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「すれ違いの生活 5」

茶屋ひろし2011.08.12

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翌朝、施設や法務省に電話して必要な手続きを聞いたあと、じゃあ、来週の私の休日に一緒に出かけようか、と落ち着きました。まあその間に日払いのバイトでも見つけて働くのもいいんじゃない? などと言いながら。
その晩、家に帰ってくると、オーシマはボクサーブリーフ一枚の姿で鏡に向かって二重まぶたを描いていました。肌の白いその手足を眺めていて、毛がなくなっていることに気がつきました。「剃ったの?」と訊くと、「はい、自分、毛、嫌いなんで」とツルツルになった腋も見せました。
気がつくと、巨大なヘアスプレーに、ブラシにカチューシャ、ファンデーション、シェイバーにヘアアイロン(!・・高額)、が増えています。
なぜ、働いていないくせに金を使う、と思いましたが、外に出ていくときに、(自分にとっての)最低限の身だしなみを整えておきたい二十三歳男子・・、と納得しようとしました。
ウチにやってきて五日目、身だしなみのために、とうとう手持ちの二万七千円を使い果たしたオーシマでした。
どうするんだろう、あの子、と他人事のように思っていると、二丁目のウリセンの仕事をみつけてきました。日払いで、客がつかなくても十時間拘束で最低二千円もらえるそうです。
「あれ、ゲイなの?」と、訊きました。「いやぁ、自分でもよくわかんないっすけど、バイっすか?」と笑っています。「オナニーするときは、女と男のどっちを思うの?」と訊きなおすと、「女っすね」と即答します。
そうなんだ、と、時々ぼろりとゴミ箱から出てくるティッシュを大きく丸めたものを思い出します。
「へー、でもウリセンだったら男の相手がメインでしょう。相手のチンコを舐めることは出来るんだ」と訊くと、「金になるんだったら平気っす。でも金にならないんだったら絶対、嫌です」と答えます。
ちょっと、ムラっとしました。職場のオーラちゃんに「茶屋ちゃんは、彼に対してエロい気持ちにならないの?」と訊かれて、「ちょっとある」と答えていたことを思い出しました。身なりをかまわない男子ではなく、その真逆を行く子で、自分の住みやすいように掃除をして、私のパンツや靴下をやけにクルクル丸めて収納して、体の毛を全部剃ってしまうオーシマです。
毎晩飲んで帰って、家でも飲んでいる私のゴミ溜めのような部屋に、若い新鮮な空気がすーっと入ったような爽やかさも感じていました。
「ひろし君、老けましたね」と言われました。二年前に面会で出会った頃に比べて、という意味です。白髪を染めていない、あごヒゲがまばら、服の色がグレーに傾いている、そんなヴィジュアルと、汚い部屋と酒臭さがそう思わせたのだと思います。
「というか、ひろし君って怒らないですよね。言いたいことを言わないでいるんじゃないですか?」と妙に怯えられもしましたが、あ、それはエロい気持ちを隠しているからだわ、と自覚があったので、「ううん、言いたいことはそのつど言っている」と答えてみました。
お言葉に甘えて、「じゃあちょっと、チンコ見せてみな」とか言ってみようかしら・・、でもそれを言っちゃあおしまいよね・・、保護者にも友達にも恋人にもなれない若い男って、エロを肥大化させるようです。それとも私がただの人でなしなのかしら。
施設を見に行く日が来ると、布団をかぶったまま「お腹痛いんで、今日無理っぽいです」と拒否られました。子どもか・・! と思って、「施設入りますって言ったけど、本当は入りたくないんじゃないの?」と突っ込むと、お腹をさすって頷きます。「じゃあ、入らなくていいんじゃない? ウリセンの仕事続けてお金貯めてから出て行ったら」と言うと、ホッとした顔になりました。
そして翌日には、ウリセンの仕事を辞めてきました。「マネージャーが酔っ払ってばかりで、ちゃんと給料を計算してくれないんすよ」とぼやきましたが、五日って、早すぎませんか。というか、やっぱり客のチンコを舐めるのが嫌だったんじゃないの、と思いました。
その夜、ひさしぶりに私が酔わないで、布団を並べて眠ろうとすると、修学旅行の夜のように会話が続きます。
「俺、女装したいんすよね」
とつぜんのカミングアウトです。「あれ、そうなの?」と訊き返すと、「やばいっすか、ヘンタイっすか」と聞き返してきます。
「オッパイが欲しいと思ったことはあるの?」と、ヘンタイかどうかはどうでもいい私は直球です。「ありますね・・」「じゃあ、チンコを取ろうと思ったことは?」「そこまではないっす。あの、俺、前に女装しておっさんとエッチしたことあるんすよ。そんときに唇が色っぽいって言われて、そんで俺、女になっているときって、自分でもエロいな、と思うほどのあえぎ声が出るんすよ」
止まらなくなってきました。私も応じていきます。
「ねえ、じゃあ女になったオーシマは自分のことをなんて言うの? 俺、じゃないでしょう」
「あ、そうっすね・・俺、女の自分に名前が付いていて、アスカっていうんですよ、だから、明日香わぁ~、って感じっすかね」
楽しそうで嬉しそうです。
アスカ、と聞いて私の中ではこの漢字になりました。飛鳥だと奈良だしな。
(続きます)

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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