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「ディシプリン」

茶屋ひろし2010.05.06

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二年くらい前に一緒に働いていた20代の男子は、暖かい季節になるといつも、ジーンズの裾を片足だけ膝元までまくり上げていました。「それはなんなの?」と聞くと、「ファッションです」と答えます。「どういうファッションなの?」と聞くと、「ヒップホップ系です」と教えてくれました。(おそらく)、ニューヨークで暮らす黒人男子たちが警官に銃を保持していないことをアピールするために裾をまくりあげたのが始まりだそうです。なぜ片方だけなのか、それは抵抗の意味も入っているからなのか、どうなのかはわかりませんが、それをヒップホップやR&Bやラップをしているミュージシャンたちがファッションとして取り入れたそうです。
そんな話を思い出したのは、テレビでニューヨークの「腰パン」事情に関する映像とニュースを、なぜか立て続けに見たせいでした。腰で穿くというよりも、下着が見える状態で大きめのジーンズを穿くスタイルです。特に目立った人を取り上げているのか、「腰パン」の人たちはみんなそうなのかわかりませんが、映像のニューヨークの子たちはお尻の部分がぜんぶ出ていました。
お尻が出ているということは前もぜんぶ出ているということで、直立するとベルト部分が股関節にあるという状態でしょうか。
二丁目で働きながら、いろんな腰パンを見ていますが、ぜんぶ出ている状態は見たことがありません。それに丈の長い大き目のシャツで下着部分を隠していることが多いように思います。さすが本家は違います。
この「腰パン」は、刑務所ではベルトを使えないため(自殺・他殺防止で)、囚人のズボンがずり落ちていく様子に由来していて、ファッションとして取り入れたのは、先ほどと同じくブラック系のミュージシャンたちだということです。
下着を見せたいわけではなく、「不良(ワル)への共感」の意味が強いようです。ニューヨークの映像で見えた下着は、なんでもないストライプのトランクスかなんかで、二丁目の腰パンで見える下着は、ゴムのところにロゴが入っていたり色と柄が様々だったりする股下の浅いボクサーブリーフが主流です。こちらはワルというよりエロで、ワルはエロのスパイス程度だと思われます。
「ワル」ねー、と思いながら、いまさらですが、服装で話題になったスノボー選手のことを思い出しました。テレビに映った彼の格好を見たときは、こういう子よくいるよねー、くらいにしか思いませんでした。
けれど、そのあとのバッシングに気持ち悪いと思って、彼の謝罪には「子どもか」と突っ込んでしまいました。そういえば、あれは制服でした。彼が制服を着ること自体に抵抗があったのかどうかはわかりませんが、制服を「スノボー」風に着崩してしまうことは自然な流れ、というか学校の制服を着ていた頃を思い出すほどよくある光景に見えました。
国家代表なのに恥ずかしい、というバッシングは狂信的で気持ちが悪くて、制服を着崩す彼には、「でも学校じゃないんだから」と思ったわけです。
制服を拒否してスノボーの服を着るか、制服を着るなら周囲に合わせるか、のどちらかのほうが、「大人」で、すっきりと独立するように思いました。
ニューヨークの黒人男子の事情はもう少し複雑そうですが、日本の「ワル」は「保護者」がいるから成立するところもあるのかと、「軟弱(ヤワ)」な気もしました(ヤンキー語、古くてくどくてスミマセン)。
二丁目で働いていて、このごろよく自覚するのは「私はもう大人なんだわ・・」という事実です。それは、近所の飲み屋の、店員も客も二十代前半の若い酔っ払いたちが、小さい子のように街路樹によじ登ったり、ゴミ袋を蹴って遠くまで飛ばしたり、私の働いているビデオ屋の前で座り込んでお菓子を食べていたり、するのを、私が必要最小限の気力で、本当に迷惑な時に限って、やさしく(と、私は思っている)たしなめたときに、「怒られたー!」と言って逃げて行く・・ときに感じます。
毎日、三階のウリ専で働いている若い男子がビデオ屋に両替に来ます。そのなかで、両替に来なくなった男子がいました。若いといっても私と同年代だったような気もします。彼は気がついたらレジの前にいて、目が合うと無言で壱万円札を突き出します。「両替ですか」と聞くとうなずきます。「どのように両替しますか」と聞くと、「千円十枚」とぶっきらぼうです。それで千円札を十枚渡すと、ぷいっ、と出て行きます。
たいがい失礼だわ、とムッとしながらも日々両替を続けていると、オーラちゃんや他のスタッフは、彼が来る時はもう両替をしないことにしている、と知って驚きました。壱万円札を突き出されたら、「ない」とぶっきらぼうに対応しているそうです。そうされた彼は彼で、ぷいっと出て行くのだそうです。しばらくすると、別の子か、その店のオーナーが直々にやってきて両替する、ということになっているようです。
「だって、いやだもん。失礼します、も、ありがとうございます、も、ないんだよ」とみんなカンカンです。じゃあ、それで彼が来なくなるかというとそうでもなくて、やはり毎日のように両替に使わされて来ているようです。私の時はそんな態度でも両替が成立するので、そのせいかもしれません。
直接言ってみようかな、と思い、ある日いつものように壱万円を突き出した彼の顔をじっと見て、言ってみました。「ねえ、なぜ他の人が両替してくれなくなったか、わかる?」
それはこうで、こうだからよ、それに私も同じ気分を毎回あなたに抱いている、と説明して、いつものように両替をすると、ボソッと「ありがとう」と言って顔を歪めて出て行きました。それから彼は二度と姿を見せなくなりました。
なんでやねん、と思いました。そのあと、(私が)ビデオ屋の「怖い人」って評判になっているよ、とそこの客が笑って教えてくれました。なんでやねん、とまた突っ込みました。
あそこのオーナーもちゃんと躾けてくれたらいいのに、なんて思いましたが、六十を過ぎていると思われるオーナーは、近所の子どもたちに大人気です。彼が出てくると自然と場が収まるという場面も何度か拝見しました。マッチョでやかましい人ではなくて、ぽっちゃりしていて物静かな人です。見てきたところ、どうやら、子どもたちの教育は街の人に任せて、最終的な責任は負う、という校長のような立場です。子どもたちが信頼しているのは、彼が経営者で給与として生活費を出してくれる存在だから、ということもあると思います。
昨日は、昼間から歩道に座り込んで飲んでいる子どもたちのそばに立っていたので、校長! と思って見ていたら、今度は自分も地べたに座ってしまいました。フリースクール! とうらやましい気もしましたが、私は、まだ目を吊り上げるほうの役なのね、と納得してしまいました。
今、連休サービスで、ビデオを買ってくれた人にお菓子をあげています。今日、お菓子を渡した若い客に、「ごちそうさまでした!」と大声で言われました。
まだキミ食べてないし・・、もうなんて言えばいいのかわからない・・、とさすがに突っ込みも躾も放り投げてしまいました。
*タイトルの「DISCIPLINE」は、裾をまくりあげていた男子が好きだったジャネット・ジャクソンの、二年前のアルバムタイトルからとりました。訓練や規律という意味だそうですが、フーコーにかかると「躾」になるそうです(浅田彰)。

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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