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「愛国は自己啓発」

茶屋ひろし2013.11.11

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本屋で働き出して困ったことは、読みたい本に会いすぎて、時間と金と頭がついていかなくなることです。雑誌も含めて、あれもこれもと、近いうちに購入しますから、とレジの後ろに取り置いてもらっているのに、買うのはまたそれらとは別の、その日に出た新刊だったりして、ここは私物を置く場所ではありません、すみやかにお買い上げいただくか、返品するか、棚に戻してください、と注意を受けて、ぜんぶ買うほどの余裕もなく、いま選びきる自信もなく、狼狽する、ということを繰り返しています。
店の棚に並んでいる状態で、そのうち買おうと思っていたら、すぐに忘れます。そのうえ知らぬ間に返品されていたら、もう、なかったことになってしまいます。すぐに忘れるようなものは大したものではないわな、と脳内でしたり顔で言うおっさんもいますが、なんでもかんでもすぐに忘れるこの頃では、逃がした魚は大きいということになるんじゃないの、と斜にかまえてしまいます。それに、大したものじゃない本も買いたい。
そんなことを思いながら、昼休みには近所のブックファーストで、うちの店に入ってこなかった新刊本をみつけて買ってしまいます。しかも「ネトウヨ」本を二冊も。それよりもっと読みたい本があっただろうに、キャッチーな様子に惹かれてしまいました。
『女子と愛国』(佐波優子、祥伝社)と、『日本一わかりやすい保守の本』(KAZUYA、青林堂)という本です。残念ながら読み通すことはできませんでしたが(すみません)、イメージで語ってしまうと(もっとすみません)、著者も含めて「愛国活動」に専念する女性たちを取材した前者では、子どものころに受けた学校教育で、南京大虐殺や「慰安婦」の強制連行、国内での特高の拷問の様子などを知って日本を大嫌いになったが、大人になるにつれ、本やネットでそんな事実はなかったと知って愛国者になった、という女性たちが紹介されていて、トラウマの話か、と思いました。
前にヘイトスピーチについて書いたとき、読んでよ本、と誰かに向かって偉そうにまとめてしまいましたが、間違えていました。どうやら愛国者の人たちはネットだけではなく、本もたくさん読んでいるようです。まさかの修正主義の本たちでした。個人的には、『ゴーマニズム宣言』が源流だと思っていますが、94年ごろってそういえば、「新しい歴史教科書をつくる会」が跋扈していて、関連本がたくさん出ていました。分厚い本を無料で人ん家のポストに配布した、なんて都市伝説のような話も聞いたくらいです。
後者の88年生まれの男性の本は、なんだかせわしなくて「左翼のクソども」と元気はいいけど、どっちがデタラメだ、というような修正主義の連続で、よくこの内容で、出版する会社も会社だな、と思ったら、お金の匂いまでしてきました。
そう、売れるんです。じっさい私も買っていますが、竹田恒泰の新書とか(朋美、逃げて!)、『日本が戦ってくれて感謝しています』(井上和彦、産経新聞出版)という「大東亜戦争」を賛美するようなタイトルと内容の本が、平積みにしていると売れていきます。アジアの国々が感謝しているらしいっすよ店長、と言えば、信じられませんね、と答えながらも、十冊追加を出しておきました、と返ってきます。
前回のコラムで、新ジャンルとして立ち上げるべきだなどと書きまして、その旨を店長にも伝えたところ、その必要はないと思います、と却下されました。
私としては、一箇所にまとめてしまいたいジャンルなのですが、店長は店内に撒いてしまいたい派で、「そもそもこの本はそう、これは違う、と分けられるものですか」と疑問を呈してきます。「わかると思います」と答えると、「じゃあ、あの宝島の本はどちらですか」と訊いてくるので、「ですから、明らかにそれといった本のことです(わからない・・)」と抽象的に弱気になってしまいました。
そうした攻防はさておき、ジャンルはいったいなんだろう、と改めて思うとき、時事か思想か歴史かノンフィクションか、どれも違うような気がしていましたが、案外、自己啓発かもしれない、と思うようになりました。
このあおり方、うさんくささ、同じことを繰り返す方法・・国を愛したいんじゃなくて、自分を愛したいんじゃないの、国や歴史をアイテムとして利用するのは、箔がつくような気がするから、正しいことを言っているようで気持ちいいし、仲間増えるし、本にまでなるし。
それに便乗しようと、「大した私」になりたい人々が購入していくのではないでしょうか。誇りを取り戻す! みたいなことでしょうか。
「はだしのゲン」がトラウマになった、という話は理解できます。子どもの頃に何回も読んだ作品ですが、今回の騒動で、じゃあ久しぶりに読んでみよう、という気持ちにはなりませんでした。つらい気持ちにもなるからです。
けれど、それで傷ついたとか、恨んでやる、となる回路がどうしてもわかりませんでした。傷ついたのは「ゲン」でしょう。
自傷から、悪意ある金儲けまで、透けてみえる理由にはいろいろとありそうですが、「国家」を「いい人」のように擬人化して、身にまとうところは共通していて、簡易コスプレのようにも見えます。
『伝え方が9割』(佐々木圭一、ダイヤモンド社)といったタイトルの本たちと並べておけば、しっくりいくような気がしてきました。新ジャンルを打ち立てるまでもないかもしれません。
ただ、店長には、「意味がわかりません」と言われそうです。

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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