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捨ててゆく私 VOL.025 五月病

茶屋ひろし2007.05.24

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最近ようやく、隣に住んでいる男の子の顔を覚えました。東京に来てから三年間、ずっと同じアパート(というか、団地みたいなビルでワンルーム)に住んでいますが、住人を目撃したことは数えるほどしかありません。ここに住むことを決めた時に、「大家がそうと決めているわけでもないのに、あそこは今まで男性しか入ったことがない」と不動産屋が言ったとおり、当ビル内でみかけたことのある住人は、大学生男子か中年のサラリーマンしかいません。生活音が聞こえるくらいの安普請なので、そこから隣人は大学生男子だろうと思ってはいましたが、ここのところ鉢合わせすることが多くて顔を覚えました。そのたびに、「こんにちは!」と向こうから爽やかな挨拶をしてくれます。私はあまり目をあわすことが出来なくて、「こんにちは」とぼそぼそ言って、そそくさすれ違います。

昔から私は、これくらいの距離感が苦手です。
よく知らない、知らなくてもかまわない、けれど毎日近くにいる人。
知ってしまえば、仲良くなれば、苦手じゃなくなりますが、その段階に行くまでに時間がかかります。

二丁目で働き出してからも三年で、毎日同じ店に立っていると、近所のバーの店員たちとも顔見知りになります。毎日すれちがう人たちが何人もいますが、挨拶を交わす人は二人くらいしかいません。他の人たちとは、目でお互いの姿を確認したら素通りする関係です。なぜか軽く緊張してしまいます。
「山ではみんな、お互いをよく知らなくても、すれ違うときに挨拶をするでしょう。そういえばこの子はわかるから、って言っているよ」
そんなある日、とつぜん相方のオーラちゃんが、私の守護霊からのメッセージを伝えてくれました。

そうなの? それでそれがなんなの? と、それを告げたオーラちゃんは、とつぜん聞こえてきた言葉の意味がよくわからず、首をかしげています。
やだ。私が高校生の時に、ワンダーフォーゲル部にいたことがバレてしまったわ。

私もよく状況が飲み込めないまま焦りました。
「でも、ここは山じゃないもの。それに、山で出会う人たちは、そのあと再会することはほとんどないのよ、だから挨拶も軽くしてしまえるんだと思う!」

非難をされているわけでもないだろうけど、守護霊に歯向かってみました。
どこかで私には、いつも陽気にさりげなく街の人たちに挨拶をくばるようなキャラ、にならなければならない、という願望か、強迫のようなイメージがあるのかもしれません。そして、それが出来ていない自分にストレスを感じている、とか。

ここのところ、鬱病の友達からの電話をよく受けています。彼女は医者から処方された薬が効かなくてパニックに陥りそうになると、誰かに電話をすることで安定を計ります。その方法は彼女に合っているようなので、私もできるだけ相槌を打つくらいにしています。それでも、彼女の口から、「死にたい」や、「生きるってなんなの」という言葉が出てくると、自分でもそんなことに答えを持っていないのに、つい、ちゃんと答えようとしてしまいます。そして、この「ちゃんとした対応」みたいなことしようとすると、なぜか疲れます。

今朝の電話では、逆に、「五月病ですか?」と彼女に心配されました。
そうかも。
とりあえず私は、よく知らない人に、いつも笑顔を振りまかなければいけない、という思い込みを捨てた方がいいかもしれません。
そんなことを思って、今日はフワフワと(それはいつも)お店に立っていたら、その隙を突くように、颯爽と若いノンケのカップルが入ってきました。まもなく社長が見回りに来る時間です。それ以外の時間帯なら冷やかしもさせておくけど、タイミングが悪い。MEGUMIに似た女の子に、「女性の方はご遠慮いただいています」と、例のひとことを言ってみました。
すると、「わたし、男ですけど」とあっさりと返されてしまいました。
それはあきらかに嘘で冗談でしたが、五月病の私は、好奇心旺盛なMEGUMIに負けてしまいました。でもそのあと、笑いながら出て行った二人にくやしさを覚えて、少し元気になりました。

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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