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「悪人の逆ギレ」

茶屋ひろし2010.11.11

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私は吉田修一さんの小説が読めません。そう気づいてからもう何年にもなります。
なぜかしら、とても読みやすそうなのに。
三ページくらいまで読んで、いつのまにか本を閉じて別のことを始めていて、ふと本の存在に気がついたときに、いつもそう思います。
読めないことは仕方のないことなので、ふだんはそのことを忘れています。
「悪人」という小説が映画化されて、ふだん読んでいる雑誌のあちこちに関連の記事が出ていて読んでいるうちに、主演の妻夫木聡を大好きな職場のオーラちゃんやポチが映画のことを口にしはじめて、「そうか、映画なら見ることができるかもしれない」と思い立ちました。雑誌の記事のひとつに吉田さんと監督の対談があって、吉田さんが脚本に関わった、と伝えていたので、それなら原作と大きく違うこともないか、と思いました。監督が「フラガール」を撮った人だということにも関心を持ちました。
先に映画を見ていたオーラちゃんは、「僕は楽しめたけど、茶屋ちゃんは嫌いだと思う」と私自身の感想を先取りします。映画、小説、テレビドラマ、コミック、歌、など、時々同じ作品に接して感想を言い合っているせいか、お互いに何かを薦める際に、相手の反応を予測してしまうのです。「嫌われ松子の一生」という映画の時に、ひどく反応が分かれたことを思い出しました。映画を見終わって腹が立ったことを伝えたら、映画に感動したオーラちゃんは驚いたのでした。
けれど「フラガール」のときは二人とも楽しめました。そのあと、友人との別れのシーンで繰り返された台詞、「またなー」を、引き継ぎの時に言い合うことが少し流行りました。
同じ監督作品とはいえ、そういえば、「嫌われ松子」の監督の前作「下妻物語」は、二人とも「おもしろい」と一致していたわけで、今回は「松子」のような結果になるかもしれません。
「茶屋ちゃんは、『悪人』見なくていいよ。それよりも『バイオハザード�』がいいんじゃない? 3Dだし」
と、なぜかミラ・ジョボヴィッチの方へ誘導されます。
妻夫木君のセックスシーンが見たいポチにも、「茶屋さんは鏡を見ていればいいんですよ。わざわざ見に行かなくても、茶屋さんが悪人なんだから」と会話を避けられます。
ふーん、それは私が映画を見て、もし腹が立った場合に、作品が嫌だと言っても、妻夫木君を否定されたような気になるからかしら・・。
つまり、大好きな妻夫木君の仕事をどんな形であれ、悪く言われたくないわけね、あなたたち、と理解しました。
ちょうど、役作りで顔が歪んでしまったという妻夫木聡に興味もありました。
それはぜひ見に行かないと、と仕事帰りに職場から徒歩五分の映画館に足を運びました。(以下、ネタばれがあります)
翌日オーラちゃんに、「ずっと誰にも感情移入ができなくて困ったんだけど、最後にブッキーが深津絵里ちゃんの首を絞めたときに、そう、こなくっちゃ、って、やっと面白くなったら、映画が終わったよ」と感想を述べると、「なに、それ」と眉間に皺を寄せられました。
説明してみます。
私には出てくる人たちがみんな頭のおかしい人にしか見えなくて(私がマトモというわけでもありませんが)、気持ち悪い人たちばかりが出てくるわー、他人はすべて敵、身内だけが味方という人たちなのかしら、とその設定に共感を持つことが出来ずにいて、そのせいか物語に入り込めなくて、まあ、いいわ、そういう世界の話なのね、と流していたら、女の子が殺されて、いつのまにか逃避行が始まって、深津絵里演じる女の子も淋しかったのかしら、それにしても狂っている、と思っていたら、純愛みたいな演出になってきて、ありえない、と腰が浮きかけたら、最後に、妻夫木聡演じる殺人犯が、変な理解を示そうとする深津絵里を「オマエに何がわかる!」と逆ギレして首を絞めたので、ようやく私が知っている現実になった、と思ってほっとしたのかもしれない・・。
オーラちゃんは目を丸くしました。
「なに言っているの? あれは逆ギレしたんじゃなくて、相手を救おうとしたんでしょう」
ええ? と今度は私が驚きました。
「救う? どこが? 私には、自分の思い通りにならない女を一人は殺して、もう一人も殺そうとした男の話にしか思えなかったけど、それで『悪人』なんじゃないの?」
と言うと、オーラちゃんはマンガみたいにあきれた顔をしました。
「違うよ。あれは一緒に逃げた相手に罪をかぶせないようにするために、自分が脅迫して連れまわしたことにするために、警察が近づいてきたときに、わざわざ首を絞めているところを警察に見せたんだよ。相手への愛情じゃん」
ああ、と物語の読み方がわかりました。そうやって読むのね・・、となんだか懐かしいような気持ちになりました。オーラちゃんは、「それ以外にどう解釈するの? あんなにわかりやすい話を」と首をかしげます。
「じゃあ、悪人は誰だったの?」と聞くと、「最初に殺された女の子だよ」とオーラちゃんは簡潔に答えました。
ええー! と再び驚く私です(うるさい)。「あの子、頑張って生きていたよ(知り合いか)」「金で男を選ぶような女だよ」「だからって殺されることはない。ブッキーの助けようとした手を振り払って、『馬鹿にするな!』って叫んだ時は共鳴したよ。そうだ、馬鹿にするな! って心の中で一緒に叫んだもの。もっと言えば、バスの運転手が樹木希林(ブッキーの育ての祖母)に向かって、『ばあさんは何も悪くないんだから、しっかりしろよ』と励ましたときも、なんで樹木希林は深々と頭を下げるかな~、って気持ち悪かった。あれは、運転手を睨みつけるか、ばあさん言うな!って怒るか、そういう演出であってほしかった」
オーラちゃんはしみじみ、「茶屋ちゃん、歪んでいるね・・」とため息をつきました。
歪んでいてかまいません。映画の中のブッキーではなく、私が「逆ギレする悪人」だと思ってもらって結構です。
けれどおかげで、映画の『悪人』を読めなかったわけはわかりました。
登場人物の誰が悪人だったか、というレベルじゃなくて、作品そのものを成り立たせている前提みたいなものが、私には欠落していたのでした。
本音を言えば「逆」でもありません。その世界観(「ミソジニー」かしら)にただ、キレていただけでした。

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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