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「趣味と商売」

茶屋ひろし2013.06.23

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十年ひと昔と言うなら、私はもう、ふた昔以上過去を持っていることになります。
大阪に帰ってきてから、そのことを確認する日々が続いています。高校の時の人たちに会って、ちょうど二十年たったか、と驚き、小学校六年生の時の人たちと会って、いったいいつの話? と指折り数えます(足らんわ・・)。
なにより職場の本屋で痛感しました。私はこの店で働くまで、百田尚樹を知りませんでした。お客さんに「この本ある?」とスマホの画面を見せられて、モモダさんを探してしまいました。本当はヒャクタさんで、目の前にうずたかく積まれていました。
新人作家の本を並べる時に、この道四十年の店長から「このひとは、男? 女?」と訊かれて名前だけで答えられません。略歴を見て、「じょ、女子大卒、って書いてます!」と焦ります。
本屋にはしょっちゅう行っていたはずなのにおかしな話です。見たいものしか見ていなかったのでしょう。今まで関心を持ったことのない車やバイクの雑誌を、一から覚えるのは仕方ありません。けれど少なからず関心のあったジャンルでさえ、この有様です。フロアーの違うコミック店に行けば、もはやそこは別世界でした。
私は自分のことを長らくマンガ好きだと思っていました。それを撤回しなければいけないほど、置いてあるマンガのほとんどを知りませんでした。
文庫化された作品や、復刻版に愛蔵版を除けば、ほぼ、この十年間に書かれた作品ばかりで、それでも七十坪の店を覆うくらいはあります。2002年の作品を検索すると、注文は出来ますが店頭には置いていないことがわかります。近所のブックオフで、その全巻セットを半額以下で見つけて、そういうことか、と納得します。
それにしても、これまで私は何をしていたのでしょう。
と嘆くほどでもありませんが、ちょっとした浦島太郎の気持ちになります。
休憩室から聞こえてくる二十代のスタッフたちの会話がわかりません。マンガの話をしていることは、ぼんやりわかりますが、単語がほとんどわかりません。いや、ゲームの話かもしれません。いや、アイドルか・・。
「僕はオタクですから」とか、「テレビはアニメしか見ません」と、シレっと言う彼らが新鮮でたまりません。
その内容はわかりませんが、盛り上がり方はよくわかります。私だって、『ガラスの仮面』の話をしたら止まりませんから。それ、あの時のマヤの演技を真似して笑っているようなものでしょう、今、月影先生の台詞を言ってみたんでしょう。アイテムはもちろん紫のバラね。ばあや、クイーンメリーでもよくてよ。
というわけで、私も盛り上がりたいと、同年代の女性スタッフ二人に、『ガラスの仮面』の話をもちかけてみました。昔を思い出す形で食いつきは良好でしたが、行き違いもありました。今も進行している物語の話になったとき、彼女たちが読んでいないことを知りました。「大人になっても(単行本を)買い続けている人に初めて会いました」と笑います。
「嘘でしょう? どうして追いかけていないのかしら」と信じられない私です。じゃあ持って来るから、と実家に姉と私のダブルで揃っている中から綺麗目をそろえて、ここ十年分を休憩室に備えました。
それを見た若い子たちが、「ガラスの仮面やー」と言って通り過ぎます。タイトルは知っていても読んだことがない二十代です。彼らが普段盛り上がっているもの(何かは知りませんが)をイメージして、「読んでみる?」と薦めなくていいか、と思いました。もう十分に、自分が楽しめるものを知っている人たちです。
書店の会議では、売り上げの低迷が議題に挙がりつづけています。以前、書かせていただきましたが、ウチの店は共産党を支持する人に向けた品揃えもしています。
社会科学書と呼ばれるジャンルでは、共産党系の書籍と、それ以外のものを織り交ぜて展開しています。これまで様子を見てきて、共産党系の人はそれ以外の出版社に関心を持たない人が多いな、という印象を受けました(会議に提出するレポートのようですが)。
共産党系の本、とざっくり言っていますが、それは、社会を変えていこう、問題を解決していこう、というテーマが多く、様々な社会問題を取り上げています。ただ、どれも似たようなテイストを感じるという意味で、これは趣味の世界に近いのではないか、と思い始めました。
それは変革という趣味の世界。ちょっと意地の悪い声で、「やつらは本当に世界を変えようとしているわけじゃない。変えようとしている自分たちが好きなだけさ」と言ってしまえるような感じです。
そう考えると、その棚に他のテイストはいらないような気がしてきます。「居心地の良い趣味の世界として棚をつくったら、売り上げがあがるのではないか」と提案してみました。
共産党系以外の社会科学書はどうなんだ、それは趣味じゃないのか、と問われると答えようがなくなってきますが、趣味でなにが悪い、と開き直ることもできるかと思います。
けれど私は、趣味だけじゃなく、あのヘイトスピーチを止めてほしい、とも思っていて、あれも表現の自由だとか、ややこしいことを言う人もいますが、あれは、街中でナイフを振り回す人がいても、表現の自由だと言って好きにさせておくのか、に近い問題だと思います。秋葉原の事件とか、交通事故は犯罪です、とか。
人は自分の好きなことにお金を使うものだとして、コミック店で『俺の妹がこんなに可愛いわけがない。』というライトノベルがたくさん売れて、食べさせてくれてありがとう、とレジを打ちながら思っていて、「ネトウヨ」がカンパで資金を得ていると本で読んで、同じことか、いや、違うはず、と思いたくて、妄想なんて家の中で消費するだけで十分なのに、公道に出てきちゃったのはなぜか、と話を逸らして、それは、彼らは妄想ではなくこれが現実だと思って叫んでいて、趣味にも商売にもならないことをやっているからか、と思いました。だとしたら、止めるには、他の現実を見てもらうしかないのかもしれません。読んでよ、本。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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