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「あきらめの夏」

茶屋ひろし2010.07.29

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仕事前にいつも行く、職場の近くのコンビニに、新しい店員が入りました。アゲハ系のギャルです。爪にネイルアートをしています。二センチはあるつけ爪に白い花の模型がくっついています。商品をスキャンする時には気になりません。レジを指の腹で撫でるように打つなめらかさに感心します。トレイのないカウンターに置かれた小銭は手のひらでカウンターの端に寄せて回収します。毎回驚くのは、商品をビニール袋に入れて持つところをクルクルひねって「はい」と手渡す一連の動作です。
どうして二センチの爪がどこにもひっかからないの? 私だったら少なくとも花の部分はひっかけてしまいそう・・。匠の技を拝見している気分になります。
先日ゲイバーで隣の席になった男の爪は伸びていました。これも二センチくらいですがぜんぶ自爪で、先が尖っています。仕事は鳶だという同い年です。私はひさしぶりにナンパされていました。「可愛い」だの「タイプ」だの言ってもらって、まんざらでもありません。ビールを一杯おごってもらいながら、私はその尖ってやや黒ずんだ爪が気になって仕方がありません。「可愛い」と「タイプ」を何回か繰り返してトビオは、「タチですか、ウケですか」と聞いてきました。「僕はタチなんですけど」と付け足します。「どうですか、ウケですか」と繰り返します。誘導尋問か、と思いながら、「ややウケ・・」といろいろと誤魔化してみると、「やっぱりウケですか、良かった。僕はタチしかできないから」と嬉しそうです。話が簡単なところが気に入りました。
けれど気に入ってみると、やはり爪が気になります。急に私は、トビオの「タチ」に対して「ウケ」の向こうを張りはじめました。そんなに長い爪(危険、不潔)であなたはアナルセックスをするつもりなの? と指す気分です。
「爪、長いね。どうして切らないの?」
ようやく質問してみました。
「これは気合をいれるため。こうすると(と、拳を握る)爪が食い込んで、気合が入るんだ」
「え、そうなの?」
わかるようでよくわかりません。でもその爪と寝るのは嫌だなー、という気持ちをなんとなく伝えたら、「あ、じゃあ、切るよ、切る。ねえ、ちょっと爪切り貸して」とすぐに店員の子に声をかけました。
気合はどこに行った、と思う反面、私は、「うん、爪を切っても気合を入れることはできるよ」といいかげんな後押しをしながら爪を切っている様子を眺めていました。
「可愛い」「タイプ」「タチ、ウケ」の三大セリフは、ホテルのベッドで「彼氏になってくれない?」に変わりました。「付き合ってくれたらうれしいな。ダメ?」と繰り返します。だいたいトビオは同じ台詞を五回も六回も言います。私が即答しないこともそれに拍車をかけています。
このパターンは身に覚えがありました。相手に「好きだ」と連呼してもらって、それが気持ちよくて付き合い始めたものの、そんなに好きになれなくて破綻してしまうパターン。またその道に進もうとしているのか・・、私があまり反応しないせいか、トビオの一人芝居のようになっていくなかで、気持ちが醒めていくのがわかりました。
トビオは次に会う日を決めてきます。「うん、いいけど・・」とダメな返事をしてしまいました。
後日、扁桃腺を腫らしたのはそのせいだったのかもしれません。
冷房の効いた部屋にひさしぶりに裸でいたせいもあると思いますが、もっと神がかり的な罰にも思えました。
職場のオーラちゃんに報告すると、「うまくできているよねー」と笑います。
やはりそうなのかしら、同じ過ちを繰り返しているのかしら。
トビオに関してオーラちゃんは、「もうそういうの、やめようよ」と言いました。
それじゃあ、というわけでもありませんが、今度は、自分ではモテないと思っているけれど本当はモテている男(これも同い年)、と飲んでみました。
モテるのに彼氏が出来ないわけは、モテオと仲良くしようと近づいてくる人はたいていエッチが目的で、それにうんざりしてしまうからだそうです。
もれなく私もその側近の一人になりかけていました。けれど、これも身に覚えのあるパターンです。モテ光線にひっかかって近づいても見込みはない、と去年、一年かけて学んだはずでした。
けれどお酒がすすむと、私はモテオにしなだれかかっていました。じっさいに手で追いやられたことはかすかに覚えています。
そのあと帰り道に自転車でこけました。顔と腕の右半分を打撲して、三日間、顔を腫らして、腕が肩より上にあがりませんでした。
「あんたって、大ブス!」という、いつものゲイバーのママの声が聞こえました。
扁桃腺が落ち着いたと思ったら、顔が腫れて、散々な夏の始まりです。
自業自得というか、まだわからないか、といった感じで、やはり神さまみたいな力にお仕置きされている気分でした。それにしても乱暴な・・。
好かれてもダメ、好きになってもダメ、このループから抜け出したいの、と少し年下の女子に相談してみると、「なに、可愛い子ぶってんの」と一言で切られて、「へー、じゃあ、両想いで付き合ったことがないんだ」と呆れられました。
両想い、って何ですか。
なし崩し以外の展開を経験してみたい夏です。

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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