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いつも私は通勤途中に、小学校と中学校に挟まれた道路を自転車で通り抜けます。

今日は小学校のプールから子どもたちの声が聞こえました。プール開きでしょうか。道路とプールは、しっかりとコンクリートの壁で覆われていて、外部の者が中の様子を見ることは出来ないようになっています。私の頃は針金できた大きな網目のフェンスしかなかったなーと思います。ただ、プールのちょうど角に立てられている小さな交番の中からは、プールと校庭が一望出来るようになっているようです。これを防犯とみて安心するか、交番勤務の人を信用していいのか、迷うところです。

向かいの中学校はこの春にオープンしました。二年前くらいから、雑木林と空き地から平地になり校舎が建設されていく様子を毎日見ていました。出来上がった校舎を見ながら、これが最新式かしら、と思いますがよくわかりません。ただ、正門から昇降口へのぼる階段は幅が百メートルくらいあって立派です。これからたくさん中学生とすれ違うことになるのかと、「オカマー」と指を差されることがあるのかと、春の入学式の縦看板を見たときに過剰な覚悟をしましたが、私の通勤時間は四時限目の終わりごろなので、あまり中学生を目撃することはありません。たまに早退した子が正門を出てくるところに出くわすくらいです。

三十歳を過ぎて近くに子どものいない私には、小学校や中学校はあまり接点のない世界ですが、毎日その間を通り過ぎていると、その頃の自分がふいによみがえることがあります。プール開きに今日は「毛」を連想しました。第二次性徴の思い出です。
小学生の頃はまだ意識していませんでしたが、中学生にもなると「毛」問題が浮上しました。私は第二次性徴が遅く、声変わりと下の毛が生えてきたのは高校一年生の終わりごろで、腋毛が生えてきたのは高校を卒業するくらいでした。

人より遅いということを恥ずかしく思い始めたのは中学生の頃です。背は低く声は高く脛毛もないツンツルテンで、他の男子に引け目を感じていました。それが明からさまになるのは体育の授業の時で、プールの時間はその際たるものでした。
かといって性徴の早い子は早いことに悩んでいて、中学一年生で黒々とした脛毛を見せていた同級生は、時々家で剃ってきてプールに臨んでいたことを覚えています。

けれど私のようなスピードの子も三人くらいいました。そのうちの一人といっしょにトイレに入ったとき、私に下の毛が生えたかどうかを、真剣な面持ちで確認されたことを今でもよく覚えています。私はまだ生えていないくせに、「大丈夫。そのうちだよ」と、彼を励ましていました。信憑性がなかったか彼の表情は明るくなりませんでした。

お互いに、周りと同じくらいのスピードを望んでいたのだと思います。黒々とまではいきたくない、ツルツルでもない、ほどほどの生え具合。それを獲得した高校生の中盤には、これでもう・・、と、一息ついた記憶があります。

それからどんどん年を取るにつれ、毛が生えているのは当たり前のことになり、各所の濃さも増してきました。今にして思えば、あの辺りで止まっていて欲しかった、などと思います。むしろツルツルのままで良かった箇所もあります。肛門周りの毛に関してはまだ存在を受け入れきれずにいます。

今の私は腕や顔は毛の薄いほうです。髭は昔のオカマみたいに剃らずに抜くくらいで事が足ります。高校生の頃に「真夜中のパーティー」という古典的なアメリカのゲイ映画を見たときに、そういうオカマが出ていたように思います。ただ映画の中の彼は、髭を抜きすぎて穴ぼこだらけになってしまった、と他のオカマたちから揶揄されていました。気をつけなければいけません。私はまだ性徴を続けているらしく、髭の量が毎年増えていっているからです。そろそろ毎日剃るか、脱毛するかの判断を自分にせまられています。

たしかに抜いた後の肌は痛み、跡が残ります。化粧水をつけるだけではカバーしきれない感じです。先日ゲイバーで会った人は私の年のころに髭の永久脱毛をしたらしく、「いいわよー、なんだか顔全体の肌もキュッと締まる感じになるわよ」と、魅力的な未来を示していました。

髭と脇毛の脱毛に関してはまだ悩んでいます。脛毛は短パンを穿く季節になると専用の剃刀で梳きます。量と長さを減らすのです。眉毛や鼻毛と同じ方法論だと思います。髭と脇毛の脱毛にためらうのは、濃くなってきてもそんな感じで調整していけばいいかな、と思うからです。

肛門周りは永久に脱毛してしまいたいと思います。それはお尻を拭くときに不便なことと、セックスするときに(あまりしませんが)気になるからです。

性器周辺の毛に関してはあまり悩みがありません。あるゲイバーのママの、「フェラチオするときに多すぎて邪魔なときは、相手のをカットしてあげるの」という美容師発言を聞いて、そうか、カットね、と納得してからかもしれません。
一転して頭髪はこれから薄くなる可能性があり、それはそれで植毛か坊主の方向を考えなければいけません。
いけません・・ですか、とアレコレ「毛」について考えていると気が遠くなりそうです。
いいじゃない、ありのままで、なすがままで、とフッと飛んでしまいたくなります。
「毛」で悩むことができるなんて不遜な気もします。
けっきょく人の目を気にしているのだと思われます。ほどほどの生え具合って、いったいなんでしょう。それは、「わたしはこういう姿で愛されたい」という願望を通り越して、もはや私のコミュニケーションの方法のようです。もしかして私は、自分と相手の「毛」の状態によって接し方が変わっているのでしょうか。

ゲイの世界では体毛が濃い人も禿げている人も性的な対象になります。それを知った時、私は驚きとともにその価値観に慣れようとしました。でもまだ慣れていないのかもしれません。女性の体毛ほどではありませんが、男性の体毛も、場合によっては汚いとか見苦しいといった印象でとられます。ネガティブなイメージを振り払うには、色んな人の色んな毛の状態をたくさん見たほうがいいような気がしました。幸い私はビデオ屋で働いていて、ビデオのパッケージをたくさん見ます。それでも「毛」ばかりに注目していてもしょうがないようです。なんだか人として交流していかなければ・・。
そんなある日、お店に入ってきた男性に私は目を奪われました。その人の耳穴から黒い筆が生えていたのです。それは直径一センチ弱の毛の束でした。初めて見る量です。男性は平然としています。
と、表現することは失礼か、もしくは、それは男らしいのか、と迷いながらも、その量に圧倒されました。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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