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「2テンポの遅れ」その1

茶屋ひろし2015.02.17

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職場の書店は地下にありますが、地上には、商店街に向けて立て看板を出しています。キャスターが付いていて中に蛍光灯の2本入った、その看板のコンセントを抜き差しするため、開店と閉店時に表に上がります。
ある夜の閉店時に、看板を仕舞おうとエレベーターに乗ろうとしたら、ヒールを履いてドレスアップした女性が後ろからやってきて、一緒に乗るわ、と思うのと同時くらいに、酔った若い(ちゃらい)スーツ姿の男性が、私たちの背後からなにやら彼女に声を掛けながら駆け足でやってきました。
あ、と思った瞬間、3人はエレベーターの中へ。
彼は、彼女に「これからどうするの? 一杯行かない?」とエレベーターの中で、ナンパを始めました。彼女は困惑気味に断ります。
「友達が上で待ってるから」
「そうなの? 良かったら、その友達も一緒に」
と、男は諦めません。
やだ、うざい。と、書店のエプロンをしたまま、私は無表情でした。
乗ったのは地下2階なので、地上の1階にはあっという間に着いてしまいます。
なんとなく、開くボタンを押して2人を先に降ろしてから、私は右方向へ看板に向かいました。地上は、人々の嬌声で盛り上がっています。
コンセントを抜いたあたりで、あ、と気がつきました。
大丈夫かしら、あの人、と彼女が気になったのです。
振り向くと、どちらの姿も、もう見えませんでした。
気づくのが遅かったわ、と反省しました。
私が、店名の書かれた名札をつけた青いエプロンをしていたことが大きかったように思ったのです。
降りた後、しばらく様子を確認するべきでした。
くだけた様子でナンパしてくる男と一緒にエレベーターに乗ることへの、迷惑と恐怖を、私はわかってなかったわ、と想像しました。
ちゃらい彼をうざいと思ったまでは良かったのに、そのあとがいけてなかった・・、それに、彼女のことを、「きれいな人だから慣れてるんじゃないかしら、こういうことに」と一瞬、思ってしまったのも良くなかったわ、と、なんでしょう、思い込みの連続で、結局、その出来事に関わりたくなかった自分が浮き彫りになりました。
書店では、「ここで作業していると、時々お尻を触られるんですよ」と同い年のスタッフから教えられます。店の真ん中辺りのわずかなスペースに作業台を置いて、彼女はそこで立ったまま作業をするので、時々前かがみの格好になります。そのとき、後ろを通るお客さんが触っていくのだそうです。たいていは高齢の男性だと言います。
「そんな、触られたからって騒ぐような年でもないし、お尻を触られるくらい、はい、そうですか、ってなもんですけどね」
と彼女は笑いますが、それは嫌でしょう、と素直に思います。
あとから、そういうことを男に言うのは、とても難しいものなんだろうな、と思いました。
共感を得られないという前提で、自意識過剰だと結論付けられずに、対策を考えてもらうように話を持っていく、という面倒な技術が必要なんじゃないか、と想像します。
場所としては便利ということなので、ひとまず、そのちょっと出っ張った作業台を、一回り小さな机に交換して後ろの通路をこれまでより広く取って、小さな丸椅子を用意して、作業するときは座ってやってください、触られたらすぐに私に報告してください、とお願いしました。
すると今度は、昼休みの時間帯にやってきて、彼女のそばに寄って来る若い男性が現れました。
「特に何かされるわけではないんですが、気がつくと近くにいるんです」と、気持ち悪い、よくわからなくて怖い、ということです。
防犯カメラで録画した映像で確認すると、長めのおかっぱ頭で黒いメガネをした男性が、たしかに、何をするわけでもなく、彼女の近くに立っていました。
その姿は、六角精児か、大木凡人・・(六角は好きです)。
週明けに来ることが多いというので、来たら知らせてください、とそのことを他のスタッフにも伝えて、みなで待ち構えていると、火曜日のお昼にやってきました。ぬぼー、とした様子で20代に見えます。手にはコンビニのお弁当をぶら下げていて、格好はラフな感じです。
ここはビジネス街なので、近所に住んでいるというより、近所で働いていて、昼飯を買った帰りに寄っている、ぽい。レジに逃げてきた彼女を追いかけるように近くまで来て、雑誌なんか立ち読みしています。確かに、何をするわけでもないけれど、彼女の動きを気にしています。
私が、「声をかけようかしら」と言うと、うーん、とみな首をひねります。何もされていないようなものだから、何て言えばいいのかわからない、私もどう言えばいいのか、わかっていません。
ひとまず彼が来たら、私なり社員を呼んでもらって、彼女との間に立つか、彼の前や後ろを通って、「いらっしゃいませ」と声を掛けることで、様子を見ることになりました。それで、彼も、逆に見られていることがわかれば遠慮してくれるようになるかもしれません。下手に、何なのあんた、と強く出て、逆恨みされたら、帰り道なんかに、彼女に危害が及ぶ可能性もあるかもしれない、と考えました。
ところが、その後も彼は、一向にこちらの視線に気がついてくれません。
(続きます・・すみません)

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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