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捨ててゆく私 Vol.39「夏祭り」

茶屋ひろし2007.08.16

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暑い・・ですね。
東京は連日ピーカン(そんな言葉があったような)です。さて、そんな夏空の下、先週末は二丁目の人たちのビッグイベントがありました。
土曜日に渋谷で「東京プライドパレード」が、日曜日は二丁目で「二丁目祭り」が行われました。パレードには四千人が集り、二丁目祭りでは、仲通りが人で埋め尽くされました。

私は二日とも、いつもどおりビデオ屋で働いていました。二丁目祭りの方は毎年働きながら見物していますが、パレードはまだ参加したことがありません。行きたい、と思いながら行かないまま三年が過ぎてしまいました。そのために休みを取ることがまったく出来ないわけでもない(と思う)のに、またやり過ごしてしまいました。

パレードの日は朝から陽射しがきつくて、二丁目に出勤した時点で、この炎天下の中を歩くのはちょっと私には無理かもしれない・・、と行くわけでもないのに弱気になりました。そういえば去年は「サマーフェスティバル」に行きました。野外で一日中、ロックを聞くイベントです。日焼け止めクリームを何回も塗って、帽子をかぶってサングラスをして顔にタオルを巻いて、ほとんど木陰に座っていました。楽しかったけれど、とても気合いのいるイベントでした。

パレードは歩く。初めて参加するなら、歩かなければ意味がないような気がします。
歩く・・。歩いてカミングアウトはいくらでもしますが、真夏にはなにか別の気合いが入りそうです。
だから、逆に盛り上がっていいのかしら。でもせめて十月あたりに出来ないかしら。
そしたら、メイクもドレスも陽射しや汗をあまり気にせずにできるような気がします。けれどなかなかその時期に、公園や道路の使用許可を取ることが難しいのだそうです。
お盆の、都心から人がいなくなる時期にしか許可を出さないなんて、世間はまだ厳しいわね。
なんて思いつつ、来年こそは真夏でも参加したいと思います。

暑さにはめげますが、それでもお祭りは好きなようで、パレードでほとんど人のいない午後の二丁目で働きながら、私はどこか浮かれ気分でした。夜になる頃にはパレード帰りの人たちが街に集ってきて、明日の二丁目祭りの準備も始まりました。
「明日も楽しみだねー」と相方のバイトちゃんに言ったら、「でもゴミ祭りだよ」と低い温度で返ってきました。
・・そうでした。夜勤の彼は今、二丁目の「ゴミ問題」に憤慨しているのでした。夏休みに入ると二丁目はふだんより道に捨てられるゴミの量が増えます。開放的な気分になるからか、夜は外で過ごす人が多くなるからか、朝方には飲食したあとの容器やタバコの吸殻がそこかしこに落ちているのだそうです。クラブイベントや朝まで飲んでいた人たちが、路上に座り込んでそのままゴミを道端に捨てる、それをコンビニやバーの店員たちが掃除する、という構図を毎朝見ているうちに、彼の中でそれを許せない気持ちが膨れ上がってきています。

祭りになるともっと大変。いつもより何倍ものゴミが道路に捨てられます。祭りのスタッフの人たちがゴミ箱を設置したり、呼びかけたりしますが、あまり効果はありません。けっきょく人が引け初めてから、スタッフや近くのお店の人たちが総出でどんどんゴミを片付けていきます。

ゴミを道端に捨てる人が悪いのに、なんでゴミを捨てない人がその尻拭いをしなければならないのか。
バイトちゃんの憤慨している矛盾を、ここのところずっと聞いていました。それに対して私は、「どうしてあなたは、ゴミを捨てているわけでも拾っているわけでもないのに腹を立てるあるか」とか、「常識や正義で考えるから怒りが収まらないのではないか」と思いつきでわけのわからないことを言って、混乱させていました。

それにしてもゴミ問題と騒音問題はいったん気になると際限がないような気がします。どんどん過敏に反応するようになって、そのストレスで体を壊すくらいの勢いがあるのではないかと思います。バイトちゃんの怒りが盛り上がってくるにつれて、傍で私はハラハラしていました(そのわりに火に油を注ぐようなことを言っているのですが)。

バイトちゃんはもう、「二丁目祭り」を無邪気に楽しめなくなっていました。祭りの日にかならずやってくる自分の怒りの大きさを予測して、すでに疲れた表情を見せていました。
「もうここから外にゴミを捨ててやりたい気分!」と、カウンターの中から出口に向かって飲んでいたペットボトルを放り投げるような仕草をします。自棄になっています。
「いいよ、やっても!」私は無責任にそう言いました。すると、「そんなこと出来ないよ!だから苦しいの」と顔を歪めます。
私は、上の階の住人の音がうるさくて、アパートの天井を箒の柄で突いているうちに、勢い余って天井を突き破ってしまった友人を思い出しました。
これはどうしたものかしら。
いっそ突き破ってしまえば少しは気分も変わるだろうけど、それは出来ない、と。
気分の問題ではない、とも言えそう。
そういえば私は東京に来てから、ゴミと騒音問題にあまり反応しなくなっています。強いて言えばベランダにやって来る鳩くらいです。対人間ではありません。けれど私も二十代を過ごした京都では、生活空間において、今のバイトちゃんと同じくらいに悶々としていたのです。続く・・
(すみません、もう少し書かせてください。バイトちゃんが祭りを楽しめるようになるために・・! って、もう終わったけど)

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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