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三匹の猫とむかえる春

北原みのり2009.03.25

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ラブピースクラブのテラスに時々遊びに来ていた野良猫のボリが、冷たい雨の日に頭にザックリ穴をあけて、ギャー! と一回だけ叫んでよろよろと近づいて来たのが、去年の10月。病院に連れて行き、体を洗い、傷の手当てをして、感染症の検査をした後はラブピースクラブにしばらくいたのだが、いろいろあって、今は私の家にいる。
 
ボリは「別宅」の猫であった。本宅には生まれたての頃から一緒にいるハチとオクという二匹の猫がいる。命の終わりが私たちに別れをもたらすまでは・・・という決意のある私の「家族」。しかしどちらかというとボリとは、「出会ってしまい・・・なりゆきじょう・・・どうしても・・・」というような関係だった。
二重生活をしていこう、と思っていたのだ。本宅は本宅、別宅は別宅でのおつきあい。どこかでボリは「野良猫」であると思っていたし、いつかボリにとって最適の場所を見つけるまでの、今はたまたま私のところ、という思いで。
 
それが、少しずつ変わっていったのはボリの変化があまりにもめざましかったから。
雨の夜からほぼ一月は、小さな段ボールの中、奥の方にじーと座り、のぞこうという気配をみせただけでも、フゥーッ!! と激しく怒りまくっていたボリが、ラブピースクラブのスタッフが全員帰った後、私と二人きりになったとたんに段ボールから「やれやれ」って感じでゆっくりと出てくるようになったのだ。小さく首をふりながら、くぅーと前足を伸ばして背中をふくらませながら、はぁ、と小さくため息をつくようにして外に出てくる。まったくもー、疲れたよ、というような調子で食事をはじめる。食べ終わったら、いつの間にか私の足下にいて、前足をなめていたりするのである。
 
それからしばらくすると、今度は私の机の上に登るようになった。ボリのことなんか見てないよ、というようなフリをしながらコンピュータに向かっていると、ヒョイと机に飛び乗り静かにコンピュータの近くまでやってきて、その横でコロンと寝るようになったのである。触ろうと手をのばすと、ビクっとして逃げてしまうが、時々は抱かせてくれる。抱いているとゴロゴロとのどをならして小さく小さく丸くなる。丸くなった背中が少し硬いので、緊張しているのもわかる。ボリは必死で、私にだっこされている。
こんな時間。私はとても神聖な気持ちになる。とてもとてもとてもとても脆くて繊細な「信頼」という感情に忠実でありたいと、ボリに誓わされるような気持ちになる。
 
猫と暮らしてよかったな、と思うことはいくつもあるけれど、こんな風に「関係」にハラハラするのも、その一つだと思う。ただただ可愛いだけじゃない。距離感をもちながら、相手との信頼を壊さないように、共に暮らす楽しさ。静かな猫と静かにいるその時は、本当に静寂な時間なわけだけれど、常に私の心のなかでは、ボリとのことがあふれるように言葉になって紡がれていて、充足しているのだ。
 
そして今年の1月から三匹との生活をはじめた。
自分たち以外の猫を、もう2年以上みていないハチとオクの様子が心配だったが、まぁ「絶対に無理!!!!」というような状況ではなさそうだ。快楽主義で、偏食気味で、またたびに弱く、高いところが大好きなハチは、ボリをみるとどういうわけかしゃくに障るらしく バコン! と叩きに行く。オクは最初こそシャーシャー怒っていたが、最近は鼻をくっつけあってコンニチハをしたり、じゃれたりと仲良くしている。
それにしても一番驚いたのは、ハチもオクも大嫌いなお風呂時間(シャワーでシャンプー)を、ボリが全くいやがらなかったことだ。むしろ気持ち良さそうに私の腕に抱かれながら暖かいシャワーを味わっているようにすらみえた。大人しく、じっと、ゆったりと。ハチなんて怖くてオシッコちびっちゃうのに。オクなんて大暴れして怒るのに。猫、一匹、一匹、あまりにも違いすぎる! おもしろすぎる!! (・・・こうやって、大島弓子さんも、笙野頼子さんも、町田康さんも・・・猫を増やしていってしまったのだろうか。。。)
 
最近、窓をあけると、ふんわりと、春の空気が入ってくる日がある。
花粉症のオクは窓をあけるととたんに目をしばしばさせかゆがる。ハチとボリは、窓があいた・・・と一目さんに窓にかけより、鼻をひくひくさせてにおいをかいでいる。気持ちよさそうに、あたたかい空気のにおいをかいでいる。
春がすごくうれしいね、ってオクを毛布につつんで抱きながら、幸せな三匹と一人の一時。・・・ちなみに、パートナーのモッチちゃんはボリに激しく嫌われている。「いつまでもなつかなかったら、捨てるよっ!!!」 と悔し紛れに怒っているが、私はそういう時、猫の目になっていて、「なんでまぁ大きな声を出してるの?」と不思議な顔をしていると思う。鼻はひくひく、春のかおりを。
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北原みのり

北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めてフェミニストが経営する女性向けのプレジャートイショップ「ラブピースクラブ」を始める。2021年シスターフッド出版社アジュマブックス設立。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)・佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

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