ラブピースクラブはフェミニストが運営する日本初のラブグッズストアです。Since 1996

捨ててゆく私 VOL.024 平行線

茶屋ひろし2007.05.31

Loading...

先週末、祭りの神輿が二丁目を通りました。毎年この時期に行われる、近所の神社のお祭りです。二日にわたって神輿が出ます。子ども神輿に、大人(男)神輿。それが二丁目の仲通りを通ります。しかも、どちらの神輿も途中、二丁目のど真ん中で休憩します。ゲイタウンの午後がノンケの家族連れで埋め尽くされます。いままでどこに、こんなに地元の人が隠れていたのかしら、と思うほど、普段の二丁目の昼間とは比べ物にならないくらいの人出です。神輿を路上に下ろすと、大人たちはビールを飲み、子どもたちは配られたお菓子を食べます。今年は平年より暑かったせいか、アイスクリームが配られたようで、子どもも大人も、みんなで一斉にモナカを食べていました。

私はビデオ屋のレジからそんな光景を眺めています。
一日目は、四歳くらいの男子が店内に入ってきました。口を開けてエロビデオの棚を見ています。放っておく私。
「ゆうた! こっちへ来なさい!」
しばらくして、ゆうたに気付いた母親が外から呼びかけました。ゆうたはポカンと口を開けたまま、母親の声に動こうとはしません。
「わたし入れないから、お父さん行って」
母親は父親に声をかけています。ゆうたより小さい子を抱いた父親が店内に入ってきて、まず、笑顔で私に言いました。
「こんにちは」
黙ってうなずく私。その瞬間、ゆうたは父親の脇をすり抜けて店を出て、通りの木に登りました。
「ゆうた! そんなところに登ったらダメ」
母親の声がします。まわりの子どもたちの笑う声。父親はいつのまにか目の前からいなくなっていました。

二日目は、二十歳くらいの男子がハッピ姿で入ってきました。同じ年頃の友達といっしょです。入り口付近の棚で、ビデオを指さして友達と笑い合っています。何を言っているのかはよく聞こえません。私は、店内の奥にお客さんが一人いることを確認して、彼らがこれ以上、奥に進むようなら止めよう、と思って二人の背中を見ていました。
しばらくして二十歳のゆうたは振り返り、私に、裏モノ(無修正)はないのか、と聞いてきました。意味がわからない。ノンケの男子がゲイビデオの無修正を見たいのか。黙って首を傾けた私に、二十歳のゆうたは、「それはもっと仲良くなってから、ね」と、上目遣いに笑いました。ますます、わからない。
反応の鈍い私に、ゆうたは潮時がわからなくなったか、「バイアグラみたいのはないの?」と、また笑顔で聞いてきました。
「ない」
私がぶっきらぼうに答えたところで、ハッピ姿のおっさんたちが、ニヤニヤどやどやと入ってきました。「なにオマエらこんなところでサボってるんじゃ、ホラ行くぞ」と、ゆうた達を表へ連れて行きました。表で、ゆうたと同じくらいの年齢の女の子たちが、「アイツら、あんなところに入って」と、キャッキャはしゃぎながら通り過ぎていきます。
この店は、こんなところ、あんなところ。
そのあと、道を行く祭り姿の人たちの、この店を見て笑ったりしている顔が、どんどん気になり始めました。そこへまた、神輿が通ります。二往復するようです。太鼓と大きな掛け声、大勢の手拍子。
やだ、二丁目が今、ノンケたちに犯されている・・!
なんて思って、ハッとしました。

まあ、いつから私は、そんなにこの街と同化していたのかしら。
夕方に近づくにつれて、ゲイの姿も増えてきました。神輿が通ったあとを、いつものように友達としゃべりながら歩いていきます。祭り姿の人たちとすれ違います。お互いに挨拶を交わすわけではありません。でもなんだか、どちらも堂々と歩いているように見えました。
これは平行線だわ、と思いました。
四歳のゆうたの父親が発した「こんにちは」と、二十歳のゆうたの「仲良くなってから、ね」に、私は笑って返すことが出来ませんでした。ノンケの男子と知り合わなくなってから、もうずいぶん経ちます。なんだか、平行線のままでもいいような気がしました。

Loading...

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

RANKING人気記事

Follow me!

  • Twitter
  • Facebook
  • instagram

TOP