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捨ててゆく私 VOL.06 ドメスティック・ラブ・ライフ

茶屋ひろし2007.01.04

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新年あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。

元旦の二丁目は静かでした。夜もほとんどのお店が休んでいたため、仲通りは真っ暗。明かりがついていたのは10メートル間隔で、ウチのチェーン店3つと、シャインマート(コンビに)のみ。そうか、ウチの店はコンビニと一緒ですか。エロビデオ屋の平常営業の理由は、店員の私にもわかりません。お客の入りも平日並みでした。不思議です。
働いている自分のことは棚に上げるにしても、元旦なのに、いつものお客さんが1人ずつ、いつものようにビデオを買っていくのです。お正月は、家族と、パートナーと過ごす・・とかじゃないのね、ないんだわ。この店が(というかビデオが)、お正月のお相手なのね。

ということは、お店を開けていることは、役に立っていることなのかもしれない、と途中で思い直しました。
そういえば、私もお正月を友達以外の人と過ごしたことがありません。実家にいた頃はともかく、一人で暮らすようになってずいぶん経ちますが、付き合っていた人とお正月を過ごした記憶がない。

あら、なぜかしら。お正月辺りはいつも付き合っている人がいなかったのかしら。でもなくて、誰かと一緒に住んだことがないせいからかしら。

お店はお昼から朝まで営業しています。働き始めた当初は夜勤でした。その頃、いつも明け方近くになると、作業をしながら居眠りをするバイトの子がいました。昼間寝てないの?  と尋ねると、寝る時間があまりなくて、と言います。さらに訳を聞いたら、こうでした。

早朝、ここの仕事が終わって家に帰る。そのまま寝ないで、昼間仕事に行っている彼氏を起こす、朝ごはんを作って食べさせる。お弁当も合間につくる。それを持たせて会社に送り出す。そのあと洗濯をする、掃除をする、犬の散歩に行く。お昼を回ったところで、彼氏の服を繕う、晩御飯の買い物に行く、夜帰宅する彼氏のために晩御飯の支度をする。夕方ちょっと寝る。そしてここのお店に出勤する。そして明け方居眠りをする・・。

ああ、ドメスティック・ラブ・ライフ!
尽くす女、性的役割、・・男同士でやっているの?
いや、違うか。
この子はそういうのが好きだからやっているんだわ。
そのときはそう思いました。これにフェミはいらない、これはフェチだ、とか。
ところが、最近知り合ったゲイカップルに、また同じような形を見ました。尽くす方は、共働きなのに、家事全般はもちろんのこと、歯ブラシが古くなってきたら、相手が気付かないうちに新しいのに買い替えておいてあげるとのこと。それじゃあきっと、冷蔵庫には賞味期限切れのものはないのね、ビールと共にいつもグラスが冷やされているのね!   驚きのあまり叫んだ私に、尽くす方が、「当然ですよ」。
マジっすか。
そこまでしないと誰かと暮らすことはできないのですか。
いやでも、やっぱりそういうのは趣味の問題だと思いたい・・。
ところが、年末に私の元から去っていった男の子が、今、別の男の子に毎日ごはんをつくってもらっていると聞いて、私はついに観念しました。誰かと暮らすのに必要なことは、エサ、もとい、毎日のごはんを与える、もとい、おうちで一緒にごはんを食べること、だったのね。
そういう考え方は今までありませんでした。
でも出来ないかも。逆にごはんをつくってもらうにしても緊張しそう。
2人で代わる代わる自由につくる、とか?   ああ、なんだか想像が出来ない。
そんな私も、いつか、ごはんをつくる(つくられる)関係を持つことが出来るかしら。
ビデオのパッケージを見つめながら思います。
お正月に友達以外の親しい人と過ごしたい願望もあります。
でもやっぱり私も、ビデオがパートナーの人かしら。愛情をフェチの範疇にしておきたいのかしら。いや、そもそもゲイビデオって、タチ(男役)とネコ(女役)で成り立っているものじゃなかったかしら。
フェミを必要としない男同士の世界は、1人でも2人でも完結してしまうものなのかもしれません。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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