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私はアンティル vol.10 私は忙しい。

アンティル2005.06.01

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今日はとても忙しない一日だった。

急な仕事が入った上にハプニングが続出。お客さんからは30分ごとにせかされ、はぁはぁ言いながら私はあちらこちら飛びまわっていた。途中、とあるビルのエレベーターで、ヤクルトを配達する50代位の女の人と一緒になった。2人だけのエレベーターの中で、その人は「今日は暑いわ~」と、私に返答を求めるような独り言を言いながら、3Fと8Fのボタンを押した。私はその人の言葉に応えることなく6Fを押し、乗っていると、その人は3Fで降りて、エレベーターホールに置いてあったヤクルトやジョアが入った鞄をすばやくエレベーターに積み込んで、再び乗りこみ、ドアが閉まると今度は鼻歌を歌い出した。演歌のような民謡のような鼻歌を聴きながら、2人を乗せたエレベーターは6Fに向かって上がっていった。そして6Fですよ~というチャイムが鳴って私が降りようとした時、その人は私の背中に向かって、「忙しいのにごめんね」と、私に声をかけてきたのだ。『エレベーターは涼しいなぁ~』と、何も考えずボーッと乗っていたはずなのに、苛ついた顔をしていないはずなのに・・・なぜ今日私が忙しく過ごしていることがわかったのだろう。この人はエレベーターの魔女か何かで「忙しいのにごめんね」という言葉の中に、何か深いメッセージを込めたのではないか?はたまた意地悪い魔女で「アンタの心の中をのぞけるんだよ」と私をからかったのか? とにかく私は驚いてしまって、魔女を振り返ることなくエレベーターを降りてしまった。

そう、私は最近忙しいのだ。
私は、最近忙しいとやたら口にしてしまう。仕事がなくても、寝ていても、遊んでいても、忙しい、忙しいと心の中で叫んでる。

去年の暮れに、私は入会していたクレジットカード会社から一方的に退会を言い渡された。買い物に出かけ、カードで支払おうとしたとき、お店の人からカードが使用禁止になっていると知らされた。それでも私は『未納金はないはず、これは何かの間違いではないだろうか』とさして焦ることなくクレジットカード会社に電話した。そう、あれは、今日から新しい家に引っ越しだぁ!  とウキウキしていた天気のいい平日だった。

私「あのカードが使えないんですけど、支払確認ミスかなにかですかね?」
相手「アンティル様は退会してらっしゃいます」
私「えっ! それってどういうことですか? 私は退会なんかしていません。もう一度確認して下さい」
相手「記録によるとアンティル様は強制退会となっております。」
私「強制退会・・・。」
『確かにこのところ2~3週間ほど支払いが遅れていたけど、1円残らず払っていたはず。なぜ?なぜ?なぜ?!』という思いと共に、私の頭の中で曇りガラス越しに座り、声を変えられた人が自己破産を語る姿が浮んだ。私に何が起こったのか、起こっているのか不安でたまらなくなりながらも、私は話し続けた。
私「強制退会とは、どういうことでしょうか?!」
相手「支払いが滞っていたので、止む終えず強制退会とさせていただきました。」
私「滞ってなどいません。遅れたこともあったけど、すべて払っています。ちゃんと調べて下さい。調べたらわかるはずです。」
相手「ちょっとお待ち下さい。」
数分後、電話に出たのは20代後半から30歳くらいの男だった。
男「どういったご用件で?」
私「私が知らないうちに強制退会になっているんですけど? どうしてですか」
男「先程も係りの者がお話ししたと思いますが、お支払いが滞っていますので契約書にあるように強制退会とさせて頂きました」
私「だから滞ってなんていません。支払わなかったことなど1度もありません。」
男「10月、11月、12月と支払いが遅れていましたよね。(語尾強く)」
私「でもどんなに遅れた月でも3週間位でしたよ。そんなんで退会させられちゃうですかぁ!しかもなんで私のことなのに、知らしてくれないんですか!」
男「契約書に支払いが遅れたら退会して頂くと書いてあるでしょう。それに知らせる義務はありません。」

確かに見えないほど小さな字で、支払いが遅れたら退会させれるというようなことは書いてあった、しかしそこには、“どのくらい遅れが退会につながるのか”については何も書いていない。“遅れ”とは、6ヶ月を指すのか2ヶ月なのかそれとも1週間なのか契約者にはわからない。そんな契約書はおかしい! 強制退会になる前にそうなる可能性を知らせてくれたらどうにかしたのに!! せめて自主退会にしてくれ!!! と訴え続けたが、契約書を読めと、男は同じ言葉ばかり繰り返す。それでも電話を切らず、怒り続ける私に男はどんどん声をあらげ、威圧し、私を強制退会させるに相応しいならずものに仕立てていった。

「滞るという意味を口語辞典で引いてみろ! 私はちゃんと払っている! 強制退会になったことを知らせないなんて人権無視だ!」

人権問題にまで発展した訴えは2時間にもわたったが、私の声は届かなかった。新たな生活を始めようとした日、私はブラックリスト入りを果たした。

しかし私の災難はこれだけでは終わらなかったのだ。
このことをきっかけに私は忙しい人間になっていく。
今回はここまで。続きは来週~。忙しい。

注)滞納:定められた期限までに納めないこと(岩波国語事典)

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アンティル

アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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