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「すれちがいの生活 6」

茶屋ひろし2011.08.26

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そうかー、キミは「男の娘(オトコノコ)」だったのか、だから私の所へ来たのか、と十日ほどもやもやしていたエロが、しゅるるるーポン、となくなっていくのを味わいました。
「じゃあ、男の娘版メイド喫茶みたいなところで働ければいいね」と、適当にまとめて寝てしまいました。
「男の娘」・・前にここで書かせてもらったことがあります。女装する男(Not GAY)です。女装していないときは異性愛者で、女装をしているときは男と性的な関係を持つこともあるようです。そのときの相手も100%ヘテロ(異性愛)というわけでもないようで、むしろ女より女装した男に興奮するという人たちのようです。
男同士で成り立っている関係ですが、同性愛ではありません。まだ名前がついていないような、けれど遠い昔からあったような風俗かもしれません。
オーシマが二丁目のウリセンに興味を持ったのは、自分がゲイだからではなくて、女装して男とセックスできるかもしれない、と思ったからなのでしょう。店を間違えてしまったようです。女装してレズビアンバーで働けないか、と訊いてきたこともありました。「男の娘」と「レズビアン」はもっともかけ離れた存在かと思われますが、どうでしょうか。
翌朝、パソコンから鳴り響くけたたましい音楽で飛び起きました。オーシマが見ていたのは「ひげガール」(歌舞伎町にある老舗のニューハーフバー、行ったことはありません)のホームぺージです。
「ああ、いいんじゃない、ひげガール。いろいろとお姉さんたちが教えてくれるよ」と寝ぼけ眼で言うと、「怖いっすよ、無理っす」と首を横に振りながら、なにやら開放された笑顔です。そのあと、大好きだと言うインディーズのヴィジュアルバンドのボーカルの写真を見せられました。かつてのイザムより数倍可愛いメイクをした男子がそこに映っていました。
「俺、男でも女でもどっちでもいいんで、可愛いくなりたいんすよ。可愛いって人に言われたいんすよ」
力説されます。「そ、そうなんだ・・」
まあ、可愛いよ、あんたは。美形じゃないけど、ほれ、森三中の大島さんの可愛いさだから、三枚目の愛嬌っていうの?
と心でぼやきながら、米炊くか、と台所に立ちました。
オーシマは、いくら言っても、包丁に手をつけませんでした。自炊にご無沙汰だった私も、オーシマに何か食べさせようと、ひさしぶりにちょこちょこご飯をつくるようになっていました。野菜や肉を冷蔵庫に常備するようになりました。上京して初めて、炊飯器のスイッチを入れました。
オーシマがウリセンで働いて得たニ、三万は、先の尖った靴に、革のバッグに、胸の空いた黒いシャツに、ファンデーションに消えてしまいました。食べるものを買う余裕がなくなって、カリカリ梅を食べています。
掃除と洗濯をしてもらっているぶん、まあ、つくるか、という気持ちもありました。
食べさせている合間に、携帯電話で誰かと話し始めます。
札幌で働いている妹さんに無理を言って手に入れたウィルコムです。電話をしながら味噌汁を飲もうとしています。
「食べている時は電話をしない」と注意をして、電話の相手がウリセンのときに知り合った女の子の客だと聞きます
食べ終わってさっそく携帯電話で話し始めるオーシマの、その会話の内容を聞くとはなしに聞いていて、なんだかイライラしてきました。
「俺は付き合うと決めた子としかエッチはしない主義だから」「え、なんで信じてくれないの?」「いいよ、エッチしたくなかったらしなくても」「デートで手をつなぐってことはエッチするってことだから」「え? 手はつなぎたいけどエッチは嫌なの?」
そこでオーシマは電話を離して、通話口を親指で押さえながら、「まじ、めんどくせー、この女!」と叫んで、私の顔をみてにやけます。
「オーシマ、電話、外でしてきてくれない?」と私は追い出しました。
二時間ほどして戻ってきたオーシマに、「あのさ、私がいるときは、電話しないで、メールにして」とさらに畳み掛けてしまう始末です。
「あ、はい」とオーシマは素直に聞き入れ、そのあとは、ぱちぱちぱちぱち、ひっきりなしにメールを打ち続けましたが、さすがにそれは我慢しようと思いました。
電話している相手が三人いると聞いて、その中に好きな子はいるの? と訊くと、「いないっすよ」と答えます。「つーか、ルームシェアって、誰かと住めれば金も安上がりで済むかなと思って、その候補っすよ」と自慢気です。
ああ、そうね、誰でもいいから、一緒に住む人みつけて、早く出て行ってほしいと、思いました。けれど、彼女たちは、オーシマとそこまで考えているようすはなく、一向に話は進まず、オーシマはイライラしています。当然か、と彼女たちに同意しました。
「俺、さみしがりのお子ちゃまなんで、誰かと一緒に住むほうがいいんすよ」と椅子を回転させながら、本当に中学生のようです。
そもそも、自立する気なんてなかったのです。誰かに依存して、適当にバイトして、お金は服や髪型に使って、そこにいられなくなったら、職場も寝ていた場所も出てしまう、それでまた次に面倒をみてくれそうな人を探す・・、それが彼の生きる道でした。
加えて「男の娘」なので、したい仕事も限られてきます。日に焼けたくない、筋肉を落として細くなりたい、可愛くなりたい・・。
なんとなく私は、以前テレビで「ほっしゃん」がしていた深海魚の話を思い出していました。
その雄は雌の体の十分の一の大きさで、一生を雌の腹にくっついて過ごします。産卵の時期に精子をふりかけると、雄はそのまま雌の体内に吸収されて養分となってその生涯を終えるそうです。精子をふりかけるためだけに生まれてきた雄・・。
私はオーシマと出会って、「あんた男でしょう、しゃんとしなさい!」と実は、何度言いかけたかわかりません。そういう「男らしさ」がもう使えないものとして、別の「おとこ」たちが生まれてきていることはわかっていたつもりでした。
ピンクのゼブラが好きでいいね、女の子みたいになりたいノンケなの、それもいいわね・・、と受容しようとしてきましたが、ここまで依存しかできない人間になっちゃうの・・、というか、もう出て行って! と思うようになりました。
私の養分にも、なりそうにありません。
(あと一回で終わります)

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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