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私はアンティル vol.40 アンティル・ミーツ・ちんこ パート6

アンティル2006.04.02

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ホルモン注射を始めてから顔とお尻に濃い毛が生え始めた私は、女湯に入ることが完全に不可能な状態になっていた。どんどん濃くなっていく顔髭と、変わりなく存在するお椀型の巨乳のボイン。社会生活が楽になっていくのと反比例して、私のカラダはしだいに浮世離れしたものになっていった。

お風呂上がりに自分のカラダを見ながら私はいつも、ケンタウルスを思い出していた。射手座でおなじみの下半身が馬で上半身が人間の、あのケンタウロスだ。ケンタウロスと私。なんだか似ているようで似ていない。人間よりも早く走る馬の足と、人間の頭脳を兼ね備えたなんだか立派そうなカラダのケンタウロス。そしてただのボインとむさい髭面を持ち合わせる私。『さて私は何だろう。』そんなことを考えながら、私は胸の除去手術の日を待っていた。私の願いは2つ、プールに入ることと、そして温泉に入ること。

男湯生活を始めて1年と少したった春、私は沖縄に行った。泊まるホテルのホームページを見てみると、そこには楽しそうな温泉がゴーヤのマークとともに並んでいた。寝ながら入る風呂、ジャグジー付きの立湯、大きな露天風呂etc。アミューズメントパークのようなその場所は、私を興奮させた。温泉の善し悪しで宿泊先を選べるようになったのも、この胸のお陰だ。私は胸を躍らせてホテルにチェックインした。

宿泊客でなくとも入浴することができる、その人気の温泉には、たくさんの男達がいた、いくら男湯に慣れたといっても、やはり人が多いと入りづらい。私は人気が減るのを待って服を脱いだ。燦々と降り注ぐ沖縄の太陽が、温泉の水面を光らせ私を出迎える。私は次々と、種類の違うお風呂を楽しんだ。

極楽、極楽。いつものちんこチェックもそこそこに、カラダを温泉に任せ、脱力する。

『あーあ、なんて気持ちいいんだろう』

そろそろ上がろうと、洗い場を見ると、いつの間にか人があふれている。2組の団体が一斉に入ってきたらしい。人目がありすぎて出るに出られない。しかもいつもなら、胸とまんこを隠すように湯船のへりにしがみつき、立ち上がっても前に人がいないようにするのに、その日に限って私は珍しく湯船の真ん中にいた。前方の男も後方の男も私の方を向いている。立ち上がれば男たちの目線に私のまんこがあるのだ。いくら男たちが何も見えていないといっても、やはりこれほどの状況は怖い。私はどうにか定位置の湯船のへりに移動しようと、じわりじわりとお湯の中を移動した。

『よし!今だ!!』

前方にいた3人の男が風呂から出るスキに、私は目的の位置を陣取った。あとは、人気が引くのをただ待てばいい。しかし、風呂の前は渋谷のスクランブル交差点のように所狭しと人が行き交い、洗い場では洗い場待ちの男がたむろして、いっこうに人が減る気配がない。

『大丈夫だアンティル! 男は何も見ていないと学習したじゃないか! 立て! アンティー』

私は勇気を振り絞ろうと試みるが、これまでにない混み合った男湯に怖じ気づく。

『やはりだめだ。もう少し待とう。』

私はフレンドリーな沖縄人に用心し 、声をかけられないよう注意しながら時を待った。私の周りでは、知らない者同士が楽しそうに笑っている。

『さすが沖縄!』

ゴーヤに変な顔が書かれたこの施設のトレードマークを見上げながら私は心の中で呟いていた。
その時だった。平和ムードが溢れていた男湯に緊張が走る。
みんなが私の方を向いている。何だろう私はゴーヤマークから視線を外し、前方に目をやった。私の前にいたのは、ヘビや般若を背中に刻むチンピラ集団と、東京では見なくなったパンチパーマ風のヤンキー達だった。ヘビと私の距離は1メートル。男達は、じっと睨みあったまま動かない。3分、5分、時間ばかりが過ぎていく。ますます出るに出られなくなった私が、自分のカラダの異変に気がついたのはこの時だった。『なんだか頭がクラクラする。』そう、熱い湯に長く浸かり過ぎたため、のぼせてしまったのだ。『しかし、ここで倒れるわけにはいかない。』私は必死に意識を集中させる。男達はまだにらみ合っている。男達の前で私が壮絶な戦いをしていることを知らない人たちが、男達の周りを避けるように逃げていく。気がつくと、私が入っているジャグジー風呂には誰もいない。7分が経過。男達は一触即発の状態だ。私もダウン寸前。

『この男の背中のへびはハブかな~、へびとマングースの戦いだ』

私は朦朧とした意識の中で笑ってみる。『もう、だ、め、だー』
そう観念したとき、あの長い睨み合いはなんだったのかと思うほど、短い言葉喧嘩でその戦いの幕は閉じられた。誰もいなくなったお風呂。私はようやく男湯から生還した。

沖縄の温泉。ゴーヤ印の温泉。この温泉を最後に、私は私は男湯に別れを告げた。

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アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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