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「真に受ける」

茶屋ひろし2014.12.23

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大阪に帰ってきて実家にいた一年くらいは、今までしたことのないことをしてみようと、毎回違う美容院に行ってみました。少し自転車を走らせると、コンビニとパチンコくらいしか目立った店がないと思っていた線路沿いの10メートルおきくらいに美容院がありました。
静けさのわりには激戦区・・・、お店のデザインで、世代や性別で分かれている様子も伝わります。
ある店では、マッサージをさせてくださいと、見習い風の女の子がほとんどひざまずいて、水で荒れた赤い手で、右の手のひらから指先、手首、二の腕、そして肩まで、丁寧に揉みはじめたので、ちょっとそれは勘弁、と居心地が悪くなりました。断りきれなくて、左側もされてしまいました。
頭のてっぺんから、両手を軽く合わせてカスタネットのような音を立てながら、肩まで降りていき、それからぐいぐい大きく肩を揉む、というマッサージを受けたことはありましたが、腕を揉まれたのは初めてでした。
どちらかというとマッサージをされるのは苦手で、二回目からは断ってしまいますが、どうしても一度は試してしまいます。
どんなんだろう、とすぐに思ってしまうからです。
気持ちよさよりこそばゆさが勝ってしまうことと、サービスされている時間がいたたまれないことが苦手とする理由ですが、腕揉みマッサージは、王子や女王が侍女や下男に足を揉ませているといった往年のマンガで見た気がする光景が浮かんで、どちらの気分も倍増でした。
先日のNHKの集金もそうでしたが、目の前でひざまずくのはやめていただきたいものです。
今の家に越してからは、近所にあった二軒の美容院に行きました。
どちらも待つところに『きょうの猫村さん』が置いてあって、どうしよう、と迷いました。
通うのはどちらかでいいな、と思いましたが決め手に欠けました。
内装はどちらも、クウネルとかナチュリラっぽい今井美樹で(90S)、スタッフの年齢も若い・・・、結局、人が少なくて静かなほうを選びました。
もう通って一年になるその店へ、投票に行こうと思った休日に、髪を切りに行きました。美容師のお兄さんは、「せっかくの権利は行使しないといけませんよね」とカットしながらうなずきました。
私が、投票所が近所の小学校で、通ったことのないところだけどなぜか懐かしくて、そこまで歩いていく感覚が好きだ、という話をすると、「期日前だったら市役所じゃないですか」と指摘されました。その日は水曜日でした。
その流れで、あの投票所で働いている人たちは公務員なのか、という疑問がわいて、いや、近所に住んでいる良心的な人たちがボランティアしてるんじゃないの? とか話しているうちに、そしたら朝の登下校に合わせて黄色い旗を持って横断歩道にいるおじさんたちはどうなの? ということになって、二人とも回答を知らなくて、「世の中にはまだまだ自分の知らないことがたくさんあるな」と28くらいの彼はつぶやきました。そして、父親が祖父の介護をしていたときもそう思ったけど・・・と続けました。
私たちも年を取ったら黄色い旗を持ってるかもね、と投げかけたら、「いや、僕はあれくらいの年になってもずっと働いてると思うんで、できないと思う」と笑います。
そうか、あれは定年を迎えて年金で食べていける余裕のある人たちに回ってくる仕事なのね、と知らないわりには知ったような口調になってしまいました。
なんとなく、持ち回りだわ、と思っていた自分が恥ずかしくなりました。
そのあとつい、仕事の愚痴をこぼしてしまい、「大変ですよね」なんて、なぐさめてもらいました。
先日、ウチの書店で5年ほど働いてくれているアルバイトの男性に、時間通りに来てね、とか、あまりレジで駄弁ったりしないでね、とか、出勤したら挨拶してみるといいよ、とか、個人的に面談したの、と友人に話したら、
「それはひどいね。だって会社としては、その彼を正社員にするという約束もできないんでしょう? 彼の生活も保証できてないのに、安い時給で、あれもしてこれもして、と言ったところで伝わらないでしょう。順番が逆」
と非難されました。
たしかに、「非正規」という言葉の意味がそもそもわからないもんね・・、と同意しました。
一方で、その彼よりもう少し長く働いている別のアルバイトの男性は、すすんで残業をしてくれます。あまり残業させないようにしなくちゃ、とあれこれ対策を立ててみますが、彼は嫌々しているというより、これは自分の仕事だからちゃんとしたい、そうすると時間が足りない、という理由で残っているので、私と話が噛み合わなくなります。
できることなら二人とも社員にしてあげたい。「アベノミクス」が何をしてくれているのかはよくわかりませんが、手前でできることがあれば、と悩みます。
儲けを出すために画策するなかで、年明けにお客様に向けてアンケートを取ろうという話が出ました。今までしたことがないそうです。
項目を作るのは初めてです。性別欄を、男、女、その他、に分けたところ黙認されました。もう1人の社員の男性が、職業欄に、「主婦」と入れてきて、そうね、職業・・・、と戸惑っていると、「主婦」のスタッフの女性が、主婦は専業かアルバイトに分けて聞いたほうがいいと思います、使えるお金が違うから、とアドバイスをくれました。
そういえば、ウチで働いてくれている学生以外のアルバイトの女性たちに尋ねると、ウチで社員になりたい気持ちはないようで、希望がないからだわ、と真に受けました。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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