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私はアンティル vol.43アンティル・ミーツ・ちんこ 最終章

アンティル2006.04.19

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ホルモンを打つ前、私はかろうじて入れる女湯で、男風呂に入ることを夢みていた。髭面になって女湯にも男湯にも入れなくなった私は、温泉に入ることを一つの目標として胸の除去手術を待ちわびた。数年後、私は平らな胸と共に男湯に入り、男が集まるこの場所が私にとって心地よくない場所だということを知る。私はまた女湯に戻ってきた。そして女湯に入りたいという自分と初めて出会ったのだ。それなのに。ホルモンを打ってから初めて女湯に入った私は、「女湯に男がいる!」 という通報により温泉から追い出されてしまった。

ショックだった。でもそれはオンナ湯を追い出されたことにではなく、オンナが気持ちよく裸になれる、オトコがいないその場所で、オンナ達が常に背負わされている緊張感を自ら走らせてしまった自分の鈍感さに気が付いたからだ。

「そんなことよく知っていたはずなのに・・・」

私はまんこに甘えていた。

『髭が生えていても、胸が平らでも、声が低くとも、私はまんこ持ち!だからいいでしょう?!』
という気持ちがあったのだ。

私はしばらく温泉に入ることを諦めた。どうにか男湯に入ろうと思ったこともあったが、カラダが言うことをきかない。またどちらにも入ることができない生活が始まった。

1年後、私は髪の毛を伸ばした。20年ぶりのロングヘアだ。
それを期に、「男? 女?」と訝しげに眺める、街の懐かしい視線を感じるようになった私は、もう一度女湯にチャレンジすることを決意した。
『もうあの時の失敗はしない。』

私は髭を肌から切り取る勢いで剃り落とし、胸の除去手術の時以外、剃ったことがない脚の毛にもカミソリをあてた。
周りの人がぞっとするほどの獣のような足毛と腕毛を持つ私は、ありえないほど毛深いオンナとして子供の頃から有名だったらしい。“らしい”というのは、周りの視線があまり気にならず、私自身がそのことに気がつかなかったため、後に後日談として聞かされたからだ。たまに陰口が耳に入ってきた時もあったが、目や口のよのように、その毛達は当たり前に存在する私の一部だったから、周りの視線を気にして剃るなどとうことは、考えもしなかった。

そんな私が初めて自分の意志で脚毛にカミソリを入れた夜。
自宅の風呂場の中で、私はフェミの友人の本棚でみかけた本のタイトルを思い出していた。
“自分の性は自分で決める。~選択する性”(確かこんなタイトルだった。)
分厚い難しそうな本の中で、著者が何を書いていたかは知らないが、
『もしかして私はまさしくその瞬間を味わっているのかな?』
と、思うと少し著者に申し訳ないような気がした。
『自分の毛は自分で決める~選択する女湯』

その夜、私は女湯で久しぶりに至福の時を過ごした。
私の中で“性”は液状のような一つの形にならないものとして存在している。
“オトコのようなもの”になったり、“オトコそのものの”ようになってみたり、“オンナだよね?”というものになったり、“オンナだと思うよ”と、いうようになってみたり。“性”はときに激しく、時に緩やかに私のなかで変化してきた。
そして私はその流れに合わせるように自分のカラダと向き合ってきた。
変わらないのは、私がオンナが好きなまんこ持ちであるということだけだ。その変化を形にして表してくれるのが温泉だ。どちらののれんをくぐるか、温泉は私の“性”の動きを忠実に表すバロメーターなのだ。

私に届いた読者の方からの質問。
「あなたは男になりたかったのですか? それともオンナが好きなことを正当化するために男化したのですか?」
正直に言うと、私は今でも自分が何であるかわからない。というか、これまでも“まぎれもないオンナだ、オトコだ”と今まで言えたことがない。95%そうだと思っても、100%に近づくと、「いや、違う!!」と、私は逆を向いて歩き出す。そして95%の内、どこまでが自分の欲求でどこからがこの社会で生きるための手段なのか、私にははっきりわからないのだ。
だから、昔のことであっても
『男になりたったのか、男化していったのか???』
明確な答えを私は持っていない。(こんな答えですみません。)

私は今、女湯に入ることを選択している、男湯に入ることはこれから先もないだろうと思っている。しかし、同時に私の中の“性”がいかに一つの所に留まらないものであるのか知っているから、私はこれから先も、まぎれもないオンナにも、まぎれのないオトコにもなれないのだと思う。
私は思う。オンナが好きな私を裏切らない自分でありたいと。
そして剃るたびに濃くなる髭と格闘しながら考える。
『永久脱毛しようかなぁ』
私は何になろうとしているのだろうか。

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アンティル

アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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