ラブピースクラブはフェミニストが運営する日本初のラブグッズストアです。Since 1996

「勝ち負けか」

茶屋ひろし2014.01.28

Loading...

秋に引っ越してから、ずっと部屋の隅に積んでいたダンボールの荷を、年をまたいでようやくほどきました。新宿を離れるときに、部屋のほとんどの家具を捨てたため棚がありません。ダンボールの中身は、本棚を買ってから空けよう、と思っていた本やCDです。けれど、他に優先しなければいけないものが多々あって、なかなか本棚を買う余裕が生まれません。そのため、壁一面に積まれたダンボールと暮らす日々が続いていました。
引越しセンターのロゴや、「むぎ茶」と大きく書かれた筆文字、そしてくだものの「文旦」とその絵・・、ダンボールって即席感がぬぐえません。「倉庫やないんやから」と、やっと捨てる気になりました。
本もマンガもCDも、すべて箱から出して壁際に積んでみたら、ダンボールのままよりも威圧感がなくて拍子抜けしました。これからは埃がかぶってしまいますが、もっと早くこうすればよかった、と思いました。タバコを吸っていた頃に棚に並べていた本たちは、古本というだけにはとどまらない無残な姿になっていますが、好きだった本には変わりありません。もう知っているのに、目に入るタイトルがいちいち気になって胸がうずきます。
その中に、『ぷちナショナリズム症候群』という香山リカさんの新書があって、「プチだったわー、あの頃は」と、奥付を見てみると2002年でした。それから10年余り、プチどころか首相が好戦的な発言をする世の中になってしまいました。
なってしまいました、なんて、他人事みたいに言ってはいけないのでしょうが、そんなこと頼んでいませんよ、というような発言が、テレビに映るたびに聞こえてくるので、びっくりしてチャンネルを換えてしまいます。
一年前まではその存在を知らなかった百田尚樹さんも、『永遠のゼロ』の文庫本が売れに売れて、去年に引き続きずっと平積みのままで、今ではすっかり当たり前の光景となりました。小説が売れる一方で、「右傾化」発言も盛んにされているようで、そちらの活動もよく目にするようになりました。
売れてありがたい話ですが、入り口を入ってすぐに、彼と曽野綾子さんが積まれている状況に、なかなか気持ちは慣れません。
先日は、その隣に置いてある櫻井よしこさんの新書を手にした60代くらいの女性が、正面から突風を浴びているような髪型の写真(帯)に、「さすが・・いいお顔をなさっているわ」と感嘆していました。ええ、たしかに威風堂々です。
一般書のベストセラーがこの調子なので、店の奥に積まれている共産党の本たちと、見事な対比が生まれているように見えます。
共産党支持のお客さんたちは高齢化がすすんでいるせいか、そんなに大きな店ではありませんが、奥まで行くのが億劫らしく、レジに来て欲しい本を告げて店員に取ってきてもらう方が増えています。入り口付近にも置いておきたい気持ちもありますが、それだと一般書を拡張した意味がなくなってしまいます。
イメージ戦略です。
わざわざバランスをとっているわけではありませんが、それでも奥と入り口付近で、零戦関連も含めると6対4くらいになっています(なんのこっちゃ)。
店の中央には、フェアを展開する棚があります。秋口から、一月始まりの手帳と今年のカレンダーを置いていました。
共産党も、赤旗手帳といわさきちひろのカレンダーなどを毎年発売します。
その手帳は毎年100冊ほど売れるのですが、店にその在庫があるかどうか、確認の電話をかけてきた男性は真剣な声で、「買いに行ったら、捕まりませんか」と訊いたそうです。応対したスタッフが笑いながら教えてくれました。
このご時世、笑いごとじゃないかもしれませんよ、なんて私も笑いながら、それはちょっと弱腰だわ・・、なんて思ってしまいました
そうしたら、櫻井さんほど髪の毛は立ってはいませんが、世代も目力も同じくらいのマダムがレジにやってきて、ぽん、と不破さんの本をカウンターに置くと、「これを10冊ちょうだい」と言い放ちました。
新刊はそれこそ30冊は揃えていますが、昔の本はあまり動かないので、1冊ずつしか置いていません。「お取り寄せになります」と答えたら、マダムは信じられない、というように目を丸くして、勢いよく話し始めました。
「どうして置いていないの? 前は置いていたでしょう。こんな・・、(と、入り口付近の雑誌や一般書をぐるりと見渡して)どこにでもあるような、どうでもいい本ばかり置いていてもしょうがないんじゃないかしら。もっとこういう良書をたくさん置くべきだわ。近頃は三省堂にすら置いてないのよ。まったく、あそこもどうかしちゃったわ。あなた、せっかく取り扱っているんだから、こういうところで差別化を図って、上手く立ち回らなくちゃダメじゃない」
力強い励ましに戸惑いました。それ(共産党)だけだとやっていけなくなったから、一般書を増やしたんです・・、と思いながら、そんなことを言うわけにもいかず、「どうもすみません」と口ごもっていたら、「いいわ。本部に頼んだほうが早そうだから」とその1冊だけ買ってくれました。
あとで、すごい女装言葉で、大阪弁でもなかったことに気がつきました。
何者・・? いやしかし、彼女ならよしこに勝てるかも・・、としょうもないことを思いました。

Loading...

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

RANKING人気記事

Follow me!

  • Twitter
  • Facebook
  • instagram

TOP