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「酒気帯び生活」

茶屋ひろし2010.04.30

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昔から給料が入ると本屋で数冊一気に買うことが楽しみの一つですが、先月もその場で適当に読みたいと思った本を五冊くらい購入したところ、フィクション、ノンフィクション、マンガ、雑誌、と形態は様々なのに、どの本にもアルコール依存に関係のある話が載っていて驚きました。

長年アルコール依存症の治療に携わってきたカウンセラーの方が書いた本に、病院に入った依存症のダンナを見舞う妻が主人公の小説に、依存症を経て亡くなられた方の遺稿集・・、どれも著者名だけで買いました。順に、信田さよ子さん、山田詠美さん、鴨志田穣さん・・並べてみるとたしかにお酒つながりです。

信田さんの本でアルコール依存症には「医療は無力」だということを知り、詠美さんの小説で「奈良漬になった胡瓜が新鮮な胡瓜に戻ることはない」という肝臓への衝撃的な台詞に出会い、鴨志田さんのドキュメントには、言わずもがな、といった読後感でした。
このラインナップは、私への天からのメッセージ(というか警告)かしら、と思いました。

昔から本を買うお金をもったいないと思ったことはありませんが、ここ数年はお酒にももったいないと思わないようになっています。けれど使えるお金には限度のあることが幸いです。ゲイバーで飲むのは大好きですが、外で飲むと気持ちがいいくらいお金が飛んでいきます。家賃や光熱費も払わなければならないので、家で安いワインを買って飲むことも多くなってきました。

加えて、飲まなければ眠れない、という思い込みもあります。一旦眠りにつくと、長時間惰眠を貪りますが、寝つきは悪いほうで、酔っていないと、布団のなかでずっと起きていることがよくあります。それでは翌日に響くので、どうしたものか、とお酒を飲めば、いつのまにか寝ているので、これは都合がいい、と思いました。

そうして飲み続けているうちに酒量が増えてきました。ここまで飲まないと眠れない、の線が上がってきた感じです。昼間に飲むことはありませんが、起きても昨夜のお酒が残っていてそのまま出勤するので、スタッフのポチに「酒臭い」と嫌がられます。煙草臭い酒臭いのおっさんで最低だそうです。働きだしても三時間くらいは意識も覚醒していないような状態です。もともと日の出ている時間帯はぼうっとしている体質ですが、最近ではあきらかにアルコールがそれを援助しているような気がします。

布団に入ったら三秒で寝る、という職場のオーラちゃんには、「茶屋ちゃんが眠れないのは、昼間、体を動かしてないからだよ、ちょっと運動すればいいよ」と薦められて、それもそうだ、という気もしますが、運動はしたくありません。どうしたものかしら、と思っていたら、どうやら折り返し地点に入りました。酒量が、あるところでストップしたのです。起きるとワインが瓶に残っています。「これ以上は飲めない」と体が判断しているようです。そして、今までは目覚ましがなるまで起きなかったのに、目覚ましのなる数時間前に、何度か目が覚めてしまうようになりました。熟睡もできなくなってしまったのかしら、と思って、テレビをつけると、ある朝の「はなまるマーケット」のゲストが、酒豪で名を馳せた、杉田かおるさんでした。

ダイエットのためにお酒をやめたという話をしています。減量は成功して、以前の写真と顔を比べています。むくみがとれてすっきりしていました。スタジオの彼女も前とは別人のようにキレイです。「今まで飲料といえば酒か水でした」「お酒をやめてからは相手の顔を判別出来るようになったので、男を顔で選ぶようになりました」といったネタ発言が続いて、「なにより、一日にこんなに頭が覚醒している時間があるんだ、と驚きました」と言いました。私はその言葉になにより共感しました。

杉田さんはそのあと、今までつくったことがなかった料理を習い始めて、その食材をつくるために畑も耕すようになった、と報告していました。

それは行き過ぎじゃないの? と思いましたが、それが彼女のキャラか、と思いなおして、これもまた天からのメッセージ(警告)なのかしら、と思いながら、二度寝に入りました。

働いている日々のなかで、合間に適度な運動をして、身体にいいものを食して、お酒はたしなむ程度で、その場を笑って楽しく過ごしていれば、たしかに安眠は訪れるかもしれません。いろいろと私には難しそうですが、憧れます。
そう考えてみると、数々のお酒での過ちは、悪いほうへは行くな、というブレーキだったような気もしてきます。
先週もゲイバーで忠告してくれた人がいました。酔った私の発言で気を悪くした人が、そういうことを言うのは良くないよ、とたしなめてくれたのです。真面目に言ってくれているので、ちゃんと聞かないと、と思いながら、すでに酒量の限度が迫っていました。そのせいか、先週起こったヘンな出来事を思い出して、目の前の方に失礼ですが、一人で可笑しく(オカシク)なってしまいました。

ある日、目が覚めて時計を見ると、夕方の六時前でした。すでに窓の外も暗くなっています。驚いて飛び起きました。大変だ、大変だ、と全身が叫びはじめました。こんなに寝過ごしたのは初めてです。携帯電話を確認します。遅刻をすると電話をくれるポチからの着信を見るためです。着信がありません。どうしたのかしら、とすぐに職場に電話をしました。誰も出ません。あー、大変なことになっている、と気ばかりが焦ります。とりあえず出勤しなければ、と服を着替えます。いつもならシャワーを浴びて髪を(一応)セットしてコンタクトを入れて外に出ますが、そんな時間はありません。寝癖で髪の毛が異様に左へ流れた頭のまま、レンズの汚れた家用の眼鏡をかけて、鞄に財布と携帯電話を放り込んで靴を履いて外に飛び出して、動きが止まりました。「・・朝? ・・早朝?」
そうです。夕方の六時ではなく朝の六時でした。外に飛び出したとたん、部屋の中ではわからなかった、夕闇のうす暗さではない朝靄のうす明かりと、ひんやりとした空気を、目と肌で感じたのです。

目覚ましのなる前に目が覚めるようになったとはいっても、「はなまるマーケット」が始まるより早い時間に目覚めたことはまだありませんでした。
呆然としたまま部屋に戻り、鞄を肩からかけたまま炬燵に入って固まってしまいました。ポチからの着信がなかったのは、ポチはまだ寝ているからで、職場の電話に誰も出なかったのは、店が閉まっていて、そこには誰もいなかったからでした。
お酒の失敗で、誰にも迷惑をかけない失敗(帰り道に自転車でこける、部屋でおもらしをする・・)の中では、これまでで最大級の出来事でした。酒気帯び生活はいろんなことが起きて面白くもありますが、さすがにどうにかしたほうがいいかもしれません。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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