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捨ててゆく私 VOL.029 鳩嫌い

茶屋ひろし2007.07.11

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家のベランダには毎晩鳩が来ます。夜明けまで、ヘタすると一日中いたりします。ねぐらというより鳩の家になっています。なぜか私の住んでいる四階の、他のすべてのベランダがそのターゲットです。三階や上のベランダには行かない模様。向かいにある電線と高さが同じだからか、理由はわかりません。

鳩が来て何が困るかというと、鳴き声と糞です。ポッポー、じゃないです。グルグルグルグル、低く響く声でずっと鳴いています。そうしてボタボタと、糞を思う存分に落としていくのです。鳴き声は一度気になるとうっとうしく、糞は見るのもその上の空気を吸うのも嫌になります。

対策として、鳩がとまる物干し竿や室外機の上を狂ったように釣り糸でグルグル巻きにしたり、糞をマメに掃除したり、鳩が来たら姿を見せて追い払ったりしました。しばらくすると、その甲斐あってか、ウチのベランダには来なくなりました。すると今度は隣のベランダに行くようになりました。隣の兄ちゃんはほとんどベランダを開けない人です。糞被害はなくなりましたが鳴き声は止みません。隣で鳴いていてもやっぱりうるさい。追い払おうとしますが、手(というか布団叩き)が届きません。鳩もいっしゅん驚いて向かいの電線に逃げますが、すぐに舞い戻ってきます。

歯がゆいし、なんだかナメられている気がしてくやしいけど、眠たい。
夜更け、朝方、午前中、と仕事に行くまでの間、少し闘っては休む、というゲリラ兵みたいな生活をしていました。そんなある日、ついに、ピーピーと雛鳥の声が聞こえてきました。

産まれた・・! 巣作りをしていたのね、あなたたち!
鳴いていたのは親鳥たちでした。一羽ではなく二羽。家族のコミュニケーションとしての鳴き声はますますさかんになりました。私は、ほぼ諦めました。隣の兄ちゃんに、なんとかしてよ、と言う気にはなりませんでした。たまに隣から聞こえる、ガラスを叩く音で、彼も辟易していることはわかっていたからかもしれません。あの気が狂うような鳩対策は、自分でしていてもけして楽しいものではなかったし、それをオマエもやれということは、なんとなく言えないのです。させるなら、今度はちゃんとしているかどうかが気になって、また眠れなくなるだろう、とか。

隣の冷房の室外機の上か下に巣ができたようです。
ところで、ウチの室外機は、冷房を使うと、外に出て行く水のパイプがきちんと排水溝に繋がっていなくて、放っておくとベランダに池が出来ます。すぐゴミでふさがってしまう排水溝も手が届かず掃除ができません。ベランダを池にしないために、パイプの下にバケツを置いて溜まった水を捨てるということをしていましたが、去年の夏はすぐにそれが面倒になり、昼間家にいないことをいいことに、ベランダを池にしては勝手に蒸発するのを待つ、という怠惰な繰り返しをしていました。

ところが、今年はまだ冷房を使っていないのに、ある朝ベランダが池になっていました。隣から流れてきたのです。鳩対策もしない、排水処理もしない、隣の兄ちゃんはわたしより怠け者だわ、と思いました。まあいいけど、と、いろんなことを諦めた私は放っておくことにしました。これが予想外の展開を見せました。

昨日の朝、私は女の叫び声で目が覚めました。隣のベランダからです。
「ちょっとコレどうにかしなさいよ!」女は怒鳴ります。男は「うへぇ」と言いながらなにやら掃除を始めました。水浸しのベランダで何かが起こっています。なんとなくその二人の会話を耳にしていて、ハッと目が覚めました。

どうやら、あの雛たちが溺れ死んだようです!
そう、巣は室外機の下にあったのね・・。雛たちには災難だったけど、これで、やっとあの鳩たちから解放されるかもしれない。
私はすこしホッとして、二度寝に就きました。
そして翌日から、親鳥たちはウチのベランダを訪ねてくるようになりました。

追い払っても電線に止まって、またやって来ます。鳥は三歩歩くと忘れると言います。でも、この、ねぐらとして居心地のよい四階だけは忘れていません。それでも、隣のベランダには近づかなくなったようです。強烈な体験は覚えていてしばらくその場所は避けるけれど、いま追い払われた出来事はすぐに忘れるということかしら・・。

本当に、鳩って平和な生き物なのかもしれません。鳩嫌いを通り越して、その生き方が、ちょっとうらやましくなってきています。

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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