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私はアンティル vol.63 正月の風景

アンティル2007.01.11

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2007年の幕開けは不思議な体験から始まった。天からのメッセージ。
それは今年初めてのトイレでの出来事だった。
元旦の午後。私は寝不足の目をこすりながらトイレに座った。

『今年は何回こうやってトイレに座るのかなぁ』

やることすべてが初めての元旦、いつものようにおみくじを引かなかった私はみょうに今年の行方が気になっていた。私はあれこれ考えながらゆっくりと用を済ませ、窓の外に視線を落とす。見慣れている雀もウグイスに見えるから不思議だ。『今年も宜しく』私はウォシュレットのボタンを優しく押しながらパンツに手をやった。その時だ。パンツを上げ、手をふと見てみるとそこには小さな四角い紙がついていた。親指の腹にくっついた5ミリ×5ミリの小さな紙。『ゴミかなぁ?それにしては人工的な切り口をしてるなぁ~なんだこれりぁ?』私は落とさないように気をつけながら親指にくっついているその紙を掴んで目を近づけた。その瞬間、私にはトイレにまっすぐな光が差し込んだように見えた。

“商”

紙に書かれた一つの文字、商。黒くワープロ打ちされたその文字に釘付けになった。なぜパンツに紙が挟まっていたのだろう?なぜこんな小さな小さな紙が落ちずに留まっていたのだろう。一文字だけ印刷され綺麗に切り取られた紙に思い当たるところはない。誰が?なぜ?なんのために??・・・・。
解けない謎は、私の想いを天に運んだ。

『そうですか!私の今年を示すものそれは・・・・』

2007年、私は天から“商”という一文字を戴いた。
同窓会に行くか行かないか迷いながら越した2007年。
結局行かないことに決めた私のもとに、2日の夕方、報告の電話がかかってきた。今でも付き合いのある同級生Fからだ。
「くればよかったのに!アンティルの話でもちきりだったんだよ!」
同窓会の終了直後の電話だったらしく、Fは少し興奮気味に話していた。
「アンティルが今流行の性同一性障害で、手術で男になったって大騒ぎだったんだから」
流行最先端に踊り出た私。行かないという選択肢をとった自分は正しかったと心の中で私は小さな丸を人差し指と親指で作る。
みんなの中の私はさぞかしかっこいい“オトコ”なのだろう。
本物は誰か!と言い当てるクイズ番組の中のタレントの声が同級生達の声とシンクロする。「この人がオンナなの~これなら私、付き合える~!!」
テレビの中のFTMは中筋肉を鍛え上げ、スタイリッシュに洋服を着こなすおしゃれさんだ。“オンナからオトコに変わった”同級生の登場に期待を膨らませる人たちに今の私の姿は酷すぎる。私は将来、この同窓会に出席することがあったら、10キロやせて髭を伸ばし、スーツを着て登場しながら「やぁ!」と軽く左手をあげてみようと思う。そんな決意をした早春だった。

正月休み最後の日、私は友人4人と都内にある温泉に行った。底冷えのする寒い寒い夜。駐車場には列ができていた。遮断機も警備員もいない駐車場。間隔を置いて数台の車がヤマを張るように敷地内で空くのを待っている。一台入り、三台入り、その車がすべて駐車され、順番待ちする車は私の前にいたオヤジが運転する車だけになった。しかしオヤジは入り口から動くことなく、駐車場をすべて見渡せる場所でハンドブレーキを上げる。私の後ろには通りをふさぐように車の列。“俺の場所”私の頭の中で目の前に広がった風景に見出しがつけられたその時、私は冷静さを失った。

後悔した。よく考えればオヤジの判断は正しかった。オヤジの車を追い越し、敷地内に入った私に友人たちの冷静な目が突き刺さる。
私の胸にずっしり重い後悔の石が乗っかったようだった。恥ずかしさと後悔でいっぱいになったカラダを引きずり私は温泉に入った。
正月の東京の夜空は綺麗だった。星がいつもより多く輝いている。カラダが温まるにつれ、私の心も柔らかく溶けていく。そして私は自分のカラダがすっーと軽くなるのを感じていた。

『自分が気持ちいことをしよう。』

心地よい感覚と共に、ひらめきのような想いが口をつく。

ここ数年、私は自分がゾンビになったような気がしていた。人間関係がうまくいかないことに疲れ、うまく出来ない自分の未熟さに苛立ち、男達で回っているこの社会に希望を見出せず、周りと上手に付き合える術を探そうと、ただただ忙しくい時間が過ぎる日々。いつの間にか私は自分が何をしたいのか、言えないほど自信をなくしていた。“自分が気持ちいいことをする”。当たり前のことが私のカラダの中に強烈な説得力をもって飛び込んできた。私にあるのは私だけ。円滑な人間関係を築くテクニックを持てるほど私は頭のキレル人間でもない。だけど、自分が本当に快適だと思う場所を探す行為は、そこにいる他者に思いをはせる行為だと思うと、驚くほどシンプルに人間関係を考えることができた。だってきっと一緒にいる人が私といて気持ちよくないなら、そこは私にとってもきっと不快な場所だから。そんなことを、夜の空の下で考えていたら、流れ星が降ってくるように今度は天から言葉が降ってきた。

“自分探し”

その言葉を天から受け取った私は、瞬間的に天に言葉を投げた。
「そうか自分探しって趣味みたいなもんだったんだ。自分向き合うのが嫌になった時の気晴らしなんだ。今年は自分と付き合うか。」
正月の東京の夜空は大きな温泉みたいだった。私の中にある塊を溶かしてくれた温かな温泉。温泉でゆらゆら揺れる長い腕毛を撫でながら、私は少しだけ今年を楽しめるような気になっている自分を見つけた。
2007年。今年はどんな年になるのだろうか?

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アンティル

アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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