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新年の青空

中沢あき2017.01.16

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 遅ればせながら、新年あけましておめでとうございます。皆様はどんな年末年始を過ごされたでしょうか?私は今回、年末年始は東京の実家に夫共々居候し、大晦日は鎌倉へ行って大仏を拝み、初詣の人混みを撮影したい!という夫に付き合って、夜中の明治神宮で数時間寒さに震えながら新年を迎えました…。
 元旦の昼には両親や夫と共に初詣にもう一度出かけたのだが、外に出るときれいな青空が広がっていて、なんとも晴れやかな元旦だった。そう、これこれ。東京の(正確には太平洋側の、だが)お正月の醍醐味はこの青空だ。大抵、雲一つなくきれいに晴れ上がって、新年から幸先いい感じのお天気。心もぐっと明るくなる。東京に暮らしていた頃はこれが当たり前だと思っていたが、ドイツに住むようになってから、この青空がどれだけ美しく素晴らしいものかとしみじみ実感するようになった。
 ドイツの新年は暗い。冬の家族行事は正月よりもクリスマスなので、新年は友人たちと賑やかに過ごす人が多く、年の切り替わりには町のあちこちで花火が上がり、知らない相手だろうが、周りの人と口々におめでとうと言い合っては、食べて飲んで騒いで楽しく迎える、というのが習わし。  夫に言われて気がついたが、確かに日本の年明けは静かだ。除夜の鐘が厳かに鳴る中、家族や親しい友人たちと神社に向う。もっとも渋谷のスクランブル交差点は歩行者天国となって大騒ぎだったというから、そこはだんだんと欧米の習慣に近づいているのかも。静かに年明けを迎え、夜が明けて初日の出を拝み、そして真っ青に晴れた空の下で羽根つきなど、という日本の正月に比べて、ドイツは年が明けた後も夜が長い。そして夜が明けた翌日も、どんよりと曇り空で暗い。真冬のいつもの天気が続く。そう、正月というより、ドイツの冬そのものがとにかく暗いのだ。
 例えば私の住むドイツ中西部の12月の日照時間は平均して40時間。平均166時間ある東京の実に4分の1だ。緯度が高いので日照時間も少ないわけだが、加えて秋から春先にかけては、晴れる日がとても少ない。曇りや小雨の天気がひたすら続く。周りのドイツ人に言わせると、寒いのはまだいいのだそうで、暗いのが心身に堪えるという。同じ寒さでも雪が降れば、白い雪に跳ね返る光やその非日常感で気が紛れてましだけれども、それもなくとにかく曇り、というのが辛いのだそうだ。日照時間や日照量が少ないと、ビタミンDの不足による病気や鬱病など、本当に心身に異常をきたすから、ドイツの医者は寒い冬でも毎日散歩に出るなど、とにかく陽に当たることを推奨する。  かくいう私もドイツ生活が数年になる頃から、だんだんわかってきた、なぜドイツ人たちがそんなに日光浴や散歩を好むのかが。いや、本当に気持ちが落ちるのだ、これ。これがひどくなったらそりゃ病気にもなるだろうよ…。ドイツの緯度でもこうだから、北欧なんて行ったら私は生きていけないと思っている。以前、北欧ブームが日本であったとき、北欧の某国に住む日本人のブログにはこうあった。「移住を考えていらっしゃる方へ。まずはこの天候を知ってから、よくお考え下さい」。だからマリメッコを始めとした北欧デザインがなぜ明るくてポップな造りになっているのか、なぜドイツ人がインテリアに拘るのか、よくわかる。それはこの暗く長い冬を生き抜けるように、そして暗い部屋の中に居ても心を元気にする為の対策でもあるのだ。
 そんな国から来ると、東京の冬は本当に明るい。東京の冬だって日は短いわけだが、それでも快晴が続くこの天気は本当に嬉しい。関東平野を吹く空っ風でやられる手の乾燥はちょっと辛いけど、そのお陰で快晴が続いてこんなに太陽を浴びられるのは有り難いと、北国からやってきた身ではしみじみ感じる。新しい年のスタートに突き抜けるように真っ青な空を見上げると、さ〜あ、今年も頑張るぞお、と歩く足取りにも力が入る。2016年は公私共に、ふわふわ迷うような年だった。世界を見渡しても、ますます人の心が不安定になるような出来事が続いている。年末日本に帰ってきて街を歩いても、東京の真ん中を歩く人々の目が、いったいどこを見ているのかわからないような感じで、心が寒くなるときがあった。だからこそ、元旦に家族でお節を囲み、賑やかに笑いながら新年を祝うという、当たり前と思っていた時間がありがたく思えた。青い空の下でも、灰色の空の下でも、心身共に健康で暮らせるということのありがたさ。そのことを、東京の青空の下で思った。
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© Aki Nakazawa
近年日本に帰るたび、どうもネガティブなことばかりが見えてしまったりするのですが、それを年明け早々に書くのも縁起悪いなあと思い、青い空に希望を込めてみました。日本も世界も心が落ち着かないニュースが続く中、私達のささやかな日常の幸せを守っていけますように。今年もよろしくお願いいたします。
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中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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