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むかしむかしの話、ではなく

中沢あき2017.12.15

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 今回の東京行きのフライトの中で映画「ダンケルク」を見た。(「ぜひ映画館の大画面で見て」と言っていたノーラン監督。機内の小さなモニターで見てしまってスミマセン…)噂通りの迫力ある映像と魅力的な俳優揃い、と見ごたえたっぷりの映画だったのだが、一番心を揺さぶられたのは、歴史に残る大きな出来事の中に存在した、無名で無数の若い兵士たち一人一人の決死の姿だった。
 それは歴史物語や教科書に登場する名前のように有名でもなく壮大でもない。汚く、醜く、情けなくて哀しい人間たちも描かれている。命を落とした者、生き残った者、それぞれの姿に、もし自分だったら生き残ることはできただろうかと思わず想像してしまう。

 最近私の中では、何かと20世紀前半の時代の話が気になる。それは日本ではちょうど大正時代から昭和の前半、第2次大戦辺りの時代で、日本が、世界が、戦争への暗い道を突き進んでいった頃だ。この秋にアニメ映画化されてリバイバルの「はいからさんが通る」も、作者の大和和紀のインタビューを読んだら懐かしくなって、とうとうネットでポチって漫画本を手に入れてしまった。舞台は大正中期。ご存知、主人公の紅緒の婚約者である少尉は、左遷でシベリアの前線に送られ、逃げ後れた部下を助けるべく戻ったところを敵兵に襲われて行方不明となる。敵に囲まれた時に少尉は部下たちにこう言うのだ。「これはお国のための戦争じゃない。単なる介入戦争だ。だから犬死にするな。生きて日本に帰るんだ」と。

 その言葉はなんだか現実的に響く。自衛隊の解釈を広げ、他国の戦争への介入を可能にしようとしている今の政権とかぶるじゃないか。子供の頃には単なるロマンチックコメディとして読んでいた物語をいろいろと深読みしてしまうのは、私が単に大人になったからじゃない。この頃の日本、いや世界の状況がそんな物語と重なってみえるくらい、不安定だからだ。気のせいなんかじゃないよね。

 数週間前、義母のかつてのパートナーの母を老人ホームに訪ねた。義母の元パートナーは彼らが別れた後に亡くなっているので、いわば義理の娘のような存在の義母がこの95歳になる「姑」にとって唯一の家族で、その姑が老人ホームに入らざるをえなくなったので、その手続や彼女が今まで住んでいた家の片付けをしており、私もその手伝いとして付いていったのだった。

 以前にも訪れたことのあるその家は、彼女が住んでいた頃よりもきれいに掃除がされて、しんと静かだった。ベッドサイドには、彼女の一番目の夫のモノクロ写真が数枚、立てかけられている。その夫、つまり私の義母の元パートナーの父親は、ドイツ空軍のパイロットだった。ハーケンクロイツの付いた帽子に空軍将校の制服を着た爽やかで優しそうな若い男性は、別の写真ではコックピットの中で操縦桿を握っている。

 ソビエト連邦領内に侵攻したものの敗退となり、取り残されたドイツ陸軍の救出に当たっていた彼は、自分の任務が終わった後もまだ残っている兵士を助けるべく飛び戻ったところを撃墜されて戦死した。それを聞いた彼女は台所でガスを吸って死のうとしたという。死に切れなかったのは、そのお腹に既に彼の息子が宿っていたからだ。
 同じく彼女のベッドルームの壁にかけられているのは、女優のように美しい、若き頃の彼女の顔と、透きとおる髪の毛のあどけない小さな男の子のポートレートだ。それらを見て私は「はいからさん〜」の話を思い出していた。愛する人がこの世から消えてしまう、ということを。

 「ダンケルク」を見たときも、彼女の夫の写真が頭の中によみがえった。「ダンケルク」の中ではドイツ空軍は恐ろしい敵であり、ドイツ人は憎き敵である。しかし撃墜されて落下するドイツ空軍機のハインケルやユンカースの中にいたドイツ人パイロットにもまた、一人の人間としての命と人生があり、彼のことを想う家族や友人がいたはずである。それを想像すると、哀しい。

 どの話も過去に自分の国で、世界で、そしておそらく自分の家族にもかつて起きただろうことなのに、いまや戦争の話は私たちにとって、パラレルワールドの出来事だ。そもそもこの世界から戦争がなくなったことなんて一度もないのに、それが直接自分の身に起きなければ、人間は忘れてしまうものらしい。

 でも本当はパラレルワールドなんてないのだ。私たちが忘れている間にも、この世界の他所では起きていることで、そして私たちの身にもだんだんと忍び寄ってきている。その気配を感じるような気がするから、「ダンケルク」も「はいからさん〜」も単なる物語として思えなくなってしまう。いや、物語として捉えるべきじゃない。だって、本当に起きたことでもあるということを忘れたら、また同じことが起きてしまうような気がするから。

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© Aki Nakazawa
2年前、偶然にも夏休みを過ごしたのがこのダンケルクでした。映画にも登場するあの遠浅の海は、そんなことが過去にあったのが信じられないくらい、とても静かです。

さて、今回はちょっとお知らせを。
私が関わるドイツ・オーバーハウゼン国際短編映画祭のアーカイブから選んだ短編映画の上映会が、12月24日に札幌で開催されます。私自身も現地参加する予定です。お近くの方、ご興味あればぜひいらしてください!
マルバ第2会館 「オーバーハウゼン国際短編映画祭セレクション作品上映会」
2017年12月24日
場所:ト・オン・カフェ(札幌市中央区南9条西3丁目2-1〈地下鉄南北線 中島公園駅徒歩2分〉)
https://malva2.jimdo.com/%E6%AC%A1%E5%9B%9E%E4%B8%8A%E6%98%A0%E4%BC%9A/

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中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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