ラブピースクラブはフェミニストが運営する日本初のラブグッズストアです。Since 1996

VOL.30「チャングムとハヤシ」

茶屋ひろし2007.06.23

Loading...

遅ればせながら「チャングムの誓い」を見始めました。おもしろい、そして止まらない。 仕事から帰ってきて3話(3時間)見て、朝起きて、出勤前に1話見る、といったハマリ具合です。こんなに見ているのにまだ終わりません。全54話もあるからです。さきほど第21話を見終わりました。

さいしょのうちはレンタルをして見ていました。これからしばらくは毎週ツタヤに通うことになるんだわ、と覚悟をしていましたが、ある日奇跡が起きました。バーで仲良くなった人からDVDを全巻コピーしていただいたのです(違法かしら書いていいかしら)。私は彼に、チャングムを想うハンサングン様に負けないくらいの大きな愛を感じました。ここは勇んで、チャングム中毒への道を進むべきです。We‘re OK です。

ところがそんな時に限って邪魔が入るものです。仕事終わりに携帯にメールが入りました。ハヤシという男からです。今近くに来ているから会えないか、という内容でした。

会えません。私は帰って「チャングム」を見なければならないのです。
すぐにそう思いました。が、私はしぶしぶ電話をしたのです。
ハヤシは大阪に住んでいます。そして昔、私がちょっと好きだった人でした。

それにしても、と私はすでに腹を立てていました。「チャングム」への道を邪魔されたこともさることながら、なぜ、上京してくるのに、着いてから、とつぜん連絡を入れる?

理由はわかっていました。ハヤシは自信がないのです。事前に連絡を入れたら、私が体よく断るかもしれない、と不安だったのでしょう。

電話をすると、近くに来ているとメールしてきたくせに、もう二丁目を離れて五丁目より遠くを歩いている、と言います。わけがわからない。でもわかるから嫌です。ハヤシは自信がないのです。

とつぜんメールを入れても私に無視されるかもしれない。じっさい、すぐに私からの返信はなかった(仕事中はそんなに携帯を見ません)。やっぱり会えないかもしれない。だとすると、早くその事実から遠ざかって、今すぐ物理的に会えない場所まで歩いていかなくてはいけない。現実を見るのは、ああ、怖い。

そんな思いで二丁目から遠ざかって行ったのでしょう。そして私は、消極的な態度が積もってそんな自己主張をしてしまう人に、弱い。私の欠点です。
「会うから、戻ってきなさい」と言いました。

ひさしぶりに見たハヤシは、太っていました。そして会うなり、金がない、と言いました。

大阪で出会った頃のハヤシは素敵でした。ひょろりと痩せていて、世間から少しはずれたところにいるような雰囲気を漂わせ、眼鏡の奥の目はやさしく、私と会うと顔を赤くしました。私もハヤシさん(当時は、さん付け)に会うのが楽しみでした。

付き合って欲しい、と言われたのは私が上京する前日でした。
どういうこと? この人は遠距離恋愛が趣味の人なのか。しかし私はそうではない。
そう思いましたが、私もひさしぶりに誰かとそういう展開になったことが嬉しくて、でも最初からはなればなれで付き合うということがなんなのか、よくわからなかったので、保留というかたちを取ることにしました。

その後、東京に来た私に、ハヤシさんは頻繁にメールをしてきました。その内容は、私も読んでいて嬉しい上京応援ラブメールでしたが、そのうち伝言ダイヤル(古い)のような妄想系エロメールに変化していきました。だんだん気持ち悪くなってきて、私はメールの返信をしなくなってしまいました。
そうして連絡も途絶えて2年をすぎて、今夜。ハヤシは、もうとっくに目の前からいなくなってしまった私と、ずっと恋愛をしていたようです。

去年仕事を辞め、一度転職に失敗して、無職のひきこもりになっていました。貸本屋でマンガを借りて時間と貯金を潰す毎日だそうです。二丁目のメシ屋で話を聞きながら、それはそれで幸せそうだわ、と思いました。
「キミに送ると約束した小説も書いているよ」
ハヤシは言いました。そうでした、この人は小説家志望で、自分の恋愛を昇華させるために小説を書いている人でした。いつかそれを読んでみたい! と、まだ「ハヤシさん」だったころに私は約束をしたのでした。
眼鏡の奥で弱く笑ったその目を正視できなくて、私は、「帰ってやることがあるから!」と、立ち上がって会計を済ませました。
「チャングム」を見なければいけないことを、すっかり忘れていました。

Loading...

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

RANKING人気記事

Follow me!

  • Twitter
  • Facebook
  • instagram

TOP