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最近、カミングアウトという言葉が気になる。会社にも友人にもカミングアウトして、親戚一同皆私が、性同一性障害であることを知っている今、それでも私はカミングアウトが気になってしょうがない。

自分が“オンナが好き”だということを周りに言えたらどんなに楽かと悶々としていた時期が私にもある。

「アンティルってレズなの? って聞かれたんだけど、そんなことないよね?」
“みんなが私に聞きにくる”と、困惑する友人たちの顔が、あまりに真剣で不安に満ちた顔だったから、高校生の頃の私はカミングアウトするなんてことはこれから先もありえないことだと思っていた。時代は80年代。女子高校生でも“レズといえば佐良直美!”という時代である。

大学生になって、私は親しい友人にカミングアウトを始めた。ブラウン管にニューハーフが登場し、「ゲイって面白いかも?」と思われ始めた80年代後半だ。男物の服で学校に行っていた私が、今さらレズだと言っても驚く人はいなかったが、「告白してくれてありがとう」と涙ぐむ人から「私は認めるよ、私はレズじゃないけどね」と、境界線を引きながら肯定するに人など、反応は様々だった。

大学を卒業して、ある会社の入社試験を受けることを決めた私は、デパートの試着室で3日間迷ったあげく、オンナ物のリクルートスーツとパンプスを履いて試験に向かった。自分を否定するようで、どうしても剃ることが出来なかったモジャモジャの脚の毛がストッキングの中で渦を巻き、変な黒い物体になって視線を集めていた。入社後、自分が好きな男物の服を着て仕事を始めた私に、職場の人は興味本位でカミングアウトを迫ってきた。

「あなたってレズ??」気持ち悪い笑みでしつこく聞いてくる先輩と、その様子を3メートル先で見つめる5,6人の男達の視線が嫌で、私は会社を辞めた。
自分を隠さず社会と向き合っていくことにムキになっていた、20代。今度は男物のスーツを着てある会社の入社試験を受けた。ゲイってお洒落! と言われ始めた90年代初頭である。

私の面接は、とても盛り上がった。手応え十分。私は、私の存在が引かれることのない社会に触れてその場を楽しんでいた。「ゲイは面白い感覚の持ち主」そんな時代の流れもあったのだろう、時代が生んだ新たな価値観と私の開き直りが効を奏したのか、私はオンナ好きなオンナとしてクリエーターの集団で成り立つその会社に、合格した。

28歳の時、朝、目覚めたら急に親にカミングアウトしたくなった。神の啓示のように、降りてきたカミングアウトの神様が、私に受話器を握らせた。
「お母さん。私、実はオンナが好きなの・・・」
両親は、その時すでに私のセクシャリティを受け入れなければと、心を決めていたという。
「今まで苦しかったでしょう。」
と、電話口で母は泣いているようだった。実家に帰るたびに、「結婚しないの? 孫が見たい!」と言い続け、友人を連れていくたび、私が“女の子”だった幼少時代のエピソードを積極的に話すことで、私の“オンナ”の部分を誇示したがった父も、反省し、『自分が育てた女の子、アンティル子はもういない。』と、心に言い聞かせているのだと母は教えてくれた。

両親の心を動かしたのは、性同一性障害の報道だ。自分の子供の奇行の原因を知った2人は、私を理解しようと、FTMに関する情報を集め、勉強していたらしい。カミングアウトした2日後、パンパンに膨れた封筒の中には、性同一性障害について書かれた記事に無数の赤線が入った新聞の切り抜きが入っていた。
カミングアウト後、初めて実家に帰った時、私は、両親の寝室でその決意のほどを知った。机の上に飾られた写真立ての中で、かわいかった幼稚園時代の私が微笑んでいた。それはまるで遺影のようだった。それを呆然と見つめる私に、背後で母は呟いた。
「これだけは、お父さんのために置かせてあげて。」
私は思わず頷いてしまった。

それ以後、父は、時間をかけて私がFTMだということを理解しようとしていた。「アンティル」と呼ぶその声は、“もうアンティル子とはけして呼ばないぞ”という決意が滲んでいた。私を彼と呼び、孫の話をいっさいしなくなった父。そして私の行動に長年悩み、苦しんできたことから解放され晴れ晴れとした母。その2人の思いに私は感謝をした。

カミングアウトから数年たち、アンティル家に平和な時が流れている今、私はまたカミングアウトしなければならないことが出来てしまったようだ。

「私、自分が何だかわからなくなってしまった。」

髭を生やしながら、髪を伸ばし、男物の服を好んで着ながら、自分を“私”と呼び始めた私は、完全に“男”として扱われることに違和感を持ち始めている。穏やかな生活を得て、老後への道へと歩み始めた両親に、私はこの迷いを伝えるべきかどうか考え始めている。

「アンティル!」明るく自然に呼べるようになった両親を、? の渦に迷い込ませることになる、私の新たなカミングアウト。カミングアウトって何のためのものだろう? だれのためのものだろう?
私は今、カミングアウトが気になってしょうがない。

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アンティル

アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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