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捨ててゆく私 VOL.02 女人禁制?

茶屋ひろし2006.12.08

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女性の方は、ビデオコーナーはご遠慮ください。

私のバイト先の店内にはこんな手書きの札が掛かっている。それに気付かずビデオコーナーに入ってきた女性のお客さんには、スタッフの誰かがすかさず直接、この言葉を投げかける。言われたお客さんは「すみません」とそそくさとその場を退場する。そんなことがあるせいか、店の入り口で、「ここは女性が入ってもいい店ですかー?」と尋ねる人もいる。それはオーケー、でもその中にあるゲイビデオコーナーは女性立ち入り禁止なのだ。

なぜ?

それはたぶん、ゲイ向けのエロビデオを買うのはゲイの男性しかいないから。
それと、女性がいるとゲイの男性がビデオを買いにくくなるから。
という気がするから、・・あまり自信がないわぁ。

勤めだしたとき、先輩スタッフがその理由を明確に教えてくれたことはない。あえて聞いてみたら、「マンコには必要ないでしょっ!」という一言が返ってきたような気がする。そう言ってしまうとミもフタもない気がして、いま文章にしてみたけれど、その一言の方がやはり適当かもしれない。

「女性の方はご遠慮ください」

勤めだしてしばらくは、注意の札に気がつかないでビデオコーナーに入ってきた女性のお客さんに、この言葉をなかなか言うことができなかった。

女が見たっていいじゃないのよねぇ、くらいに思っていたからだ。じっさい、女が入って来るとそそくさとビデオコーナーから離れていく男たちの姿を見るのもなんだか可笑しくて、って店員のくせに。

店員としての自覚が出てきたのか、しばらくすると私はこの言葉をなんなく言ってしまうことが出来るようになっていました。そのころに気付いたことは、この店の商品は、ビデオ以外もほとんどゲイ男性向けものである、ということ。ビアン向けの商品は、「カーミラ」などの雑誌と、ノンケAVの「レズもの」が入り口近くに固めて置いてあるだけ。あとはぜーんぶ、ゲイ男子のためのチンコ商品ばかり! 女がバイブを選びに来ても、バイブコーナーがビデオコーナーとかぶっているから、店員に冒頭の台詞を言われてしまう。なんのことやら。
この店では、はなから女性は対象外なんだわ。そう気付くのに三日かかりました。

「女って、性欲、ないじゃん」
バイトちゃんのひとりが何かの会話でこんなことを言い放ったのはその頃のことでした。私以外、それに反論しない他のスタッフたち。というか、本当に女に興味がないのだ。ビヨンセは好きなのに? あんなにアイドルや女優が大好きなのに? 不思議な矛盾だわ。でもないか、生身の女に興味がないのか。なまみ、って・・。

ということで、この店では女性を対象外にするということは当たり前のことになっている。女性客がやってくると素っ気なくあしらうことになっている。

でも例外はあって、ヤオイ雑誌を発行している出版社の女子たちが、時々大量にビデオを買いに来る。かならず2人組みで、事前にメーカーとタイトルを記したメモを見ながら、迅速にビデオを選び取っていく。その間、2人はほとんどしゃべらない。10本ほど選んだところでレジにやってきて領収書をもらって帰っていく。

彼女たちには、購入するという目的があって、騒がないで長居しないという行動があるから、スタッフたちも穏やかに黙認している。

ということは、買う気もないのにゲイビデオにはしゃぎ、営業を妨害していると思われる物見遊山がここでは嫌われているということなのね。これはノンケの男性客にも言えることなのだけど、店の雰囲気は女性客に対する方が厳しい。

でも私は、女子高生たちが学校帰りにやってきて物怖じすることなくゲイビデオのパッケージを見て「ちょーキモーい!」とはしゃぐ姿は少し爽快で、でも店員なのであの台詞を言ってみると、「マジ駄目なんだって、ウケるー」と笑われてしまって、私も可笑しくなって笑ってしまって、ってそういうのも好き。先日、「女性の方は・・」と言ったら、「男ですけど」と言われて謝りました。FTMの人かしら、声とお尻の形だけで判断してしまった。お連れさんのゲイ男子がビデオを買っていってくれました。

女なのかゲイなのかなんなのか、見た目だけではもうわからない。
「ゲイビデオをご購入する意志のない方の立ち入りはご遠慮願います」
とでも書けば、より正確になるのかしら。でも、それってもう、商売を超えてしまっているような気がする。(了)

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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