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私はアンティル vol.28 36歳、ブスだと実感する秋である。

アンティル2005.11.02

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最近、車を運転していると、周りの車によくクラクションを鳴らされる。免許をとって20年近くになるが、こんなにブーブーやられるのは初めてだ。これまでと同じ車線変更。これまでと同じはずの運転技術。それなのに、なぜ?『カラダの衰えを自覚していない年寄りのように、私は変わった自分を受け入れていないだけなのか?そうか私は、年をとったんだ。』そんな風に落ち込んで、道路のゴミに妙な親近感を抱いている私に、最近、坊主頭になって人から親切にされるようになったという北原さんが指摘した。

「アンティル、それは髪の毛の影響だよ。」

ホルモンを打つ前、私は少年だった。
長年の成果で、日に日にオトコに見られるようになっていったものの、髭が生えていない私は、いつまでも中学生だった。夜中、自転車で走っていると90パーセントの確率で警察官に止められていた。高級レストランに入ると必ずトイレの横か厨房の見える席に座らるされる。香港に行った時は、ボイラー室のような部屋で寝かされた。大抵のオトコは私をオトコの底辺にいる者として扱った。

28歳の正月、長野県のスキー場で、私はバランスを失い止まることができず、小学生スキーヤーのスキーの上を滑ってしまった。「ごめんね。大丈夫だった?」私が小学生に声をかけていると、背後から誰かが私の首根っこを猫のようにつまんだ。小学生のお父さんだ。

「どこ見て滑ってんだ(怒)!!新品のスキーなんだぞ!おまえの親はどこだ!!」

私はこのオトコが何を言っているのか、しばらくわからなかった。

『親は実家で正月を過ごしているけど???・・・』

呆然と立ちすくむ私に、オトコは再び怒鳴り始める。

「親呼んでこい! おまえの親はどこで見てる!!」

事態を理解した私はポケットから車の鍵を取り出し、差し出すように見せながら、そっと年齢を告げた。

「私、28歳、課長です。親は東京でお正月を過ごしているので、ここにはいません。」

オトコは、子供を抱きかかえレストハウスに消えていった。
ホルモン剤を打って髭を生やした32歳の私は、25歳位に見えるオトコになった。もう誰も私をオンナだと思わない。
その歳の春、私は私がオンナだと知る人が誰もいない会社に出向になった。ここでは、どんな企画を出しても、「アンティルの感覚はユニークで面白い」とほめられた。それまで、男上司から散々「アンティルの感覚は繊細すぎて現実味がない」と言われ続け、使える人間になるよう、変わることを求められてきたのに、男として扱われ始めたとたん、周りの見方が変わり、評価される対象になった。

『仕事がこんなにもやりやすいなんて・・・』

私は、髭を生やした繊細な感覚を持つレズビアンから、ユニークな発想力を持つ“使えるオトコ”になった。

男同士の関係というものはおもしろい。
FTMの男ではなく、“生まれ持っての男”として扱われて初めて知った、未知な世界。そこは、“俺とおまえ”の絆の世界だった。男同士の連帯感に身をゆだね、ゆったりと流れる時間の中で、堂々と時を過ごす男達。そこには危険など何もない。

「男だったらわかるよなぁ」「男だからさぁ・・・」

男だというだけで、いっきに説明が省かれ、これまで許されなかったことも不問になっていく光り輝く世界で、新生!男アンティルは、何をやってもいいように解釈されていった。そこは、誰からも脅かされることのない、優雅な男性専用サロンのようだ。
『こうやって男達は会社を動かしていたのかぁ~。どんなにがんばっても理解されないわけだぁ~』
私は、オンナというだけでバカにする男達の現実の視線と、同僚の男にいい仕事がまわる、自由に仕事をさせてもらえない理由をこの時知った。

しかし新生!男アンティルと男達との時間は、3ヶ月ともたなかった。
「なぁアンティル」ポンポンと肩を叩かれ、「男とはこういうもんだよなぁ」と同意を求められても、ポカーンとしている私は、男という教義を共有しない変わりものとして処理され、軽視されるようになった。

オンナが社会で生きるのは大変だ。しかもオンナでブスだとなおさらしんどい。
私は去年、そのことを思い知った。

会社の大掃除をしていたある日、地下にあるトランクルームと、会社があるフロアーを行き来きして運んでいる後輩Mに、私は「倉庫に行くならついでにこれも持って行ってくれない」とお願いをした。後輩Mは女性社員の前では重い物を率先して持ち、男であることを主張する、ザ・男だ。私がオンナであることを知っているMは、私に対しても男風を吹かす。私がオンナだと知っているからだ。しかしこの私のお願いには、その風は吹かなかった。

「自分で行って下さい。」嫌そうな顔をして断るM。
他の女性社員なら、男モード前回で、微笑みながら荷物を運んだであろうMに
私は、「そこをなんとか!頼むよ~」と手を合わせた。
Mは舌打ちをしながら、私から荷物を受け取った。
この時私は真実を悟った。
“これまで私が会社で男達にじゃけんにされていたのは、私がFTMだからだと思っていたけど、私がブスなオンナだったからなんだ”と。
私はブス・・・。だからMは荷物を持たない。
「アンティル、それは髪の毛の影響だよ」
オンナのドライバーだと、相手がどんなに悪くても“女は運転が下手だから、おまえが悪いに違いない”と、クラクションを鳴らされることがあるのだと北原さんは言う。「そうかぁ~なるほど」。目をキラーンとさせた私に北原さんは言葉を続けた。

「髪を伸ばしてオンナだとわかるアンティルはおばさんに見えるからだよ」

私はブス。36歳、ブスだと実感する秋である。

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アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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