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捨ててゆく私 Vol.49「恋に落ちない」

茶屋ひろし2007.11.07

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最近バイト先で、相方のオーラちゃんに、「茶屋ちゃんは恋に落ちないオカマだから」とよく言われます。
「なにそれ。意味がわからない。そんなことない! と思うけど・・」
反論しようと、この一年くらいの自分の恋愛状況を思い浮かべますが、オーラちゃんの言う通りかもしれないと、すぐに自信がなくなります。
「ちょっと待って・・!」瞑想を続けます。

ハイ! 一人発見しました。サチオちゃんがいる。
サチオちゃん(小林幸子が好きだから、サチオちゃん(仮名))に出会ったのは一年くらい前の話です。
ある日、職場のP子さんにカラオケに誘われました。
「茶屋ちゃん、私こないだとても歌の上手な子とカラオケに行ったの。何が一番びっくりしたかって、ひばり(美空)。私もこれまでずいぶん色んな人と組んできたけれど、あんなに上手にひばりを歌いこなせる子には初めて会ったわ。でもその子が一番好きな歌手は幸子なの。今度また行くんだけれど、茶屋ちゃんもご一緒にどうかしらと思って」
まあ、すてき。

美空ひばりは難しい。私にとってひばりはちあきなおみと同様に、一曲をなんとか格好つけて歌えるようになるのにとても時間がかかるのでレパートリーがなかなか増えない歌手の一人です。それを何曲も歌いこなすという人にはぜひ会ってみたい。
それに小林幸子を好きな人というのも初めてです。紅白の幸子を楽しみにしているゲイはなんだかんだいっても多いような気がしますが(派手だから)、ゲイバーや友人ゲイたちとのカラオケで幸子の歌を歌っているゲイにはまだ会ったことがないような気がしました。
そもそもP子さんは、ちあきなおみ~いしだあゆみの流れを汲むオシャレ歌謡曲路線。私は、藤圭子~青江美奈の辺りを巡る演歌情念系。以前P子さんと二人で五時間組んだときは、好みは違うとは言え、かぶる歌も多々ありました。それでも幸子は出てきませんでした。

初めて会ったサチオちゃんは、とても可愛らしい二十代の男の子でした。小さい顔に黒い伊達メガネ、白いファーのついた白いジャケットにピッタリした黒のスリムなジーンズを腰で穿いてくしゃっとした皮のブーツを履いていました。この限りなくギャルに近い格好、でもすべてメンズで、イコールゲイ。全身から子犬のような可愛さを放っています。

サチオちゃんの歌はP子さんの言うとおりすばらしいものでした。馴れた手つきでキーをパパッと調節して、裏声でも地声でもない心地よいテノールで、ひばりを、幸子を歌います。ひばりも、後年の演歌ではなく、初期のマドロスものを歌うのです。私の横で小鼻を広げて、本当に気持ちよさそうにコブシをまわします。P子さんは背筋を伸ばして半ば目を閉じて歌の世界へ入っていきます。私は二人の歌う姿を見ているだけでとても幸せな気持ちになりました。

私が研ナオコを歌い終わってサチオちゃんに、「私、研ナオコに顔が似ているってよく言われるの」と言ったら、「オレもよく言われます!」と嬉しそうな笑顔が返ってきました。
その瞬間、私は恋に落ちました。
そこで共感が来るとは思いもしませんでした。
ところがそれきりサチオちゃんに会わなくなりました。半年が過ぎ、私の仕事先に遊びに来たサチオちゃんにひさしぶりに再会したのは、つい先月のことでした。
「またカラオケに行きたいねー」というような話から、ようやく私は携帯の番号を交換することに気がつきました。赤外線受信を二人で試みます。二人とも同時に受信しようとしていたことに気がついて、「ぜったい茶屋さんウケでしょう!」とはじけるように笑ったサチオちゃんに、私は再び混乱してしまいました。
ナオコ同士、ウケ同士、サチオはオネエじゃないけれど。
落ち着こうと一句詠んでみました。それでも私はドキドキしていました。やっぱりこれは恋かもしれません。
そして先週、ちょうど前回のコラムで書いたザックとの関係にクサクサしていた私に、サチオちゃんからカラオケのお誘いメールが舞い込みました。グッドタイミングとはこのことです。飛びついた私は、その夜五時間ほどサチオちゃんの歌を堪能しました。
帰りの夜道でサチオちゃんは「楽しかったー!」を連発します。この前職場のポチに、ズボンのポケットに手を入れて歩くのは可愛くないからやめなさい、と言っていた私がいつのまにかそうやって歩いていました。オッサンになっています。サチオちゃんは私をのぞきこんで、「好きな人はいるの?」と子犬の目で聞いてきました。
今だ! と思いました。これでこの子を家に持って帰ることができる、と。
ところが私は、「いないよー」と笑って答えていました。
ああ、恋に落ちないオカマ・・。

こういうタイミングは一回こっきりだと思います。それを外してしまいました。好きな人はいない、と答えてすぐに後悔しました。「僕も今は彼氏いらない・・」と答えたサチオちゃんと一緒に夜空を見上げました。新宿の空にオリオン座が見えました。続く・・(うそ、続いてほしい)。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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