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「ソメイヨシノのように」

茶屋ひろし2013.04.22

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いつのまにか桜が咲いて嵐が来て散ってしまいました。実家に帰ってきて良かったな、と思ったことのひとつは、寝床にしている二階の窓から桜が見えたことでした。向かいの公園は高台にあって、その土手に生えているソメイヨシノの枝ぶりが、ちょうど炬燵に入って眺めるのにいい高さにあります。休みの日になにもしないでぼーっと見ていると、わけもなく、これでいいわー、と思います。
隣の家でも咲いていて、坂を下った駅にも何本かあって、踏切を渡ったところにある廃校になった小学校の門のそばでも咲いていて、そこを通り過ぎたら川べりにも咲いていて、それにしても桜はみな同じように見えるわ、と思っていたら、夕刊に答えが載っていました。ご存知だったらごめんなさい。
日本中のソメイヨシノはクローンだそうです(朝日新聞4月9日夕刊)。江戸時代の終わり頃、染井村(東京は駒込あたり)の業者が売り出してから、接ぎ木挿し木で増えたそうです。最初の一本の遺伝子が全国に広まったわけです。他の木がすべて自分と同じだから実はつけず、すべて人の手によって植えられたものだということでした。
そういえば、二丁目で通っていたバーのマスターは『ソメイヨシノは、実をつけない』という本を書いた人でした。私は京都にいた二十代の頃にその本を読んで、付録のように挟まれていた二丁目のイラストマップを眺めながら、いつか行くことあるかしら、なんて思っていたものでした。
そのタイトルはゲイの人生を例えていて、恋の花は咲かせても・・・・、というような意味だったかと思われます。内容は、ゲイじゃない人に向けてゲイの人たちの日常を紹介していくような趣で、知って欲しいとの願いも込めたのでしょうか、どこにでも咲いているソメイヨシノをタイトルに持って来たセンスにも感心しました。
けれどその店で、女性と結婚して子どももいるゲイに何人か会って、実をつけてんじゃん、と思ったりもしました。
クローン同士だから実をつけないわけではないけれど、ゲイがどこにでもいることはたしかで、新しい職場で、私はいつそのことを言うんだろう、と他人事のように思っていましたが、社員とスタッフの男子と三人で、初めて昼ごはんを食べに行ったその席で、もう言っていました。
「茶屋さんは東京で何をしていたんですか」と訊かれたら、「ゲイのエロビデオを売っていました」と答えるよりほかありません。「そんなものがあるんですか」「ええ」
ということで、触りぐらいは、と説明しました。ただ途中で恥ずかしくなって焦りました。やっぱりカミングアウトってエロを含むからむずかしいな、と思いましたが、素直に聞いてくれる彼らの様子に照れたのかもしれません。
冗談みたいにそのことを話すのが好きな社長(父)のほうから、役員クラスの社員さんたちは聞いているはずだわ、と思っていましたが、アルバイトの人たちは知らないはずです。朝礼で言うわけにもいかないし、これをきっかけになんとなく広まってくれたらそれでいいか、なんて思いました。
ていうか私がゲイだなんて他の人にはどうでもいいことかもしれないし、と思いながら、違うか、それを知られていないことが窮屈だから私が言いたいのか、と思いなおしました。けれど人は一対一でした。噂で聞いていたとしても、わざわざ私の前でその情報を持ち出してくる人もいません。
あるとき、洋楽と歌謡曲のCDを一枚千円くらいでワゴン販売しませんか、という取次さんからの提案販売で、それぞれ百枚くらい入荷した後、クィーンとかはおいといて、ちあきなおみや中森明菜のジャケットにテンションがあがってしまった私は、年末ということもあって、紅白の話題を口にしていました。
小林幸子が今回は出られない、という誰でも知っている話題くらいで止めておけばよかったものの、何年か前に川中美幸のダンナがクスリで捕まったときはどうなることかと思ったけど無事に出場できてよかった、泣きながら「二輪草」を歌ったんですよ、こうピースをつくって、二人は二輪草~、って、と、ついそこまで口が滑ったら、あきらかに間が空いたので、しまった、と思い、アハハ、とその場を離れたら、戻ってきたときに、「なんでそんなに演歌に詳しいんですか」と詰められました。
お、おかまだから・・、とまたしても口が滑りそうになって、こらえました。
それは私にとっての正解なだけで、ただの偏見だからです。「ゲイだからって、みゆき(中島のほう)やユーミンやひばりや聖子や明菜が好きだなんて、そんなことないっ! だって僕はどれも好きにならなかった!」と二丁目でよく叫んでいた人を思い出します。けれど、まあ、同好の士を得やすいこともたしかでした。
なんででしょう~、むかしから好きでー、ほらドラマのある歌が好きっていうかー、またそれをカラオケで歌うのも好きでー、と、質問に答えるというより答えを長引かせているうちに、オープンにできないって面倒なことだわ・・、と思いました。驚かせたり引かせたりしないで、さりげなく伝える方法があればいいんだけど・・などと思っているうちにチャンスがやって来ました。
二丁目で知り合った人が本を出すということで、そのサイン会をウチの店でやることになったのです。内容は、お母様の話を書かれたコミックエッセイですが、彼はゲイであることをオープンにしています。コレ幸い、と、これまでの著作を家から持って行って休憩室に置いてみました。それらをスタッフのみなさんに紹介がてら、私もゲイですが・・、と付け足してみました。便乗したというか威を借ったといいますか。
誰にも少しも驚かれなかったのは、すでに知っていたのか察していたのかわかりませんが、そのあと、いろんな人と話しやすくなったのは気のせいではなさそうです。
働き出して三ヶ月も過ぎ、お互いに慣れてきた頃もあったのでしょう。
そうか、私はそういう風に知られたかったのか、と思いました。
そこかしこで咲くソメイヨシノのように・・。
って、それはキレイに言いすぎでした。
*出てきた本です。
『ソメイヨシノは、実をつけない 新宿二丁目的青春』(久美沙織、福島光生、藤臣柊子、メディアファクトリー、1995)
『母さんがどんなに僕を嫌いでも』(歌川たいじ、エンターブレイン、2013)

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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