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捨ててゆく私 Vol.65「ミックス・バー」

茶屋ひろし2008.02.28

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ゲイバーには幾つか種類があります。二丁目で働いていてわかった分け方は、ゲイバーと呼ぶのはゲイがやっていて客もゲイオンリーの店のことで、ニューハーフがやっていて客はノンケの店は観光バーと言って、別物であるということでした。
ビデオ屋にいると、道を行くノンケから、「この辺におもしろいオカマバーはあるか」と尋ねられることがよくあります。これはたいてい観光バーを指しています。ゲイはオカマでニューハーフのことを言う、と思い込んでいるノンケが多いからです。
前は、そういうノンケには、違いを説明して具体的な希望を聞いてそれぞれの場所を教えたりしましたが、最近はそうしたことも面倒になり、そう聞かれたら、「言っている意味がわからない」と即座に返すようにしています。そうするとほぼ全員黙って引き下がってくれます。

自分で調べてから来たらいいと思う、と、そんな冷めた気分です。
けれど、観光バーではないゲイバーでも、ミックスという、ノンケ客が入れる店もあります。ゲイがやっていて客のセクシュアリティーは問わない店。私がいつも飲みに行くお店もミックスです。そう、私はそれをミックス・バーと思っていました。
先週末に博多に遊びに行きました。一人で行って二泊しました。昼間は街や港をぶらぶら歩いて、夜は博多のゲイバーへ行ってみました。

ゲイの世界にはゲイマップという便利なものがあります。全国のゲイバーやゲイスポットが紹介されている本のことです。東京や大阪といった大きな都市だけではなく、札幌から那覇まで、有名な地方都市にはたいていゲイバーがあります。
ゲイが旅行するときは、その土地に知り合いがいなくてもそこにゲイバーがあれば夜を楽しむことが出来るようになっているのです。
なかでも札幌や博多はゲイバーの数が多い街です。

事前に職場で立ち読みをして一軒だけ目星をつけました。あとはそこに行けば、流れで他も知ることになるでしょう。
最初の一軒目で軽く飲みながら店の人と話していると、近所のミックス・バーを紹介してくれました。客はノンケが多いがおもしろいけん行ってみ、と言われて行ってきました。通りに出て二つ目の路地を曲がると、一軒家の一階にすりガラスの扉が付いている店が見えました。扉にはローマ字で大きく「シン アンド ケイコ」と書いてあります。なんだか仲の良いカップルがやっているような雰囲気です。扉を開けると「いらっしゃいませー」とオカマちゃんの声がして、六畳ほどの広さの店内には、カウンターに客の男女の三人組と、ヤクザのような切れ切れの眉毛と坊主に、体の肥えた黒いパーカーの男が、それぞれの隅に座っていました。カウンターの中には、茶髪で少しぽっちゃりしたオカマちゃんと、黒い襟シャツを着て少しヒゲの生えたホスト風の男子が入っています。
この二人がケイコとシンかしら、と思いながら、私はヤクザ風の男の隣をひとつ空けて座りました。

お絞りをもらいながら初めての来店であることを告げると、「えーっと・・」と言われたので、「ビールを」と注文しながら「オカマです」と自己紹介をしました。ヤクザな男が笑い、オカマちゃんも「久しぶりに聞いたわ、その言葉!」とはしゃいでくれます。
「ヴィトンです」と、そのオカマちゃんは名乗りました。美しい豚と書くのだそうです。「あっちはトモヤ、オナベでーす」と奥の男子も紹介してくれました。二人はシンとケイコではないようです。ヤクザ風が、「俺はノンケやと」と、私を見て横に手を振ります。楽しくなりそうです。ヴィトンちゃんとその男としばらくしゃべっていると、女形のような顔をしたロンゲの男子が「おはようございまーす」と入って来ました。彼も従業員でした。名前はダイアナ、大きい穴と書くそうです。二人とも女装しているわけではありません。そうしているうちに、背の高い綺麗なニューハーフの人が出勤してきました。一目見ただけで、外見をぜんぶ女性に変えた人だとわかります。この店のママでした。軽い子と書いてケイコさん。これで従業員はすべてそろったようです。シンという人は見当たりません。
でもちょっと待って、と私は四人を見渡しました。そして、
ミックスって、店員のことなんだわ・・! と驚きました。
これは初めての経験です。
なんだか嬉しくなってきて笑いがこみ上げました。

ケイコママがカウンターに入ってきて、笑っている私にニンマリと笑顔を向けると、
「金玉はいつ取るの?」
と、いきなり投げてきました。「取らない」と笑いながら答えると、「取るなら早い方がいいわよ、あなた若いって言われるだろうけど、三十はとっくに越えているでしょう」と、早口で言って、またニンマリ笑いました。
するとダイアナちゃんが、「オネエで何が悪い、って最近思うけん。アタシはアタシみたいなのこそホモです、って言いたい。ていうか、イカホモはあんなのホモじゃないと!」と宣言します(イカホモは、オネエっぽい言動を排除しようとするゲイのこと)。
そこへヴィトンちゃんが、「ママのことをこの人、いまだに女装してる人、って言いよるけんね」とヤクザ風を指差して私に笑いかけます。

怒涛のような接客です。この、一見つながりのあるようなないような発言の流れも意味も、なぜ私に向かって言われているのかも、私にはすべてすぐにわかった気がしました。なにかと直結してしまった、という感じです。トモヤくんは奥で静かに笑っていました。
話が早いわ、楽だわ、楽しいわー、と、それからダイアナちゃんとヴィトンちゃんといっしょにヤクザ風なノンケ男をからかいながらお酒を飲み続け私はすっかり酔っ払いました。
こんなミックス・バーならいつでも来たいと思いました。お客は、そのあとも入れ替わり立ち代り次々に入ってきましたが、たまたまなのか、ゲイは一人も来ませんでした。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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