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「テレビドラマと父」

茶屋ひろし2013.09.22

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「あまちゃん」がいよいよ終わるようで淋しい気持ちです。休みのたびに録り溜めていたものを見ていました。朝ドラを全部見ているのは初めてです。宮本信子にキョンキョンと、見たい人がたくさん出ていることもありましたが、なにより官藤官九郎が脚本を書くことに惹かれていました。見始めたら楽しくて、クドカンはすごいなー、天才だわ、と思いながら見ています。宮崎駿は、時代に追いつかれた、と引退宣言をしていましたが、クドカンは追いつかれるもなにも、別世界を走っているように見えます。世界をこんなふうに切り取ることができるなんて・・、という新鮮さをいつも感じます。
時々、本を読むことが億劫になってしまうときがあります。読んだら絶対に面白いはず、と思っているような本に対してです。そんなときは、誰かが朗読してくれないかな、とか、もうすでに読んだあとの自分になってしまえないか、などと埒の明かないことを思って、ゴロゴロしているうちに寝てしまいます。本の内容に自分の気持ちを沿わせていく作業が面倒くさくなるようです。
クドカンの書く台詞には、その億劫さを払拭してくれる勢いがあります。
自ら参加しなくては楽しめない作品と、参加しなくても参加したような気になって楽しめてしまう作品があるとしたら、私にとってクドカンドラマは後者です。描かれる世界がユートピアに見えるからかもしれません。
東京オリンピックも、喜んでいる多くの人にとっては後者のようなイベントなんだろうな、と思いつつ、汚染水漏れや、仮設住宅二年目のニュースを見ていると、オリンピックにお金を使っていていいの? という疑問は拭えません。楽しい気持ちになってお金が廻るどころか、被災地がなかったことにされそうです。
出勤するときに降りる駅の出口に、スキンヘッドの女性がいます。年齢は六十代から七十代に見えます。赤くて小さなキャリーバッグと、枕ほどの大きさの包み三つが、彼女の所持品のすべてのようです。
寝場所は駅前のベローチェの入り口付近で、夜に帰る頃には頭からブルーシートをかぶって寝ています。細い足がそこから出ていて、誰かに踏まれないかと気になります。
私の父もずいぶん前から彼女のことが気になっていたみたいで、一度NPOの人を通じて、寝袋を差し入れしたことがあったそうですが、断られた、と言っていました。気の毒でかなわん、と顔をしかめます。
先日、駅から少し離れた高架下に荷物が移動していたので、どうしたのだろうと思っていたら、その夜はそこで寝ていました。人や自転車がよく通る場所なので、さらに轢かれないか心配になりました。翌日もその場所で寝ていたので、ベローチェの入り口から立ち退かされたのかもしれないと思いました。
ある朝は植え込みにもたれて座って、マクドナルドのハンバーガーを手で細かくちぎって食べていました。陽差しの強い日は大き目のサングラスをかけて、雨の日は地下で柱にもたれています。
彼女のことを気にかけている人がたくさんいたらいいな、となんとなく思います。そういうことで無事でいられることもあるような気がするからです。
この夏はアトピー性皮膚炎がひどくなりました。暑いせいだわ、と放っておいたら、病院に行けと、父に言われました。ウチの出版部で本を出したことのある先生が、尼ヶ崎の病院にいるそうです。暑い日差しを日傘でよけながら知らない町を二十分ほど歩いて辿り着きました。
待合室には、その先生が書いているチラシが山ほどおいてありました。アトピーについての見解が記されているようです。
それによると、長年の診療と研究の結果、アレルギーと違ってアトピーは水や食べ物が原因ではなくストレスによるものという結論に至った、と書いています。
これでは診察を受ける前に、診断されたようなものです。
開口一番、「なんで、わざわざここまで来たの?」と言われました。著書の話をすると、「なんや、息子さんかいな。ワンマン社長の二代目はストレスで苦労するもんなんや」と、二言目で結論が出てしまいました。パソコンに、「ナントカ書店の息子さん」と打ったあと、「笑う角には福来る、って、昔から言うやろ」と言いながら、そのことわざも書き込んでいます。「そしたら軽めのステロイド軟膏を出しておくから、塗ってみて」と診察が終わりました。近所のおっさんか・・、と思いつつ、そんなもんだろう、と病院を出ました。
顛末を聞いた父は、「ストレスのない人間なんかおらんで。それはちょっと適当すぎるんやないか」と憤慨しました。私はそろそろこの家を出ようと思いました。
しばらくして涼しくなってきたので、集中的に部屋を探し始めました。大手の不動産屋で何軒か見せてもらい、これかも、と思う物件に当たりました。手付金も払って契約書を持って帰り、連帯保証人になってもらう父に見せると、保証会社の契約内容に納得がいかない、と判を押しません。不動産屋が提携している、借主と保証人の審査をする会社のことです。指摘されたところを読むと、たしかに個人情報の扱われ方に疑問が湧きました。けれど、気に入った部屋だったことと、もうそろそろ決めたかった疲れも重なって、気持ちが落ちてしまいました。
「世の中には悪い奴がおるからな。なんでもホイホイ聞いていたらあかんぞ」と諭されました。担当してくれた不動産屋の若い男性には、「そんなの、保証会社の審査が入らない物件なんてありませんよ」と電話口で責められました。
赤みは消えましたが、突っ張った感じになっただけで、涼しくなってもアトピーはあまり良くなりません。
書店でもよく売れている「半沢直樹」は最終回だけ見ました。銀行への体質批判が東電のことのようでした。銀行員たちは、いつのまにか自分のお金の話ばかりになって、事が起きた時は誰も責任を取ろうとしない。一人の悪者より、彼を生み出すことになった背景のほうが手に負えない。「マルサの女 2」の結末を思い出しました。

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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