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捨ててゆく私 VOL.019 男子、女子、あたし

茶屋ひろし2007.04.05

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私の一人称は「あたし」です。これを獲得したのは二十歳を過ぎてからでした。それまでは表向きの一人称はありませんでした。中学生くらいまでは、家族には下の名前を使っていたような気がします。日本語の一人称は性自認になります。中学、高校の時分は、「あたし」を使うことなど思いもつきませんでした。「ぼく」も「オレ」も使うのが嫌で、なるべく一人称を使わないように話していたのですが、どうしようもない時は、「オぇ」と意味不明の発音で、「(たぶんそれは)オレ」を選択していました。

それにしてもなぜ、「あたし」になったのかしら。二十代前半の頃に周りにいた、愛すべき女友達の影響かしら。よくわかりませんが、それからとても解放的になったような気がします。男友達からは逆に、「おまえは、あたしあたし、ってうるさい」と言われるくらいに。

ところが、二丁目にやって来たら、職場のオカマちゃんたちがみんな、一人称「自分」で話をしていました。
なにそれ、軍隊なの?

関西から来た私には、他に「自分」の使用方法は二人称以外に思いつきません。そこで私が「あたし」を使った瞬間、私は、「お嬢さん」「お姉さん」「おばさん」という立ち居地になりました。
まあ、いいけど・・なんだか腑に落ちないわね。
と、しばらく違和感を抱えて働いていたら気がつきました。一人称「自分」を使う彼らは、みなそれぞれに「お姉さん」的な要素を持っている。にもかかわらず、「自分」を選択しているのは、「あたし」(ないし「わたし」)を使うと、モテないからだわ!

そうなのです。ゲイ社会では「オネエ(女装)」的要素を出すと、ゲイにモテなくなってしまうのです。

それで猫も杓子も「自分」なのか・・、でも確かに便利かも。
そう思ったりもしましたが、私はけっきょく「自分」を使いませんでした。
それは、なんだかしっくりこないから。仕方がありません。その代わり、モテないという不運は受け止めましょう、という覚悟をするようになりました。

ところが、一人称「あたし」でもモテる時はモテる、ということも次第に起きてきました。それが明確になったのは、今年の初めに飲みにいったお店で、同じ「オネエ(一人称「あたし」)のゲイ男子から、キスをされた時でした。舌も入りました。

そのお店は二丁目の中でもオオバコで、基本的にカラオケ付きのスナック営業ですが、カラオケに自信を持つ客たちが毎晩その声を競うバーでもあります。歌声や振り付けに自信のある客は、中央のスポットライトが照らされた舞台で、その芸を披露できる仕掛けになっています。スモークも出ます。

そこに燦然と現れたのがその「あたし男子」で、工藤静香を、気持ち悪いくらい(賛辞)、大胆な振り付けと裏声で歌い踊りきり、みんなの喝采を浴びていました。しずかちゃんは歌い終わると、ホステスのように私がいるテーブルへ駆け寄ってきました。細い、ちっちゃい、髪と睫毛がカールしている、そんなしずかちゃん。私の目を見て、何度も瞬きをするしずかちゃんに、私が「可愛いわねー」とお姉さんになって褒めていると、ベロチュウされました。そして、私に放った言葉は、「それで、いつ、あたしとセックスするの?」

単なるキス魔だったのかもしれません。ノンケ社会でもいる、酔っぱらったら性別に関わらずにキスでからむ人。たぶんそうだったのだと思います。いや、それでも、「あたし」が「あたし」を・・!
一人称の性自認は、思っていたより、ゆるいのかもしれません。現場ではどうにでもなる、というか。
そんなことを考えていたら、後日、別のお店で隣り合わせになった熟練のオカマちゃんがマスターに、
「あなたは高校生くらいの時は、自分のことを女だと思っていたの? それとも男だった?」と聞かれていました。するとその熟練さんは、
「あたしは、高校生の時は、男子、女子、あたし、って、分けて考えていたから」と、はっきり答えました。
すてき。今、「あたし」が、第三の性別に聞こえたわ。

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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