の風物詩なのだ。家族連れでぶらつく感じや、時節柄のものが売られている様子なんかは、日本でいえば正月市みたいなものかもしれない。甘酒を飲んで、たこ焼きや焼きそばをつまみ、特に必要じゃないけど雰囲気で羽子板を買ってしまうような、そんな感じ?

 そんな伝統的なクリスマスマーケットも、時代を追うごとに進化しているらしい。各広場のマーケットごとに特徴があって、とある所は中世の雰囲気をそのまま残したような店並びの一方で、他の所はもっとモダンで、売っている品も食べ物もアジアやアフリカのテイストを混ぜたエスニックなものがあったり。売り子さんの顔立ちにアジアやアラブ、アフリカ系が混じるのも、今時ならではだ。私は見たことがないが、最近では日本のたこ焼きやお好み焼きなんかの屋台もあるらしい。ドイツの社会がどんどん多様化していることは、こんなところにも表れてきているのだ。

 そんなドイツの伝統であるクリスマスマーケット。その裏攻略法を聞いたことがある。とある知人家族の楽しみ方といえば…。

 うちはね、24日の夕方、クリスマスマーケットが終わるギリギリに行くの。そうすると、売れ残ったお菓子だとかをくれるのよ。まけてくれるんじゃなくて、どっさりくれるの!で、更にはね、捨てられる寸前のクリスマスツリーもね、貰うのよ。その側をうろついて、いいなあー、すてきー、とか言ってると、持ってっていいよー、ってなるのよ。で、子供たちと一緒に大きなツリーを家まで引きずってくるってわけ。だから我が家のツリーはすごい立派よ!

 うーん、なんて経済的かつ合理的。尚かつその家族が豪快なのは、通常ツリーは年明けの第1週を過ぎた頃に捨てるのだが、その家では3月くらいまで飾っておき、そして冬の寒さも緩み始めた頃に川岸へ引きずっていって、そのツリーを燃やしてピクニックをするのだそうだ。皆でたき火をするのよ、我が家の楽しい伝統なの!

なるほど、これも多様化した伝統の一つかな…!?


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© Aki Nakazawa

中世の街並が現れたような雰囲気です。ちょっとしたテーマパークみたい。

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© Aki Nakazawa

クリスマスのオーナメントやお菓子のお店。

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© Aki Nakazawa

このお店はエスニックテイストの品揃え。売り子さんはインド出身、スカーフを被ったお客さんはイスラム圏の方と、現代のクリスマスマーケットは他の文化も入り混じるものなのです。

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© Aki Nakazawa

サンタ帽を被ったおばさまたちの女子会はとっても楽しそうです。

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© Aki Nakazawa

冷えた体をホットワインで温めれば、この笑顔。陽がたっぷり射していますが、このときの気温はなんと1度。恐ろしく冷たい風の中、ホットワインがよく売れたことでしょう。

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中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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