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捨ててゆく私 Vol.48「怒りの方法」

茶屋ひろし2007.11.01

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お世話になります。
先日、バイトちゃんを怒らせてしまいました。
このコラムにも何度か登場していた、スタッフの中で一番若い子です。
「ところで茶屋さんは、どうして遅刻するんですか」と、さらりと反撃をしてきた悪女(わる)、変わった歌を歌いながら店に入ってきた女の子を無言で突き飛ばしたウチのビリー。
そろそろ、ポチやオーラちゃんのように、ここでの呼び名を考えようと思っていました。
見た目から、ザックにします。出典は、「デスパレードな妻たち」というアメリカのTVドラマからです。毎度ながら、知らない人には申し訳ありません。
ザックはなぜ怒ったのか。
今月の初めに、私は休みを一日取ることになっていました。ついでに公休の曜日と繋げて連休を取ることにしました。昼間一人で店番をしているため、休みを取ることになると、代わりに入ってもらう人が必要となります。そうすると、その代わりの人がいつも店番している店にも、もう一人代わりの人が必要となります。それはいつもザックに頼むことになっていました。シフトの時間もそれぞれの店によって変わってくるため、それぞれの人にお願いしなければいけません。
まず相方のオーラちゃんに言って、社長の許可を取って、交替要員の人にお願いして、それぞれの場所を仕切るオネエ様方に報告をする、と言った具合に、休むとなると、ほぼスタッフ全員に事情を説明しなくてはいけなくなります。
それが、ザックにきちんと報告することを、私はうっかり忘れていたのです。
連休の前日になり、そのことをお局ねえさんから知ったザックは激怒しました。それを知った私は、即座に謝りました。ザックはこれでもかというほど怒っています。肩を怒らせ私の顔を見ることもせず、「(この怒りを解くのは)今は無理です」と繰り返しながら家に帰っていきました。
「ごめん、うっかり忘れていて・・」
謝罪の最中に私が放ったこの一言が、さらにザックの怒りに火をつけていたのだと、私はこのとき思いもよりませんでした。
そして連休を迎えた私は、「女祭り」に行きました。(遅ればせながら、スタッフのみなさま、参加させていただきありがとうございました! とても楽しかったです)
中でも、辛淑玉さんの話にたくさん度肝を抜かれました。
世の中にはすごい人がいる、と思ってふらふらと家に帰ってきた私は、辛さんの「怒りの方法」(岩波新書、2004)を読み始めました。自分が怒りを覚えたときに、それをどうやって相手(または社会)に伝えるか、について、辛さんの経験に基づき様々な方法が開示されていきます。いろいろと感じ入りながら読んでいた私は、ふとザックを思い出しました。
そうでした。今の私は、自分の怒りをどう相手に伝えるか、ということより、ザックに怒りをぶつけられていたのでした。
本をパラパラとめくっていくと、「相手の怒りを鎮めるには」という項目がありました。少し引用します。
―― 相手の主張を理解し、そしてその感情を相手以上に整理して、言葉にして返す。これが、正当な怒りと向き合うための基本なのだ。
と書いてありました。
連休が明けると、ザックは私と口をきかない人になっていました。ただ周囲には気持ちをもらしていたようで、それを聞くと、どうやら彼は、自分だけ情報が伝えられていなかった、ということに強い怒りを感じているということがわかりました。私もわざとではなかった、という言い訳はもはや通用しないような気もします。
自分の存在を無視されること、軽んじられてしまうことへの怒り。
私の放った「うっかり忘れていて・・」の一言は、ザックには禁句だったのです。
私はそんなザックの気持ちに鈍感で、あくまでも軽く謝ってしまったため、ザックは絶望に近い感情を持ってしまったようです。
あらためて謝りましたが、私を見ると怒りで硬直してしまうザックを前に、私は「ごめんなさい」としか言えませんでした。辛さんの言う方法に持っていけません。
あれから二週間が経ち、ザックは相変わらず私を見ると嫌な顔をします。だんだん私もそんなザックを見るたびに嫌な気持ちになってしまい、二人して負のスパイラルをぐるぐる廻っている状況が続いています。相手の怒りに呼応して、私も腹が立ってしまうのです。
「もう、しつこい! いつまで怒っているの」
と言いそうになる私を、お局姉さんが傍らで、「それは違うでしょ」と、たしなめます。加えて、「あとひと月、お互いをそっとして置きなさい」と提案してくれました。
確かに、この状態をどうすることも出来ない私たちは、時間に頼る以外にないかもしれません。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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