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救急車と私

アンティル2014.11.20

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病院で目が覚めると、私は管人間になっていた。口と尿道にチューブが入れられ、異物が入ったカラダに水分を流し込んでいた。処置室には、男の医者と看護師2名。そして友人とSがいた。


その日、私は私の落ち込みように心配していた友人と飲みに行く約束をしていた。1時間経っても待ち合わせ場所に来ないことを心配して、友人は私の家にやってきたのだ。チャイムを鳴らしても私は出ない。しかし、友人はこの時、妙なカンが働いたという。ベランダ側に回り塀を乗り越えて友人は窓を開けた。小柄なその友人は、ただ必死に塀を乗り越えた。そしてそこには、ぐったりとした私が床に落ちていた。


救急車の音が遠くで聞こえていた。『あー大変なことになったちゃったなー』。そんなことをぼんやり考えながらまた深い世界に引き込まれて行った。『このままここにいたいなぁ?』そう思っていた時、私は救急隊員の言葉で現実に戻っていった。


「この幅じゃ、担架通れませんね。」


救急隊員が友人に話している。『通れないなら、私がどうにかしなきゃ。起き上がればいいの?もっと横になって小さくなればいいの?』頭が現実に戻されてもカラダはどうにも動かない。目すら開かない。私は心配しながら救急隊員の言葉を待っていた。


「だめですね。外傷はないみたいなんで、私が抱きかかえましょう。」


『あぁー知らない男にお姫様だっこされるのか。なんか嫌だなぁ』
そう思いながら、私はまた暗く深い世界の戻っていった。


友人は、Sを呼んだ。Sの動揺する声が聞こえる。たぶんもう目は開くのに、私は目を開けることがどうしてもできない。管を通された私がいる現実の世界。さっきまで違う人と一緒に愛を語り合っていたSが、私の前にいる。何よりもそれは私が置かれている状況をリアルに突きつける。『あぁーあの世界に帰りたい』


上と下から体内に入った異物を吐き出す、そして点滴を入れられた手を医者が叩きながら語りかける。
「アンティルさん!聞こえますか?!」
「はい」
いつまでも目をつぶっているわけにはいかない。私は目を開け、声を上げた。


「アンティル」
Sは泣いていた。


私はただただ逃げたかった。この世界から逃げたかった。どんなに好きになっても私の未来には、人に祝福される恋などない。私が私のままで生きるということ、それは孤独と引き替えだ。私は私の生き方に絶望していた。その絶望はさらなる絶望を乗せて私と現実を縛り付ける。


即日退院となった私は、友人の家に引き取られて行った。

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アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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