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私はアンティル vol.23 私は、久しぶりに座っている。

アンティル2005.09.08

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今私は、久しぶりに座っている。こうやってキーボードを打っていることさえ、私にとっては奇跡のようだ。

8月の末、私は掃除機をかけている姿勢のまま、激痛と共に固まった。持病のギックリ腰が再発してしまったのだ。脊髄に集まる神経を鷲掴みにされるような猛烈な痛み。その一瞬、呼吸は止まり、激痛のあまり吐き気が伴う。しかし、息を吸い込む少しの動作さえ、私はとることができない。「うっっつ!」この日から1週間、私は寝たきりになった。

これまでにも腰を痛めて、何週間も起きあがることができないという体験は幾度か経験している。回復までの時間でいったら、1週間で座れるようになるなんて軽いほうだ。しかし今回は質が違う。この1週間の闘病生活は、これまでにない試練を私に与えた。私の試練の象徴、それはゴミ箱だ。

今までは、どんなに痛くとも、どうにか這い蹲ってトイレに行くことができたのだが、今回は立ち上がることさえ出来ないありさまだった。地面に足をつけるだけで猛烈な痛みが全身を貫く。私はトイレに行かなくても済むように、極力水分をとらないようにがんばった。しかしやはり尿意はやってきた。

とうとう我慢も限界になり、私はパンパンになった下腹を支えながら、同居しているAさんに涙目で訴えた。

「トイレ、トイレに行きたいよ~~~」

Aは必死で私を支えようとする。戦場と化したベットの上で私が求め、差し出されたものは、ゴミ箱だった。

アルミで出来た円柱のゴミ箱の中に勢いよく出された私の尿が、雨音のような音をたてている。爽やかな日差しにあふれた静かな部屋が、この一瞬トイレになった。すべてを出し切った私に残されたものは、羞恥心とゴミ箱にたまったおしっこだけだった。お尻を拭いてもらう私。それは“寝ながらゴミ箱におしっこをし、その状態を見られた私”というものを突きつけられる瞬間だった。私は『2度とゴミ箱におしっこをするまい。』と固く心に誓った。

しかし次の朝、尿意は再びやってきた。

『どうしよう?! でも、もうゴミ箱は絶対にイヤだ!!!』

そんな思いが、私を奮い立たせ力をあたえた。

私は「痛みになんか負けないぞ! 痛みをパワーにIMP(I:いた M:みを P:パワーに)!」とGIジェーンのように自分に号令をかけながら、トイレまでの3メートルほどの道のりを50分かけて這って進み、どうにかトイレまで行き着いた。しかし、おしっこをしたものの、便器から降りることができなくなってしまったのだ。痛くて痛くて1センチさえ前に進めない。私は『もう2度と、トイレから出られることはないのか』と、さえ思った。

今回、私は痛みは人を支配する、ということを知った。
痛みは記憶になり、私の頭にこびりついた。『もうこんな痛い思いをしたくない!』という恐怖に似た思いが私を支配し、私は動くという戦いに臆病になっていった。痛みは驚異だ。私の頭の中では、アメリカに痛めつけられている遠いい国の人々の顔がよぎった。もうあの痛みを味わうのが怖い。私にはもうゴミ箱しかない。

私はAの説得もあり、治るまで、寝ながらおしっこすることを決意にした。次のおしっこタイム。私は仰向けになって足を広げた。しかしパンパンにはった膀胱からおしっこはなかなか出なかった。どんなに力んでも羞恥心が尿道に栓をする。股越しにAの顔が覗く。恥ずかしい。私は海や川のせせらぎを頭の中でイメージし、尿を促す。おしっこは申し訳なさそうに弱きな音をたて、出始めた。私はその音が恥ずかしくて「ぴよぴよぴよ」と鳥の鳴き真似をして音を隠すという無駄な抵抗を試みた。羞恥心。お尻を拭いてもらいながら、私は再び落ち込んだ。

私を励ますように冗談を言いながらゴミ箱を差し出すA。ゴミ箱のおしっこをトイレに流しにいくAの背中を見ながら、私はいろんな思いを抱いていた。ごめんなさい。ありがとう。嫌いにならないで。あなたは神様?! 治ったらどんなことでもします・・・。その3日後、神様は介護疲れと私の暴言によって、軽くぶち切れた。

私はこの1週間で、介護される気持ちを少しだけ知った。
そして排泄が人間の尊厳に関わることであるという友人の言葉を初めて理解した。そして、数十年後にやってくる老いた自分をはっきりイメージすることができた。もしこれが何年も続いたら、腰をかばう腕の力がなかったら、収入がなかったら、私が介護する立場になったら・・・私は介護する側の大変さを、今回どれだけ理解したのだろう。おしっこが手にかかりながら排泄の世話をし、重いカラダを支え、私を励ましてくれたAの気持ちをはどんなものだったのだろう。私の老後問題はもう始まっている。

寝たきりになってから数日後、Aは尿瓶を買ってきた。尿瓶は介護する側の労力を軽減し、排尿する時のいやな音を消した。“安寿”。尿瓶につけられた名前は私を諭しているようだった。

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アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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