ラブピースクラブはフェミニストが運営する日本初のラブグッズストアです。Since 1996

「かしこまりました」

茶屋ひろし2013.02.11

Loading...

毎朝、接客用語を唱和しています。いらっしゃいませ、かしこまりました、少々お待ちくださいませ、お待たせいたしました・・。
朝礼の締めにひとりずつひとつずつ言いながら頭を下げて、全員がそれにならうというやつです。
なんとなくそういうことをしそうな職場を避けて生きてきたようなところがあって、うまい具合に出会ってこなかったのですが、いよいよ運も尽きたようです。
みんなと同じ動きをするということに抵抗がありまして、それ、この場で出す反骨心ではないはず、と頭ではわかっていてもなかなか覚えられず、一ヶ月ほど、メモを見ながら、それでも、「またご利用くださいませ」を「またお待ちしております」と口が勝手に言い換えたりしてしまったりしながら、苦戦しておりました。
苦戦って・・そんな大げさな、と書きながら思いますが、そんな私をみかねてやさしい社員の男の子が、「これ、ひとつのお話になっているんですよ」と教えてくれました。
上記のあとはこう続きます。申し訳ございません、ありがとうございました、そして、またご利用くださいませ、です。
お客さんに(いらっしゃいませ)、探している本を訊かれて(かしこまりました)、それを探したところ(少々お待ちくださいませ)、ありませんでした(お待たせいたしました)、ごめんなさい(申し訳ございません)、また来てね(またご利用くださいませ)、という流れだそうです。
おかしなもので、物語がわかると、メモなしで言えるようになりました。いいかげん覚えたということもあるでしょうが、なぜこんなことをしなければいけないのか、という意味がわからなかったわけではなくて、それぞれの言葉を独立したものとして捉えていたから覚えられなかったのかもしれません。
気持ちとは違うところに、真実はあるのかもしれない、なんてまた大げさに思います。
けれどやっぱり気持ちも大事で、チェーン店のレストランに勤めている友人が、「私もなっかなか、かしこまりました、が言われへんかったわ~」と振り返ります。
「つい、わかりました、言うてしまうねん」
「奴隷やないねんから。同じ人間やから、いうやつでしょ」と私が調子を合わせると、「そうそう」と笑います。私も、ブックカバーを、手提げ袋を断られたくらいでは、そうそう恐れ入れません。それでもウチの店の人たちはみんな、「恐れ入ります」が体にしみこんでいます。そのことに恐れ入ります。
そんな反骨心というか、反抗期の子どものような気持ちをごまかすには、コスプレ感覚を導入するのがいいかもしれません。メイドカフェが接客用語の本気度を茶化していたような気がしますが、私も本屋の店員になることで、少し気持ちがのぼせているところもありました。ベージュのチノパンかブルーのジーンズに、襟付きのシャツを着て、眼鏡をかけて、やたらとペンのささったポケットのついたエプロンをして、足元は履きふるしたスニーカーで・・、と格好ばかり気にしていました。
ちょっと大きめの靴を履いていった時に、店長から「なんだか、パカパカ言いますね」と注意を受けました。「すみません」とすぐに気がつきました。店員は黒子でなければいけません、足音ごときで本を選んでいるお客さんの邪魔をしてしまってはいけません、そういうことですよね、店長、と、口にするとうっとうしくなる気がして黙って頭を下げましたが、やはり納得するには物語が必要なのかもしれません。
社長(父)からは、「おまえは組織に慣れてないから、よく周りの人に判断を仰ぐように」と注意を受けます。それは放っておくと、自分で勝手に判断して動いてしまう私への戒めです。
それぞれの棚には担当者がいて、本の並べ方にも意味があります。
最初の頃はそれがわからず、あれ、著者がバラバラだ、と並べ替えてしまい、途中で、商品番号順だったかと、気がつきあわてて元に戻すということを繰り返していました。
著者順が効果的な棚と、発売日順の方が買いやすい棚とに分けているのでした。
というか、自分のことながら、人の仕事に断りもなく関わっていく神経がどうかしています。
社長の息子で、さらに37歳の新人ということで、周囲の人にタダでさえ気を遣わせています。「(接客用語が)ひとつのお話になっているんですよ」も、「靴がパカパカ言いますね」も、その言いようが、その遠慮を教えてくれています。
「いいかげん覚えなさいよ、やる気ないの?」とか、「靴、うるさい。なんとかして」と言われても仕方のないところだと思います。というか、私だったらそう言いそうです。それで揉め事を起こしてきた私です。
あ、そうか・・、その物言いには、社長一家に遠慮していることだけではなくて、物事を荒立てないで迅速に問題を処理するという知恵も入っているのかもしれません。私のプライドの高さも見越した、もっとクールな話かもしれません。
「ヤンジャンどこー」と大きな声で、かといって店員を見るわけでもなく、訊いてきた男性がいました。ヤングジャンプは漫画週刊誌で、男性は二十代から三十代の風貌です。
「コミック店は一階上のフロアーにございますので、そちらでお買い求めください」
そばにいたスタッフが迅速かつ的確に対応します。すると男性は壁に向かって、「探してもくれないんだー」とまた大声を出しました。
すると今度はレジにいたスタッフが、「かしこまりました。ただいま確認いたしますので、少々お待ちくださいませー」とすかさず受話器をとりあげて、コミック店に内線をかけます。男性はもう何も言わなくなって、そのままふらりと出て行きました。
「あるそうです。あれ、いない・・」と受話器を置いて笑うスタッフです。
なにもせずに一連の動きをぼんやり見ていた私は、一拍おいて、感動していました。
なんというチームワーク、そして、「かしこまりました」の効果てきめん・・!
奴隷の言葉ではないですよ、友人。横柄を拒絶する意志ですよ、これは。
とかなんとかで、それからは私も、恐れ入ったりかしこまったりすることができるようになってきました。

Loading...

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

RANKING人気記事

Follow me!

  • Twitter
  • Facebook
  • instagram

TOP