ラブピースクラブはフェミニストが運営する日本初のラブグッズストアです。Since 1996

捨ててゆく私 VOL.026 おいとけさま

茶屋ひろし2007.06.07

Loading...

半年くらい前から、一組のゲイカップルと付き合っています。K君(32歳)とTさん(43歳)のカップル。Tさんとは知り合って二年になります。半年前、Tさんから、最近気になる子ができた、ということで紹介されたのがK君でした。その頃TさんはK君に恋をしていました。紹介された時にはもう、二人は何回か会ってセックスもしているようだったので、私は、Tさんに彼氏ができたのだ、と思いました。ところが。

それからTさんはK君とのデートのたびに私を誘うようになりました。デートと言っても、私が参加するのは、私の仕事が終わってからの時間帯なので、夜の二丁目デートで、メシと酒です。

なぜ、付き合い始めてまもない二人が、デートに私(友人)を誘うのか。
あまりなにも考えず、酒の誘いにすぐ乗る私も私ですが、彼らのデートに参加するようになって、そんな疑問がわいてきました。

Tさんが電話で答えを述べました。「あいつといても話すことがなくってさ」
そこで私が参加すれば、食事といっしょに会話ができるようになるからだ、と。

そういえば、三人で食事をしながら会話しているのは、私とTさん、私とKくん、の二通りで、K君とTさん、K君とTさんと私、というパターンはほぼ無きに等しい。私がトイレに立って戻ってくると場は静まり返っている。私が席に着くと、Tさんが、K君が、それぞれ私に話しかけてくる。しかもその二人の話題はぜんぜん違う。

この二人はいったいなんだろう。なぜ会っているのかしら。さらに、私はなぜそんな場所にいるのかしら。
いつも一人で飲みに行くバーのマスターに事情を報告してみました。するとマスターは、「ねえ、おいとけさま、って知っている?」とニヤリとしました。

~昔むかし、村のはずれに「おいとけさま」という地蔵がありました。村人たちは夫婦喧嘩のたびに、その地蔵のもとへ訪れました。面と向かって言い合うと決着がつかない喧嘩でも、その地蔵に向かって、お互いの主張をまくしたてると、あら不思議、いつのまにか双方気分が収まったそうな。
(これは作り話です。おいとけさまの出典は、「道具づくし」別役実・著、早川書房、から。でも、そちらのおいとけさまも、別役実氏の作りだしたフィクションだそうです)
「ね、あなた、今、おいとけさまをやっているのよ」
マスターは言いました。

件の二人はべつに喧嘩をしているわけではありませんが、気詰まった空気を緩和する、という意味では、たしかに私は、おいとけさまだわ、と思いました。

先日、カラオケ仲間とカラオケをしているところに、二人が飛び入りをしてきました。私は彼らを知らない人たちに、勢いで、K君をTさんの彼氏だと紹介しました。
後日、Tさんから電話があり、私の紹介の仕方に、K君がTさんに憤慨したのだと言います。「あなたはふだん、僕のことを周りの人に彼氏と言っているんですか」
まとめると、TさんはK君を彼氏と思っている(もしくは、そう思いたい。あるいは、そう周囲に言いたい)。でも、K君はTさんのことを彼氏とは思っていない。
「彼氏」という言葉は、二人の関係を二人以外の人たちに表明する言葉にもなるのだと思います。この二人の場合は、お互いの関係をどういうふうに名づけていいのかわからない状態が続いているようです。
それでもその後、二人は私を介さなくても会うようになりました。Tさんによると、会話も少しずつ弾むようになったそうです。
「それにしても、こんなことは初めてだ」とTさんは言います。
恋に落ちて付き合うことになって、いつも二人で会うことが楽しくて、しばらくして、喧嘩もしたり息も詰まるようになったりして、持ち直して・・、というのが、今まで誰かと付き合うという物語だった。始めから、二人で会うと息が詰まって、でも会いたいから会うという状態が続く、ということが初めてだった、そうです。

何度もK君に、「俺のことをどう思っているんだ」と尋ねていたTさんは、「案外、Tさんって女々しいですね。どうしてそんなことをわざわざ言う必要があるんですか。こうやって、いつも僕はあなたに会いに来ているじゃないですか」と言われて凹んでいました。
私もそろそろ、おいとけさま(ネタ探し)、を引退したほうがいいかもしれません。

Loading...

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

RANKING人気記事

Follow me!

  • Twitter
  • Facebook
  • instagram

TOP