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「そういう人として 2」

茶屋ひろし2010.12.10

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先月、立ち寄ったコンビニで見かけた「anan」(11月10日 号)の表紙には、大きく「サヨナラ、草食男子!」と書いてあって思わず手に取りました。
もうサヨナラなの? 早い、と思いました。
「草食男子」の名付け親の深澤真紀さんという人によると、名付けたのが四年前で、流行語大賞が去年だったそうで、そろそろ潮時だったのか、もうサヨナラなのか、よくわからなくなりました。深澤さんの言うように、当初は「中高年男性への疑問を呈しながら、『女を嫌悪や蔑視せず、欲望の対象ではなく人間としてみる存在』として若い男性を肯定的に語った言葉」だったように私も思います(週刊文春 11月25日号)。
深澤さんは続けて、「『女にガツガツしない男なんて情けない』という男たちによってバッシングされ流行してしまった」と書いています。そして時は流れて、「anan」を開くと、アンアン女子たちから、「自己中でプライドが高いところが面倒くさい!」「いっそ絶滅してくれたらいいのに」とバッシングされまくりでした。
女子たちの分析の合間に登場するのは、可愛い顔したタレント男子や、韓流スターの、「僕たちは男らしい恋愛をする」といった内容のインタビューです。吉川晃司の「男らしさ」は可愛くないだけでどうでもいいです。でも、可愛いとかキレイ系の男性タレントが、「anan」で、自称「男らしい」発言をするのはいつものことのようにも思います。最後の方に、「草食」や「セックスレス」に関係なく載っていた、ジョニー・ウィアーのインタビュー記事で、やっと一息つきました。
「自分を愛していれば、いいことしか起こらない」
・・究極の「草食男子」かもしれませんが、「スピリチュアルメッセージ」のようでもありました。
雑誌では「草食男子」が様々なタイプとして分析されていますが、たしかにそういう「男子」は微妙という気にもなりながら、分析する名もなき女子たちの立場もなんだか微妙でした。フレンドリーだと思って楽しんでいたら、実は限りなく受身の男らしくない草食だった、といった文脈は、読んでいて少し気持ち悪くなりました。「anan」って、積極的に男を選ぶ女を打ち出しながら男に選ばれたい女も維持するから、いつもテーマの勢いのわりにはすっきりした読後感になりません。女の欲望を見える形にまで持っていくのに、それを押さえつけることも同時にするので、なんだかなあ、もう、という気分になります。
「草食男子」という言葉が出てきたとき、私は単純に「男らしさからの逸脱」という意味で自分に都合よく捉えていました。
障子にチンコを突き刺したまま、未だにホモフォビックな発言を繰り返す石原慎太郎や、男の「安全地帯」から出ることはしないと宣言したかのように、側にいた女たちを殴り続けてきた玉置浩二のような男たちが主人公の物語に生きるより、そこからはずれてしまった、予選落ちしてしまった男たちが、「草食」でもなんでも名付けられて日の目を見ることは悪いことじゃない、と思っていました。
かつての「オタク」や「オトコオンナ」に比べたら、呼称としても大きな飛躍があったように感じました。加えて、ジェンダーコードをいったん跳ね除ける手段としても有効のような気がしたものです。
いったん跳ね除けて(と感じて)再びそのコードを利用するのと、コードにしがみついたまま自分にそぐわない相手を攻撃するのとでは、心身のキツさが違うように思います。「anan」の「草食」バッシングは、その辺を一周したあとなのかどうなのかがよくわからず、結婚するなら「草食」がいい、という結論に、やはり早急だったんじゃないかしら、と思ってしまいました。
私が二丁目にやってきたとき、「ゲイは肉食」の雰囲気を強く感じました。ウリセンやハッテン場などのゲイ独自の性風俗が身近にあるせいかもしれませんが、「ゲイはみんなセックス好き」のメッセージをそこかしこから感じました。鍛え上げられた肉体、ヒゲや坊主のヴィジュアル、女嫌い・・、すべてその逆の形で入り込んだ私は、すでに「草食」でした。そこで感じる違和感を含めて、このコラムも書き続けてまいりましたが、最近はとうとう、私より「草食」なゲイ男子の話を聞いて、いろいろと姿勢を正してしまいました。
二十代後半の彼は、「オナニーもセックスもしません」と宣言します。でも好きな男はいます。じゃあ、彼と付き合いたいな、とは思うの? と尋ねると、「はい、思います」と答えます。それで、付き合うことになって、キスとかセックスとか、相手が求めてきたらどうするの? と聞くと、「拒否します」と答えます。じゃあ、二人でいるときは接触しないの? 「そうです。二つの布団を並べて寝るだけで充分です」
「草食」というより「無食」・・というか、なんだか徹底しています。何度か、「ええーー!!」と声を上げそうになって、押えました。オナニーくらいはするんじゃないの? セックスもし始めたらハマるかもよ、布団並べて寝るだけでは物足りなくなるかも、と続けてどんどん言いそうになって、また口を押さえました。
いかんいかん、つい自分の欲望コードを押し付けるオヤジになってしまう。私が彼の恋人なら口を出す権利も少しはあるかと思いますが、そうではない限り、やはりこの場合も、「そういう人として」とりあえず肯定するのが礼儀というものじゃないかしら、と踏み止まりました。
「みんなそうでしょう」とか、「男ならこうでしょう」とか、「ゲイなら・・」とか、そういう物言いに何より反発してきたのは私でした。その私が、相手が自分より若いからといって同じことをしてどうする、と思いました。その人が、どういう欲望コードを持っているかはその人の自由でそれでよくて、その時に自分のコードを安易に普遍化してしまうことには躊躇し続けなければいけないような気がしました。
なるべく、「サヨナラ、カテゴライズ、こんにちは、そういう人」として出会いたいものです。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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