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二丁目には、「ミーちゃん」と、(勝手に)人々から呼ばれているホームレスの男性がいます。七十歳は過ぎていると思われます。愛称の由来は、アニメ「ムーミン」に出てくる女の子からだそうです。誰がつけたのか、本人はそのことを知っているのか、私は知りません。長くて量のある白髪交じりの髪をポニーテールのように結って、ロングスカートを穿いている姿から、そう呼ばれているようです。
私も最初に見かけたときは彼のことを女性だと思いました。日に焼けた赤い顔を見ても性別がつきませんでした。ある日、男性だと職場の姉さんに聞かされました。

「だって私、新宿駅でミーがアソコをぼろんと出して寝ているところを見たんだもの」
と、姉さんはその決定的瞬間を語りました。

じゃあトランスなのかしら、とそれからしばらく思っていましたが、日々見かけるたびに、なぜかだんだん男性に見えてきて、今では、トランスとかじゃなくてスカートはラクだから穿いているんだ、というふうにまで解釈するようになりました。それは、本人としゃべったことのない、勝手な私の想像の経緯です。

最近、もうひとり、ミーと同じくらいの年齢のホームレスの男性を二丁目でよく見かけるようになりました。こちらはマハトマガンジーのような顔と格好をしています。大きな包みを二、三個つんだリヤカーを押しながら、私のビデオ屋の前を通り過ぎます。いつもそのリヤカーの取手に造花をつけています。そこから、彼はオカマかしら、と想像しましたが、それ以外はガンジーなのでよくわかりません。

ところが、先日いつものように店の前を通り過ぎたガンジーに、私は目を見張りました。細い足に花柄の編みタイツを履き、その上にはチュチュのようなヒラヒラしたミニスカートを穿いています。これはオカマです。ミーのスカート姿とは違います。ノンケの女装愛好者かもしれませんが、私はオカマだと思いました。あまり根拠はありません。
おかしなことに私は、そうだったのね、と大きく安堵していました。
けれどいったいそれは何に安心しているのでしょう。

そう、私はいつも人を見るとき、男女の性別はもちろん、その人のセクシュアリティーが何かまで、知りたがっているのです。表面では、そんなことどうだっていいじゃない、というふりをするのが礼儀だと思い、逆に人からの詮索は嫌がるくせに、じっさいは、相手のセックス状況(ヘンな言葉・・)が、どういうものなのかを知るまで、落ち着かなかったりしているのです。それで、ヴィジュアルだけでも私が知っているいくつかのタイプと合致すれば、安心するのかもしれません。

よくわからないものは名付けないまま放っておけばいい、と基本的に思っていたはずなのに、私の心理はまったく逆を行っています。
放っておけないらしい。
むしろ私の中で名付けられたものが増えていくにしたがって、よくわからないものに対して不安を覚えるようになっている気がします。
以前、大阪で勤めていた今と同じようなゲイのアダルトビデオ屋にいっしょに働いていた人でFTMの人がいました。当時の私はそのことを知らなくて、彼をゲイの男性だと思って接していました。
彼はぽっちゃりとしていていつも膝丈の短パンを穿いていました。その頃季節は春でした。その短パンからのぞく脛の毛と、口周りの髭で、私はすっかり男性だと思っていました。いろいろと話していくうちに彼の、女の子と同棲している、とか、男性器は拝みたくなる、との発言に、ゲイ男子にしてはちょっと変わってるわ、と思いつつも、彼自身の雰囲気に落ち着かないということはありませんでした。

私のほうが年下なのに彼は私を「姉さん」と呼び、重たい荷物の搬入のときは彼が率先して運んでくれていました。そんなベタな関係だったせいか、そこの仕事を辞めて上京したあと、そこで働いていたもう一人のスタッフに彼がFTMだったことを聞いた私は拍子抜けしました。まったく思いもよらなかった自分にも驚きました。
それは知らないままでよかったかもしれない、とふと思いました。
ただ、彼に、おっさんにつきまとわれている、と相談を受けたときのことを思い出しました。深夜にふらりと入ってきた酔っ払いが一人で店番をしている彼を口説きにかかり彼は断ったが、それからというもの、彼が店を閉めるときにそのおっさんが表で待ち伏せしているのだ、という話でした。

嫌だ、怖い、という気持ちはよくわかり、オーナーに相談して手を打ってもらうことになりました。けれど私はどこかで、彼は私より力持ちの男だから私が思っているより怖くないかも、などと考えていました。けれどFTMの話を聞いて、そこは、私が思っていたより怖かったのかもしれない、と思い直しました。
もう少し話せるようになっていたら、関係もまた変化していたかもしれません。

ミーが通りガンジーが通る店の前を、先日は学生時代の友達が通りかかりました。上京後に一度会ったきりで連絡の取れなくなっていた人でした。彼女は私が二丁目で働いていることは知っていましたが、まだ働いているとか、どこで働いているかは知らなかったので、半分くらいの偶然です。
彼女はダンナと小さい子どもといっしょでした。私は彼女が結婚して出産して子どもがいることを知っていましたが、じっさいにその二人には会っていなかったので、それが初対面でした。
再会を喜んだあと、ダンナとその腕に抱かれている子どもに挨拶しました。親二人から、その子の名前と、年が三歳だということを聞きました。
名前を聞いても性別がわからなかったので、見た目から、男の子? と聞きかけて喉がつまりました。あ、聞けないんだ私、と思って、そのまま聞かないことにしました。
聞いても支障はないと思いますが、子どもの性別は、どっちなんだろう、くらいがちょうどいいような気もしました。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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