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捨ててゆく私 Vol.56 「その後の話」

茶屋ひろし2007.12.31

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クリスマスも終わり、いよいよ今年も残りわずかですね。この連載を始めさせていただいて一年も過ぎましたので、今回は少し調子に乗って、今まで書いた話の中から二編選んで、その後の話を書いてみたいと思います。

「パンツさん」(07.01.17)
パンツ(下着)を買ってくれるからパンツさん。
パンツさんは今もときどき週末に、なにか食べ物を買って店に来てくれます。店外デートはもうしていません。
「温泉に行こうよ、部屋は別々でいいからさ」と言われたり、まだ鳩バスに乗る計画を立ててくれたりもしていますが、私は、パンツさんと表で会うという状況にリアリティーを持てなくなってきています。さらに、最近は返事のひとつもまともに返せなくなっていて、ハーとかへーとか言って笑っているだけです。誘われても嫌だとか困るとか強く思うわけでもありません。ただただ、関係がどんどん薄まっているだけなのだと思います。
そんなある日、夏の終わりだったでしょうか、パンツさんが若い男子を連れて店にやってきました。誰かを連れて来たのは初めてのことです。私とは明らかに十は違う男子でした。彼は伊勢丹の紙袋を下げています。パンツ(下着)がその中に入っているのでしょうか。パンツさんはやけに朗らかです。なんでしょう、普段はつぶやくような声を出すのに、その日は威勢のいい声で、「アレ、入った?」と、探しているビデオを私に尋ねます。魚屋みたいです。私はいつもと違う空気に呑まれてしまいました。かろうじて首をかしげてみせたところ、突然連れの男子が無邪気に、「この店に芸能人は来ますかー?」と聞いてきました。
「来ない」と、私はついぶっきらぼうに答えてしまいました。するとパンツさんは嬉しそうに、「オマエそんなこと聞くなよー」と笑います。その瞬間私は赤面しました。
この状況が、なんだか、とても恥ずかしいー!!
自分の希望しない関係性に組み込まれてしまったような気がしたのでした。思わぬ次世代へのバトンタッチか、はたまたパンツさんの陰謀か・・。そんなの、どっちでもどうでもいいはずなのに、なにか答えを迫られている、そんな気分になりました。すぐにこの状態から脱しなくてはいけません。私は魚屋の兄ちゃんに徹することにしました。イキのいい魚を売るのが務めです。「アレ」ではない、他のビデオを選んでレジに持ってきたパンツさんに、いつもより店員の態度で接しました。
それでもパンツさんは、私が不快に思ったことを悟ったか(そこらへんは勘がいい)、その後一ヶ月は私の前に姿を現しませんでした。

「怒りの方法」(07.11.07)
私が怒らせてしまった職場のザックという男子の話です。怒らせて以来ザックが私に嫌な顔を見せるようになって、私もその顔を見て嫌な気分になって、その状況を打破するためにどうしていいのかわからない、というところまで書きました。
その後、ザックの嫌な顔は一ヶ月半も続きました。ほんのついこないだまでです。
毎日毎日、ザックは私に嫌な顔を向けてきました。私は、「なによその顔、ブス!」と怒鳴りつけたい気持ちを抑えに抑えて、なんとかその顔をスルーしていました。
なぜなら、今回のザックの件を相談した人たちは、みんな口を揃えて、「ほっときなー」と言ったからです。
そういう態度をする人に、放っておく、という対応をしたのは初めてかもしれません。とてもストレスが溜まります。話し合うとか、喧嘩するとか、キレてわけがわからなくなる、というのが今までのやり方でした。けれど振り返ってみても、それで関係が良好になったケースはありません。話し合うといっても、そもそもそういう時は口をききたくないわけだから成立したためしがないし、喧嘩は暴力の応酬で恨みが残るし、キレてもただ疲れるだけでした。
放っておく・・私はそのあいだ、ザックに対して「おはよう」と「ありがとう」しか言いませんでした。そんなある日、休み明けに出勤すると、ザックの様子が変化していました。嫌な顔をしなくなっています。私の前で鼻歌すら歌っています。どういうことでしょう。時間が解決したのでしょうか。あまりにも劇的な変化についていけず戸惑う私に、お局姉さんがこっそり教えてくれました。「昨日ね、P子さんがあの子を叱ったのよ」
それは私に関係のある話ではありませんでした。ザックの仕事振りに対してP子さん(お局姉さんよりお局さま)が雷を落としたというのです。「その時あの子がP子さんに対して、あの嫌な顔をしたわけ。そしたらさらに雷が落ちて・・」
素敵だわ、P子さん、と思いました。それでザックの心境がどうなったのかはよくわかりませんが、オーラちゃんは、「いっぺんに二人(に嫌な顔をすること)は無理なんだよ」と判定しました。たしかに、時間という薬も効きはじめていたのかもしれません。私はこれで年が越せるわ、と安堵しました。ここのビデオ屋は年末年始も営業します。

以上、二編のその後の話を書いてみました。
私はなにかこう、相手の世界に巻き込まれる感じが苦手なのかもしれません。巻き込まれたい世界もありますが、そうでない状況に入ってしまったとき、そこから脱出するのは難しいものです。気にするな、と言われても気になるから問題になっているわけで、気にならないものなら、はなから頭にないのです。
今年も読んでくださってありがとうございました。北原さんを始め、LOVEPIECECLUBの皆様にも心より感謝しております。来年も、気になることを書いていきたいと思っています。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。それではみなさまよいお年を!
茶屋ひろし

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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