ラブピースクラブはフェミニストが運営する日本初のラブグッズストアです。Since 1996

捨ててゆく私 VOL.022 ビデオモデル

茶屋ひろし2007.05.02

Loading...

ある日、ヒョロリとした長身の男の子が店に入ってきました。棚を見てビデオを選ぶわけでもなく、店内を行ったり来たりしています。細身に黒いジャケットを着ていたので、私は、見物しに来た歌舞伎町のホストかな、とよく姿を確認しないままカウンターの中で手元の作業を続けていました。彼はその前を行ったり来たり・・。

なんだろう。
顔を上げて彼の顔を見ると、私を見てニヤニヤしています。初めて見る顔。そして若い。高校生くらいに見える。ホストかと思ったけどぜんぜん違う。眉毛がない。これはむしろヤンキーだわ。曖昧に笑い返すと、ヤンキーはますますニヤニヤします。
だから、なに。
うながすように見つめると、ヤンキーは可愛い声で言いました。
「オレ、こないだビデオ出たんすけど、それ、ありますか?」
誰だ、わからない。ていうか、嬉しそうだよ、この子。
ニヤニヤしているというより、無邪気に笑っているみたい。

これは初体験でした。今までこのビデオ屋に来た、エロビデオに出たことのある男の子たちは、人前で恥ずかしがることはあっても、わざわざ名乗り出ることはなかったからです。

なんだか可笑しくなってきて、一緒にそのビデオを探して見つけてあげると、ヤンキーはさらに喜びました。「こいつオレの友達でー」とジャケットに写っている自分の横にいる子を紹介し始めます。さらにそこのメーカーにスカウトされた時の話に、地元は静岡でひさしぶりに新宿に遊びに来た、とか。

「よかったねー」と、何がいいのかよくわからないまま相槌を打ってレジを打って送り出しました(買ったビデオは友達にあげるのだそうです)。あとから考えると、あんなに私の前を行ったり来たりしていたのは、「もしやあなた、あのビデオに出ていた人じゃなくて?!」と、驚きと賞賛を持って私に声をかけて欲しかったからかも、と思いました。新宿に行けば、「オレ」は超有名になっているはずだったのかもしれません。そしてそれを期待していた・・とか。

ゲイビデオに出る人の大半の理由は、小遣い稼ぎだと思います。あとはその業界で生きていく人。小遣い稼ぎの人たちは、人気があっても、短期間にいろいろなビデオに出まくったあと消えていきます。ときどき十年前のビデオなどを手にすると、ジャケットに写るこの人は今どこで何をしているのかしら、と思います。

ビデオ業界で生きていく人も、ノンケのAV業界のように、ビデオ男優として名前をつけて売り出していくということはないようです。ビデオによって名前はコロコロ変わります(源氏名みたい)。だから客も店員も、お気に入りの男優の出演ビデオを探す時は作品名を言って、「ほら、あの~に出ていたひと」「ああ、その~にも出ている人ね」みたいな会話になります。そんな「~の人」も、しばらくするとどこかのビデオメーカーのスタッフになって、出演してもメインを張ることはしなくなります。それほど無名性が高い。

たまに東スポで、どこかの野球選手が大学時代にゲイビデオに出演していとか、どこかの大学の水泳部員がビデオに出ている、という、そのビデオの写真入りの記事が出ます。それが昔のビデオでもビデオ屋の店員なら覚えがあって、ちょっと身内で話題になります。そのあと決まって、そのビデオを探しに来る客が増えます。

記事は、それでその選手がチームからはずされたとか、大学を停学処分になった、と伝えます。店員の私は、ゲイビデオに出たばっかりに・・かわいそうにねぇ、と同情を寄せながらそのビデオを売ります。

スポーツ選手の体はゲイビデオの中でも人気が高いので、ノンケの子でも学生時代に小遣い稼ぎで出演することも多いそうです。でもそのあと有名な選手になって、過去の小遣い稼ぎがバレて選手生命を剥奪されたり、ゲイの子でもビデオに出たために学校から停学させられたり、ゲイビデオに出ることはまだまだ世間体が悪いようです(というか、それは人権侵害。東スポなので、事実関係は立証不可)。

と、思っていたところにその無邪気なヤンキーが来たので、驚いたのでした。そういえば、東スポで大学を停学にさせられた子も、また次のビデオに出て、ジャケットで屈託のない笑顔のアップを見せていました。
ゲイビデオに出ること自体はいいも悪いもなくて、そのことによって悪い結果にしてしまう世間がよくない、と思います。

そうはいっても、それが現実だからよく考えて行動したほうがいいよ、という人もいるかもしれませんが、私は、ビデオに出たことを喜んでいる笑顔を見て、あまり後先を考えないでゲイビデオに出るほうが、後先の世間を変えるような気がしました。
そうだといいな。

Loading...

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

RANKING人気記事

Follow me!

  • Twitter
  • Facebook
  • instagram

TOP