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27歳の時、私あてにロサンゼルスから小包が届いた。待ちに待った小包の到着だった。はるばるアメリカからやってきた四角い箱。その中に入っていたのは、ハーネスとディルドだった。

20代後半頃までの私は、自分のセックスがチンコ不在のセックスであることを強く意識していた。射精どころかチンコのない私のカラダでは“普通のセックス”ができない。男女のセックスの前ではおままごとのようなセックスだと思っていた。だから私は常に不安を抱くことをやめられなかった。

「セックスが不満でふられてしまうのではないか・・・」
そんな思いが常に心の中に住んでいた。
考えたくないが、考えずににはいられないチンコ。

ポパイの特集で“検証!僕たちのペニス”などといった特集があれば、チクチクと痛む胸を押さえては男女のセックスを知り、愕然としていた。

“日本人の平均 太さ3センチ 長さ12センチ”
私は急いで勉強机から定規を探し必死で3本の指をよせて太さを測ってみる。
『太さ2センチ 長さ5センチ』

私は影絵で白鳥を作るように3本の指でチンコのような形を必死に作って部屋を暗くして壁にシルエットを浮かびあがらせた。
『このくらい私の指が大きかったらなぁ・・・・』
それは30センチほどある手の化け物だった。

余談だが、この時点で私はチンコというものをちゃんと見たことがない。
一番はっきりと見たチンコは、以前のコラムにも書いた小学生の頃見た痴漢のチンコだった。漢字と算数の勉強を終えた公文(塾)の帰り。ビルの陰にコートを着た男。絵に描いたような痴漢のチンコは、私の自宅の近くに売っていたチョココロネ(チョコレートパンです)のような形をしていた。三角柱のような形で渦をまいでいるあのパンの形だ。それからというもの私の頭に描かれるチンコはチョココロネの形をしている。3本の指で作る私の指チンコもちょうど三角柱のような形。しかし、ポパイではじめてチンコの形がきのこのような形をしていることを知り私の儚い希望は打ち砕かれてしまったのだ。

この日から私は自分で開発した指腕立てを始めた。手首を添えながら机の上に指先を置き、力を入れる。その力を抜かないように第2関節をくの字型に屈伸させ。ワンツーワンツー。くる日もくる日も私は指腕立てをして1本1本の指を太くするトレーニングをしていた。

コンドームに憧れた時もあった。チンコがあるカラダを手にして“ふつうのセックス”をしたいと思っていた頃。私はラブホテルに入るたび、相手がお風呂に入っているすきに指に無理矢理コンドームを装着していた。爪でコンドームが破れないようにそっーとコンドームを着けてみる。ビリ!それは必ず指の根元に辿り着く頃破られた。パチン!と破れるその音が、
「おまえの指はチンコになれないよ~」と
言っているようで、そのたび悲しくなった。
『やっぱり私には“ふつうのセックス”ができないんだ~』
規格外の私の指チンコは、いつもコンドームから否定されていた。

そんな私に朗報が入ったのが、27歳の時だった。チンコ不在の自分のカラダをほんの少し肯定できるようになったその年、新宿2丁目のレズバーでロサンゼルス在住の日本人Cさんに再会したのだ。

Cさん。それはSM愛好家。その2年前、ロサンゼルスのCさん宅に行った時、私ははじめてSM屋敷というものを見た。家のそこら中にかけられたSMグッズの数々。いつでも、どこでも手にかけられるよう掛けているのだという。ベットルームには紐がかけられ、怪しげなローソクが燃えている。そんなCさんが連れて行ってくれたのが、セックスグッズショプだった。始めて見るセックスグッズショプは私とグッズの間に広がる深い溝を教えてくれた。楽しそうで興奮する反面、道具を使うことをイメージするとチンコ不在の私のカラダが強調されて辛い。その時の私はディルドが義足のように思えたのかもしれない。太く輝くディルドが『どうだ!本物とはこういうものだ!』と言っているような気もしてひどく落ち込んだ。

それから2年、ほんの少しの肯定感を持ち始めた私はCさんおすすめのハーネスとディルドを購入することにした。Cさんがアメリカに戻った1月後、私はついに始めてのハーネスとディルドを手にした。それはゴムのパンツのようになっていて、チンコ型の張り型=ディルドとそれを装着するためのバンド=ハーネスが一体型になっているものだった。興奮した。新しいセックスの幕開けと喜んだ私は、すぐ始めてのハーネス&ディルドセックスに挑戦した。しかしその興奮はもろくも3分後には消し去られてしまった。固定感のないハーネスはピストン運動をするとはずれ、太すぎるディルドは相手には痛いだけのものになり、セックスをしらけさせる。再び蘇る、チンコ不在の憂鬱。その日以来、私はハーネス&ディルドを私の嫌いなものベスト3にランクインさせた。

その日から数年経って私は再びハーネスとディルドに再会した。
34歳の夏である。それはマイハーネス&ディルドを持つ人とのセックスがきっかけだった。驚きのセックス。着けている私もそのセックスでイッてしまったのだ。気持ちよくて自然にカラダが動く。気持ちいい。しかしこのセックスで一番驚いたことはそのハーネス&ディルドの持ち主の言葉だった。
「ディルドってチンコより気持ちいいんだよね。自分が好きな長さ、形、感触を選べるんだもん。どんなものも付け替えできるし、チンコなんかより気持ちいいよ!」
衝撃だった。私への気遣いから産まれた言葉でもなく、しみじみと使った感想を語るその人の言葉は私をハーネス&ディルドの世界に誘っていった。
正常位に騎乗位にバック。2人で入れたいディルド、あてたいディルドを選んで、セックス!セックス!!それまでチンコは一番気持ちいいセックスの道具と思っていた私の頭をハーネス&ディルドは変えてしまった。
ハーネス&ディルド。それは自分の欠損感を浮き出させるもの。でもその欠損感を生み出すチンコという世界がいかに容易い相手であるかということを知るものでもあることを私は知った。そしてハーネス&ディルドは仏像のようなものだと私は思う。セックスをする2人の心を洗わすような鏡。それを前にして何を語るか、何を語れないか、そこに自分が抱えている問題と未来が凝縮されている。私はハーネス&ディルドが大好きだ。同時に、それを手にできない未来がまたこないことを願っている。

ラブピースクラブよりのお知らせ
アンティルさんのワークショップ「ハーネスセックスの魅力&ハウツーハーネス」をラブピースクラブで行います。
日時:3月9日(金)19時~21時
場所:ラブピースクラブ
参加費:800円
お申し込み方法:下記宛先にタイトルを「アンティルワークショップ参加希望」とお書き入れの上、お名前・ご連絡先などお送りくださいませ。
宛先:love@lovepiececlub.com

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アンティル

アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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