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捨ててゆく私 VOL.015 春一番

茶屋ひろし2007.03.07

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昨日二丁目を吹き抜けた春一番は、すごい勢いでした。店の外のゴミ箱にビニールのゴミ袋をかけようとしたら、あれよというまに、風は私の手元からゴミ袋を奪い去り、遥か前方へ連れ去ってしまいました。ぼんやりと見送る私。そのあとを追って駆け出したのは19歳のスタッフの子でした。しばらくして戻ってきた19歳は息を切らしながら、「屋根の上に飛んでいったので届きませんでした」と報告してくれました。

はい。19歳でも追いつけないのだよ、あれは。でも駆け出したのは、私にビニール袋を取り戻そうとしてくれたからね。19歳の頭を撫でてあげる。尻尾を振る19歳。男子が犬になると、とても可愛い。

その日、もうひとりのスタッフのポチと、仕事終わりにご飯を食べに行きました。二丁目を一歩出るとそこはノンケの世界。なんて言うか、フツウのおしゃれ居酒屋に入りました。案内されて窓際の席に座ったら、店内の端にロフトの席が3つあって、真ん中の1つが今、空いたところみたい。「あそこのほうがいい」と指を差すと、ポチが、「ダメですよ、あれはカップルシートです」という。ほんとだ、あとの2席には男女の2人組みが座っている。あそこの照明は心なしか暗い。向かい合ったテーブルの幅が狭い。椅子にはクッションがある。「こっちにはクッションないよ、なんで?」「なんで? じゃないっすよ」ポチが困ったように言います。「移らせてもらおうか」と言うと、「ダメですよ!・・いや、いいですけど」とポチはそわそわします。「すみません、あっちへ行きたいんですけど」と注文をとりに来た女の子に、ロフトの席を示すと怪訝な顔をされました。

これだから、ホモは嫌なんだよ。
まさか、そんなことは思っていまい。ただ、めんどくさかっただけなのよね。案内されて、先ほどもらったお絞りをロフトの席まで持って行くと、「新しいのとお取替えいたしますから」と、手元のお絞りを持っていかれてしまいました。ポチはそんな彼女に関心を持たず、すっかりカップルシートでくつろいでいます。さっきまであんなにそわそわしていたくせに。また新しいお絞りを持ってきてくれた彼女に、料理の幾つかを一度に注文すると、「こちらはテーブルが狭いので料理は見計らってお持ちいたしますね!」とわざわざ(!)を付け足されました。これじゃあまるで、二丁目でノンケ客のからかいを相手する私のようだわ。

カップルシートで、ポチと至近距離で食事をしながら、ポチが抱えている職場の人間関係の愚痴を聞きながら、テーブルの下でポチの足をずっと足で触りながら(近いから)、私はぼんやり、先日寝た男のことを思い出していました。
その人の名前・・なんにしよう、太郎次郎、ジローでいいか。ジローとは知人の紹介で知り合いました。その知人に、カラオケで酔っ払った私が小林幸子を歌っている姿を携帯で撮られていて、それを後日ジローが見て、「この子、紹介して」ということで、紹介されたのです。ジローは出会った私を写真よりも気に入ってくれたようでした。私も嫌ではありませんでした。ということで、流れでそうゆうことになりました。

流れ・・。紹介されたあと、ジローから2回、二丁目での夜デートの誘いがありました。どちらも乗りました。2回目でジローは、「終電、なくなっちゃった」と言いました。私の家は、二丁目から自転車で10分です。それで、どうしたいのだろう。待っていた私は、何も言い出さないジローに、「私、帰る」と言いました。ジローはそれ以上の希望を言わず、件の知人の家(終電がまだある範囲内)に電話をして泊めてもらうことにしました。知人は電話の向こうで、「なんで?」と言っていたようです。3回目、私のほうから誘いました。いつのまにか、「私と寝たいのはわかっている、そこを私がどうするか」みたいになっていたからだと思います。

ところが私は、19歳の頭を撫でるような、ポチをカップルシートに座らせるような、そういう何かを楽しむような気持ちをジローには持っていませんでした。逆に、ジローが私に何かを持ち合わせているように思いました。セックスは、あまりうまくいきませんでした。「オレも散々遊んできたけど、こんな感じは初めてだよ。なんか、大事にしたい、っていうか・・」と布団の中でジローは言いました。その瞬間、私の頭の中で、「ヤンキー、結婚、身を固める・・!」というタイトルが躍り出ました。

そうです。誰かに申し訳ない気持ちですが、私がノンケ女子(今、32歳)で、ちょっと年上の独身男子に、こう言われたら、結婚するよ、これは。と、思いました。

今年の春一番が、私の手元から吹き飛ばしたのはゴミ袋だったけど。

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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