ラブピースクラブはフェミニズムの視点でセックスグッズを売り始めた日本で最初のトーイショップです。

南田洋子さん

北原みのり2009.10.25

Loading...
 南田洋子さん、亡くなった。
 テレビニュースで夫の長門裕之が号泣。ひんやりとする。
 
 たとえばもし、もし。江利チエミが高倉健と離婚せず、今も生きていて、日本男児の心のふるさと“健さん”の認知症を公開したら、どうなるのだろう。(南田&長門夫妻と同様1930年代生まれ、同世代です)
 「世間」が黙っていなさそうな気がするのは、私だけでしょうか。
 
 夫の長門裕之がテレビで南田洋子さんの姿を公開したのは一年前。今年に入り『待ってくれ、洋子」という介護本を出し、雑誌『週刊金曜日』では、「認知症患者への人権侵害じゃないか?」「金のために、そこまでやるのか?」等の批判に、「批判は批判で受けとめたい」と言いながらも、私生活を切り売りするのも俳優の仕事(パブリシティ)であることや、南田さんのドキュメンタリーにより認知症への理解を深めてほしい、というようなことを話していた。
 
 84歳の祖母と「南田洋子問題」について話した。私はどうしてもあれが「美談」であるとは思えん。売名行為だろとかいう批判をしたいわけではない。そんなことはどーでもいい。ただ、いやーな気持ち、ひんやりと苦しい気持ちいっぱいになるんだよ、おばあちゃんはどう? 聞くと祖母はハッキリと大声で言う。「長門裕之は、最低だ。夫として、最低だ。」祖母の一言に、祖母の妹も「かわいそうよねぇ、南田洋子・・・」としんみり。おかしな話じゃないか。献身的に介護する男の姿をテレビでは流していたはずなのに、私も祖母も大叔母も、長門裕之に介護されている南田洋子に同情している。
 
 美しかった南田洋子の、あのような姿を見たくはなかった・・・とは思わない。”私は”思わない。でも、女優南田洋子のこのような姿を見せたくはない、と南田さんは思ったのではないか、と思う。だから、心が痛い。
 もし、夫が妻の仕事(女優だ)を尊重していたら、認知症を患い自ら引退した女優をカメラの前に引きずり出すなんてこと、できるんだろうか。職業人としての妻をカメラに晒す夫(後見人)の権利行使が美談になっていく様子が、私はひたすら、怖いです。
 長門氏は、”俳優とは自己顕示欲が強いもの”だから、”洋子もカメラが入ることを受け入れている”、と『週刊金曜日』で話していた。自己顕示欲が強いのであればなおのこと、認知症の姿を見せたいと思わないのではないかと、私は思う。というか、自己顕示欲が異常に強いのは、長門さん、あなた自身ではないか。
 判断がなくなるのが認知症、だとしたら、認知症になる前に、パートナー選びに慎重にならなければいけない。祖母や私が感じた同情は、ダメな夫に介護されていることの同情であり、南田洋子さんが認知症になったことの同情ではなかった。
 
 冒頭、もし、高倉健だったら。と書いたが。もし、高倉健が認知症になっても、彼の後見人は彼のイメージを守るためにも、認知症の姿を公開することはきっとないだろう。それは、俳優という特殊な職業に対する払われるべき敬意の一つだと私は思う。女の南田洋子さんには払われなかった職業人に対する敬意である。
 
 昭和の大女優に合掌です・・・。
Loading...

北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めて、女性だけで経営するセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」を始める。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)など。佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・最新刊は香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

RANKING人気記事

Follow me!

  • Twitter
  • Facebook
  • instagram

TOP