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捨ててゆく私 VOL.013 セレブ・ゲイ

茶屋ひろし2007.02.22

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ゲイビデオの値段といってもピンきりで、私のバイト先は中古屋なので、VHSなら三百円から、DVDなら九百八十円から、あります。人気メーカーのDVDは定価で一本一万円強、それが中古になると、四・五千円くらいになります。ゲイビデオはツタヤにないので、その値段でも、見たいなら買うものなのです。
週に一度の来店で、毎回、五万円くらいお買い物してくれる上客がいます。

先日、クレジットカードが通らなかったのでカードをお返しすると、別のカードを差し出して、彼はこう言いました。
「まいっちゃったな、それ、限度額が百万なんだよ」
「まあ、たくさんお買い物をしていらっしゃるんですねー」となにげに返したら、「おいおい、そんな他人事みたいに言うなよ。俺はほとんどここで使っているんだよ」と憤慨されたので、「失礼しました」と私は頭を下げました。

しかし、なぜ彼は、そんなに大量のゲイビデオを購入するのか。
それは、彼がウチで安く仕入れたビデオを、ネットで販売しているからであーる。見るためじゃないのね。
それで生活していけるのかしら? と思ったら大間違いで、けっこう羽振りが良いらしく、自由気ままな在宅ワーカーぶりを私たち売り子に見せつけるのです。

去年マドンナが来日した時は、大阪東京四日分すべてプラチナチケット(五万円)で楽しみました。「ニューヨークのも行ったよ」と言います。最近姿を見ないな、と思ったら、タイに男の子を買いに行っていたりします。「向こうの男の子はいいよ、可愛くてやさしくて」。三ヶ月くらいマスク(花粉・風邪用)をはずさなかった時期もありました。マスクを取ったら、まあ、髭の痕跡がなくなって、口が一回り小さくなっていました。
お金はあるんだわ・・。
そういえば服カバン靴すべて、はっきりとわかるブランドものです。
ゲイ業界で生きるセレブなのだと思います。

店員の私は、彼が来るとその日の売り上げが格段に違うのでいつも拝んでいます(ちょっと嘘)。
けれど、お金のないセレブ(矛盾だわ)もいます。
たいていいつも、どこかのゲイバーのママさんです。二丁目には三百軒近くもゲイバーがあるそうです。ほんとかしら・・その中の一軒のママ。

ある日、「こけし」(仮名・でもそんな名前)というバーのママが、ウチの本店に、開店したばかりの「こけし」のポスターを貼らせてちょうだい、とやってきました。誰もそのママのことを知りません。
「上の許可が要りますので、聞いてみますね」バイトちゃんは軽く受け流してポスターを預かったまま放って置きました。「上のひと」も、そのこけしママのことを知りません。こういう場合は、貼らないまま流れてしまいます。それはたぶん、そのこけしママも、ウチの店の「上のひと」を知らないからです。

一週間後、やって来たこけしママは、折りたたまれたままカウンターのテレビの上に置かれたままのポスターを見て激怒しました。「ちょっと、どういうこと? 貼ってくれていないじゃないの!」
とたんに、彼は熊みたいな腕で陳列している近くのビデオをなぎ倒しました。
「警察を呼んでちょうだい!」と叫んだのは、ウチのスタッフのお姉さんではなく、そのこけしママでした。
「あたしを誰だと思っているの!」
「こけし」はその後、開店してひと月で潰れました。開店時には「沢口靖子 様より」と自作自演の花輪が飾られていたそうです(そこは可愛い)。
噂でどんどん「こけしママ」の情報が入ってきました。年の頃は三十二歳、二十代から二丁目でバーの店員として働いていた。

スポイルされる、って恐ろしい。二十代にちやほやされていた「こけしママ」は、いつのまにか二丁目を代表する人物と、自らを思い込んでしまったのかしら。二丁目を代表するって、何。そういえば、つんつんしてビデオを買いに来る、九十年代前半なヴィジュアルのゲイママ、って跡をたたない。

前に、レズビアンがゲイのようにエロ文化を発展していかないのはなぜか、という問いかけを、ゲイの先達にされたことがあります。愚問だわ、と思いました。それは、なぜレズビアンとゲイをいっしょに出来るのか、私にはわからなかったから。商業ベースに乗ることが、あるいはゲイのようなベースをつくることがレズビアンに必要だと感じている時点で、わけがわからない。
ゲイセレブは、オトコ業界の中でだけ、お金を回していればいいのに。

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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