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家庭問題を国会に持ち込むな

中沢あき2017.09.29

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遠くから見てて、ため息が出る。ここドイツはこの週末の国政選挙の話題で持ち切りで、各政党のマニュフェストの分析の報道が続く。難民問題やデジタル化、経済対策やら社会保障対策やら、という言葉が並ぶ一方で、日本を振り返れば、目に入る言葉は「不倫」。芸能人のゴシップじゃない。政治の話で話題が「不倫」である。情けない…。

政治家、国会議員の不倫報道はこれまでにも何度もあって、その度に報道や国民の視点はそっちに向き、それまで討論されていた政策の問題や犯罪か否かの議員の問題もかき消される。でもちょっと待て。国会は個人の恋愛問題や家庭問題を議論するところじゃないんだよ。一緒になって揶揄している人たちは、そこに自分たちの税金が使われているってこと、わかってるのだろうか。そんなことよりもっと大事な国政の問題は山積みで、そして議員資格がどうこう言う問題なら、どうして賄賂や公金詐欺などの犯罪になりえる話はいつもうやむやになるのだ?与党をなんとか揺さぶりたいゆえに、そこに論点を持ってこざるを得ない野党も揃って情けない。フリンよりモリカケ、でしょ?

今年の3月まで4年の任期を務めたドイツの大統領、ヨアヒム•ガウク氏が就任した当時にちょっと話題になったのは、そのファーストレディが事実婚の相手だった、ということだ。それも単なる事実婚ではない。ガウク氏は既婚であり、まだ戸籍上婚姻関係にある妻がいるままその相手と事実婚を続けており、そして大統領就任後、表舞台にファーストレディとして出てきたのはこちらの女性だった。なぜ事実婚の相手が長年いながら別の女性と婚姻を続けるのか、その裏事情には皆興味はあったかもしれないが、そのことが表立ってスキャンダルと騒がれることも、探られることもなかった。理由は簡単だ。だって、他所の家庭のことだもの。個人の問題は政治とは関係がないからだ。でも日本だったら、これは「不倫」として大騒ぎになるのだろうか。ちなみにガウク氏、政治家になる前の職は、プロテスタントの牧師である。

そういえばお隣フランスの前大統領、オランド氏も在職中に女優との不倫が暴露されるというスキャンダルがあったが、失職することはなかった。それを日本のメディアは、フランス文化は恋愛、不倫に寛容だからと書き立てたが、それは違うと思う。不倫も浮気も、当人やその家族にとっては様々な感情や事情があるだろうが、それでもあくまで個人の問題であり、他所の家庭のことである。普段の友人付き合いの間でも、個人の問題とは切り離して人間関係を続ける人が多い社会だ。ましてやそれが政治という公の場になれば、政治と政治家の個人事情は別問題であり、有権者の私たちの生活と彼らのプライベートは全く関係がない。そんなことより、自分たちの生活に直接関わる政治をしっかりやってくれればいいのである。

更に言えば在職中ではないけれども、現仏大統領のマクロン氏のなれそめは、彼が十代の時に出会った年上教師との不倫だったわけだし、現独首相のメルケル氏は再婚同士、そして彼女のメルケル、という氏姓は前夫のものをそのまま名乗っている、という、これまたおそらく日本だったら保守系メディアに叩かれそうな履歴だ。

政治家だって一人の人間、プライベートでは個人の事情がある、という了解が皆にある、ということだろう。とある日本の記事では比較として、ロシアのプーチン大統領がいかに自分のイメージを良く見せようとしているか、という話が挙げられていた。ロシアの社会を見ていると、ときどき日本と似ているなと思うところがある。ロシアも日本も、国民は自分を引っ張ってくれるヒーローのような政治家を求める。自立しないで人に頼りたい国民性なのか、強く正しく、そして清らかという、完璧な人格の指導者を望むわけで、それに向けて作り出されたイメージに騙されやすい。イメージ操作が上手い独裁政治がとても機能しやすい社会なのだ。

対してフランスやドイツでは、民主主義とはなんたるか、ということを教育システムの中で学んでいく。自分の意見を持ち、自由と責任という意味や自立することを学んでいく。公と私という分け方を学んでいく。

だからこそ、この社会では個人の恋愛や家庭事情そのものについてはスキャンダルとならないが、例えば政治家の発言、それがある対象への差別発言などとなると、これは個人の発言、というふうには片づけられない。なぜなら公の立場にあって、これは多様な価値観の存在する社会の中で特定の対象、特にマイノリティに対しての攻撃となりえるからだ。そしてその公の場での発言がいかに民衆を煽るかという危険も、過去の黒歴史から知っている。

そこで日本の政治を眺めていて思う。不倫で失職する議員がいる一方で、差別発言をする議員が職に居座り続けること、賄賂や汚職の疑惑がいつもうやむやになってしまうこと、こんなおかしいことがあるだろうか。個人の不倫なんかより、明らかに法に触れるような重大な問題が野放しになってしまっているのだ。でもそれは、政治家が悪いからということだけでは説明がつかない。政治の何が自分の生活に直接関わっているのか、ということを冷静に考えず、報道に振り回される国民が自らその状況を許してしまっているのだ。結局、日本の政治がダメになるのは政治家だけが悪いんじゃなくて、国民も同罪なんだよな、とため息が出てしまう。

不倫や浮気はモラルに反するし、決して正しいことじゃない。けれども政治家だろうが有名人だろうか、それって私たちの生活に関係あることなんだろうか?また近々、日本でも選挙があるらしいけど、こんな状況で有権者はちゃんと政治の意味を考えられるんだろうか、と不安なこの頃だ。

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© Aki Nakazawa
国内史上初の長期政権となるであろう第4次メルケル政権の誕生が確定しました。この数週間、ドイツの選挙戦を見ていて改めて思ったこと。何年も若者の政治離れが指摘されていたドイツですが、今回は保守右翼の躍進や世界情勢の不安定さが若い世代の関心も再び引き寄せた感があります。選挙当日の朝、20代向けのラジオ局の放送ではDJがいつものチャラい喋り方で、しかし丁寧に投票用紙の記入方法を説明していたのには感心しました。そんな放送メディアの姿勢を見て、大手の報道メディアですら「不倫」と大騒ぎしている日本の状況を心底情けなく思います。

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中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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